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連続完封でも、CL100戦出場でもなく…ジャンルイジ・ブッフォンが偉大である理由

中村大晃カルチョ・ライター
バルセロナとのCL準決勝第2戦でのブッフォン(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

ユヴェントスとイタリアを代表する守護神ジャンルイジ・ブッフォンが偉大なのは、ワールドカップをはじめとする数々のトロフィーを掲げてきたからだけではない。39歳にしてなお、世界の最前線で戦えるパフォーマンスを見せているからだけでもない。彼の人格が、世界の人々を魅了するのだ。

ブッフォンは3日、チャンピオンズリーグ(CL)準決勝ファーストレグのモナコ戦で改めてその存在感を示した。CL 100試合出場というメモリアルゲームで、新星キリアン・ムバッペらをシャットアウトし、チームにとって6試合、自身にとって5試合連続となるクリーンシートを達成。2-0の快勝に貢献し、悲願の欧州制覇に向けてまたひとつ前進した。

その翌日、ブッフォンがフェイスブックに投稿した長文のテーマは、モナコ戦勝利への喜びでも、セカンドレグに向けて気を引き締めるチームへの檄でも、6連覇が懸かるセリエA次節トリノダービーへの意気込みでもなかった。

ブッフォンが発したメッセージは、4日に68年目を迎えた「スペルガの悲劇」の犠牲者をけがす非道な行為への怒りだった。

「スペルガの悲劇」は、1949年5月4日にトリノ郊外のスペルガの丘で起きた飛行機墜落事故のことだ。当時のイタリアで圧倒的な強さを誇っていた「グランデ・トリノ(偉大なるトリノ)」の選手たちや指揮官を含めた計31名が犠牲者となった。

事故から68年目の4日、トリノは追悼祭を開いている。だが今週、その追悼行事を前に、教会に続く道の壁に「スペルガの悲劇」の犠牲者を冒涜する落書きが見つかったのだ。ブッフォンはこの非道な行為に対して怒りをあらわにしたのである。

犯人は不明だが、トリノのライバルであるユヴェントスのサポーターという可能性もある。ブッフォンは、ユヴェントスにも1985年の「ヘイゼルの悲劇」というつらい歴史があるだけに、犠牲者と遺族の気持ちを踏みにじるような行為は決して許されないと訴えた。

以下、拙訳ながら、ブッフォンのメッセージを紹介したい。

「勝利後の素晴らしい日に僕が想うのは、トリノの“いとこ”たちとそのサポーター、そしてイタリア全土とトリノの人々に誇りを与えたあの栄光の選手たちのことだ」

「グランデ・トリノのチャンピオンたちよ、あなたたちに永遠の名誉を。約70年が過ぎた今でもなお、敬意を欠き、嘲笑するような言語道断な行為でけがれた者たちを許してほしい」

「死者は死者であり、誰のことも苛むことはない。たとえ最大のライバルの敵であっても、彼らに敬意を払い、安らかにさせなければならない。死者たちには妻、子ども、孫たちがいるからだ。すでに苦しんできた彼らに、一瞬でも残忍な苦しみを与えることは、人道にもとるからだ」

「ライバル心、からかう気持ち、郷土愛…人生にはさまざまな感情が渦巻いている。高貴な感情もあれば、そうでないものもあるかもしれない。しかし、おそらくはたいした自覚もなしに無作法で不適切な言葉を記すのは、死以上の死だ」

「今でも、ヘイゼルの39名の天使たちを苦しめるようなことを聞くと、僕は怒りと嫌悪感を覚える。同じ罪で自分たちを貶めることはやめよう。我々は人間だ。人間として懸命に前進すべく、建設的で長続きする種をまいていくには、自分たちで認識しなければならない。ひとつの無作法をされたからと、それに反するためだけに、みじめで無価値な人間となることに甘んじてはいけない」

「時に、犠牲者であるほうが殺し屋であるよりマシなこともある。殺し屋たちは人生に糾弾され、取るに足らない存在という地獄ではいつくばることになるからだ。犠牲者たちは悪に苦しむだろう。だが、理解するはずだ。殺し屋たちと違うことが、真に価値ある人生を送り、競争やライバル関係に何も妨げられることなく、美や良心、尊敬、誠実を伝える人になるための力と自信を与えてくれると」

「ユーヴェのサポーターたち、僕は君たちに言っている。これまで一緒に分かち合ってきたすべてから、僕はそれを言うことができると知っているからだ」

「ユーヴェのサポーターたちよ。僕が君たちのことを本当に誇れるようにしてくれ。ユーヴェのスタイルが、我々の特徴である絶対的でふさわしい価値を示し、それを代表すると考えるのであれば、そう信じるのであれば、これまで苦しみ、なおも苦しむ人たちの気持ちをけがし、冒涜するなど、理解し難いはずだ。愛を、感情を、思い出を、けがしてはならない」

「スポーツにおいても、そして特にスポーツだからこそ、善良な人間でいる必要があると信じる人たちに抱擁を」

「今も、明日も、いつだって、永遠に、FinoAllaFine(最後まで)」

出典:フェイスブックのブッフォン公式ページより

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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