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セリエA最終節のラスト15分で悲劇 失意の降格会長が示した品位は称賛に値する希望の光

中村大晃カルチョ・ライター
明暗分かれたウディネーゼのカンナヴァーロとフロジノーネのディ・フランチェスコ(写真:ロイター/アフロ)

ドラマチックな勝利はファンを熱狂させる。その一方で涙をのむ者もいる。それがスポーツだ。

5月26日に行われたセリエA最終節で、フロジノーネのセリエB降格が決まった。クラブの悲願成就まであと15分ほどだったが、初の1部残留を逃したかたちだ。

■天国から地獄

フロジノーネは勝ち点35の16位で最終節を迎えた。ホームで対戦したのは、同34の17位ウディネーゼ。負けなければ文句なしで残留決定の一戦だ。

エウゼビオ・ディ・フランチェスコ監督率いるチームは、前半からゴールに迫った。相手守護神の好守がなければ先制していたかもしれない。マティアス・スレのFKがクロスバーを叩く場面もあった。だが後半76分、ゴール前でケイナン・デイビスに均衡を破られる。

それでも、希望は残されていた。勝ち点33で18位だったエンポリが、同時間帯の試合でローマと1-1で引き分けていたからだ。エンポリが勝たなければ、フロジノーネはウディネーゼに負けても17位でセリエA残留という状況だった。

ところが、フロジノーネにとっての悪夢はアディショナルタイムに訪れた。エンポリが94分、エムバイェ・ニアンのゴールで勝ち越したのだ。元ミランFWの一発に、フロジノーネは失意のどん底へと叩き落とされる。

結局、フロジノーネは「三度目の正直」ならず。2015-16シーズン、2018-19シーズンに続いて、1年でのセリエB降格となった。閉幕の約15分前まで残留に迫っていたことを考えれば、天国から地獄に突き落とされた気分だろう。

■失望の指揮官

2022-23シーズンのセリエBで優勝を果たしたフロジノーネは、ファビオ・グロッソ監督が退任。サッスオーロやローマでの実績があるディ・フランチェスコを後任とし、クラブ史上3回目のセリエAに挑んだ。

出だしは好調だった。開幕6試合で喫した黒星はひとつのみ。第2節では今季のヨーロッパリーグ王者となったアタランタに勝利した。前半戦で得点がなかったのは4試合のみ。最終的に44得点はリーグ11位の数字だ。

しかし、手痛い黒星も喫した。第10節カリアリ戦では、3点を先行しながら逆転負け。第16節レッチェ戦では89分、第26節ユヴェントス戦では95分と、終了間際に決勝点を献上している。最終的にエンポリと1ポイント差だっただけに、その代償は大きかった。

『La Gazzetta dello Sport』紙は、最終節の採点記事で、ディ・フランチェスコ監督に6.5点をつけた。「降格には値しなかった。昨日も個のミスの代償を払わされた」と、その手腕を評価している。

そのディ・フランチェスコの落胆は明らかだった。降格決定を受けて涙し、残留を果たしたウディネーゼのファビオ・カンナヴァーロ監督から慰められたほど。試合後の会見にも出なかったという。

2019年にローマの監督を解任されて以降、ディ・フランチェスコは苦しい状況にある。サンプドリア、カリアリ、エラス・ヴェローナと、3クラブ連続でシーズン途中に解任されてきた。フロジノーネで雪辱を果たしたいと意気込んでいたはずだ。それだけに、失意のほどがうかがえる。

■希望を感じさせるトップの言葉

もちろん、それは指揮官だけにとどまらない。選手、サポーター、チーム関係者の誰もが、「ラスト15分の悲劇」に打ちひしがれただろう。クラブを率いるマウリツィオ・スティルペ会長も同じはずだ。

しかし、同会長は試合後に「これがサッカーだ。ピッチでの結果を受け入れなければ」と話した。以下、クラブ公式サイトイタリアメディアの報道から、スティルペ会長の印象的な言葉を抜粋する。

「運不運は信じない。ピッチで結果を出すには、相手より優れている必要がある。我々はそれができなかった。プロの世界にとどまりたければ、自分の限界やミスから再出発しなければならない」

「最終的に大きな機会を生かせなかったのなら、自分たちの落ち度を考えなければ。我々は他より優れていなかったのだ。犯したミスを教訓としなければ。それができればリスタートできる」

「ある種の選択をすることがリスクなのは承知していた。若手は多くを出せるが、ミスをすることもある。彼らには間違える権利があるのだ。私はずっと、降格なら責任はすべて私にあり、残留なら功績はすべてみんなのものと言ってきた。そのコンセプトは変わらない」

「このような結末はエウゼビオにふさわしくない。とても残念だ。彼は優秀なサッカーのマエストロだからね。優れた人であり、彼を選んだことに悔いはない」

「我々のプロジェクトは一貫している。大事なのは勝利ではなく、勝ち方だ」

「我々のサッカーのやり方は以前から変わらない。持続可能性、若手とブランドの活用、インフラの発展。これらがこの3年の要で、今後も変わらない。カテゴリーに関係なく、これからも続ける」

カルチョの世界では結果が重視される。それだけに、またも降格という結果に終わったフロジノーネに対する批判もあるだろう。だからこそ、降格回避を最優先目標とし、コンセプトも一変させる昇格チームもある。内容と結果のどちらを優先するかの議論同様、そこに正解はない。

それでも、スティルペ会長の言葉に、フロジノーネの未来は明るいと信じる者はいるはずだ。その方針を貫いた先に、4回目のセリエA挑戦、そして悲願の初残留はあるだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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