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「東京五輪」に求められるサービスとは

杉山茂樹スポーツライター
チャンピオンズリーグ決勝 @Wembley,London

いま僕は、チャンピオンズリーグ決勝の取材でロンドンを訪れているのだけれど、嫌になってしまうのは、ホテル代の高さになる。普段なら1万5、6千円で泊まることができるホテルが4万、5万円もする。

決勝のカードは、ドルトムント対バイエルン。会場であるウェンブリー・スタジアムの収容人員が約8万7千人なので、少なく見積もってもドイツ人を中心に6万人以上の外国人が、ドーバー海峡を越えて現地を訪れたことになる。

ロンドンは欧州にあっては、パリと並んで「懐の深い街」として知られている。観光客を収容する底力を備えているが、サッカー関係だけで6万人以上が訪れるとなると、さすがに余力はなくなる。椅子取りゲームではないけれど、空きはみるみるうちに埋まっていく。

典型的な売り手市場だ。ホテル代が高騰するのはその市場原理に基づけば当然の話。W杯、五輪等、スポーツの国際イベントを取材する際は、よって常に悪戦苦闘を強いられる。日本のお正月に、わざわざ観光地に出かけ、お泊まりするのと同じだ。

およそ半月後、コンフェデレーションズ杯の取材で今度はブラジルを訪れる予定でいるが、この期間中のホテル代もまた異様に高い。ふざけるなといいたくなるほどだが、残念ながら、スポーツイベントを取材するライターの宿命だと、納得するしか手だてはない状態にある。

しかし、日本国内でこの手の経験をしたためしはない。少なくとも記憶にない。チャンピオンズリーグのような、外国から多くの観光客を招いて行う世界的なイベントが、少ないからかもしれないが、いずれにせよ、普段泊まっている料金の4、5倍払った経験はない。「お正月料金」だって、せいぜい2倍ってところではないだろうか。

2002年日韓共催W杯期間中、僕は日韓両国を6往復し、韓国にもおよそ半分滞在したが、そのホテル代は明らかに通常より高かった。1.5倍から2倍近い感じだった。2008年の北京五輪では6、7倍だった。通常3500円のホテルに、2万円で泊まった記憶がある。

韓国、中国には欧米諸国同様、値段をつり上げる風習がある。ということは、その習慣がないのは、世界的に見て日本だけではないか。僕はこれまで(自慢するわけではないけれど)60か国以上の国を訪れた経験がある。W杯、五輪など、ビッグイベントも数多く取材してきたが、通常の何倍もするホテルに泊まるたびに、日本人はそこまでせこくないと、密かに訴え、胸を張ってきた。調べたわけではないけれど、それこそが日本人が自慢できる点ではないかと、回を重ねるごとに、強く思うようになっている。

「期間中の宿泊代は通常価格です」

これはセールスポイントになると思う。東京五輪五輪招致の、である。

逆に、痛いなと思うのは「期間中地下鉄を夜通し動かす」と、いうアイディアだ。都知事を始めとする、東京の招致関係者は、そういって胸を張るが、そこは胸を張るべきポイントだとは思わない。世界的に見てそんなことは当たり前。常識的サービスであるにもかかわらず、それをわざわざ口にするのは格好悪い。世間知らずに見られる恐れがある。

「首都圏の乗り物代無料」と宣言しても、世界の人はたいして驚かないはずだ。これまた当たり前すぎて、訴求力に欠ける。

「新幹線代無料」。東京五輪で日本を訪れた際には、新幹線で日本中を旅行してくださいというくらいでないとアピールにはならないのだ。

言い換えれば「ホテル代は通常価格に抑える」は、それに迫るほどの有益なサービスだと思う。

自らのセールスポイントは、世界のサービスの常識と比較しながら模索するべきである。ウィークポイントもしかり。東京五輪招致に関していえば、どうもそこのところに甘さを感じる。

現場感覚のない人が、日本の常識に照らしてサービスの内容を考えても、外国人旅行者がありがたみを実感できるサービスを提供することはできない。僕はいまロンドンで、つよくそう思っている。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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