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“ルネッサ~ンスを言わない方”ひぐち君の今

中西正男芸能記者
お笑いコンビ「髭男爵」のひぐち君

 お笑いコンビ「髭男爵」として活動するひぐち君(45)。相方の山田ルイ53世さんは昨年「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の作品賞を受賞し作家としても注目されていますが、今、ひぐち君の軸となっているのはワイン。ワインの専門家の証とも言える「ワインエキスパート」の試験に合格し「日本のワインを愛する会」の副会長も務めています。ワインによって新たな道を切り開いたひぐち君が今を語りました。

会場の失笑

 僕ら“ルネッサ~ンス”というギャグをやらせてもらっていますので、毎年、ボジョレー・ヌーボーの解禁イベントとか、ワインイベントにはちょこちょこ呼んでいただいていたんです。

 多いのは、スーパーマーケットとかでのワイン発売イベントとかだったんですけど、今から7年ほど前に、かなり大規模なイベントからお声がけをいただきまして。

 品川プリンスホテルで、お客さんにフランス大使館の方がお見えになっていたりする中でのボジョレーの解禁イベントだったんです。大きなイベントだったので、しっかりと司会の方もいらっしゃって、その方から「今年のボジョレー・ヌーボーの出来はいかがですか?」と質問されたんです。

 それまではほぼほぼ僕ら二人だけのイベントだったので、そんな質問をされること自体が初めてだったんですけど、とにかく何か“それっぽいこと”を言わなきゃと。ただ、僕ら全くワインのことを知らないので、とっさに「今年のは重たいですね」と言ったんです。そうすると、会場から何とも言えない失笑が…。

 今は分かるんですけど、ボジョレー・ヌーボーで重たいなんて表現はありえないんですよ。ボジョレー・ヌーボーはガメイという品種の新酒なので、軽やかで、若いということの極みなのに、重いわけがない。それを通訳さんを介してフランス大使館の方にも伝えられて(笑)。「これは、しっかりと勉強した方がいいな…」と思いまして。

ワインの奥深さ

 そこから参考書などを買ったんですけど、とにかく1行目から分からない…。僕、お酒もそんなに飲む方じゃなかったんで、基本的なお酒の知識もありませんでしたし。

 「どうしようか…」と思って、恵比寿に「レコール・デュ・ヴァン」というワインスクールを見つけて見学に行ったんです。ありがたいことに僕を芸人と気づいてくれたようで、そこでスタッフさんといろいろ話していると「うち、結構お客さんにキャビンアテンダントの方もいらっしゃいまして」と聞きまして、その瞬間、入会のサインをしてました(笑)。

 ただ、そこで勉強するうちに、ワインの深さと言うか、面白さをどんどん知っていったと言いますか。全く知らなかったんですけど、ワインには“テロワール”という言葉がありまして。これって、日本語にはない言葉なんですけど、あえて置き換えると“風土”とか“気候”とかいう感じですかね。

 要は、ワインを取り巻く環境が味に出ると言われてまして。それはなぜかというと、ワインはブドウの果汁だけで作る。だから、地面の味が色濃く映し出すと言われているんです。

 シャブリというワインがあるんですけど、それができるシャブリ地区はもともと海だったんです。そこに畑ができてブドウの木が生えているので、海のミネラルを木が吸い上げて、それがブドウに入って、そのままワインになる。だから、シャブリは牡蛎とか合うと言われるんです。

 あと、オーストラリアのシラーズというブドウの品種を使ったワイン。オーストラリアってコアラがいますよね。コアラと言えば、ユーカリの木。実際、ユーカリの木から落ちた葉っぱが落ちて土になるので、オーストラリアのシラーズって、ユーカリメントールというちょっとスースーするミント系の香りがあったりするんです。

 フランスのワインだと、熟成するとトリュフの香りが出てくると言ったりもするんですけど、長野県のワインはごぼうとかマイタケの香りがする。そういうのが実に面白いなと思ってハマっていきました。お酒を飲まなかったので全く白紙の状態だったことも、一つ一つのお話をより新鮮に感じられた要因だったかもしれませんね。

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ワインエキスパートを取得

 スクールは1年弱のコースだったんですけど、どうせやるんだったら、ワインエキスパートの資格を取ろうと。ワインエキスパートとソムリエは知識量としては同格で、ソムリエは飲食店で働いている人がとるもの。働いていない一般の人がとるのがワインエキスパートなんです。

 試験に向けて、これはね、人生で一番勉強しました(笑)。僕、一応、大学(関西学院大学)は出てるんですけど、その時の勉強よりも、はるかに勉強しました。休みの日は起きている時間、全部勉強してましたね。仕事の時も、移動中はそのための本を必ず見てという感じでした。

 試験は一次と二次がありまして、一次は筆記なので、大変ですけど、ま、頑張れば何とかできる。ただ、問題は二次で、これがテイスティングなんです。

 ほとんどお酒を飲まないのでワインの味や香りなんてこれまでほとんど体感したことないですしね。だから、冷蔵庫に常時20本くらいワインを入れておいて、仕事に行く前と帰ってきた時に香りをかいで、飲むと酔っぱらっちゃうんで口に含んでテイスティングするということを毎日やってました。

 ソーヴィニヨン・ブランという品種の白ワインがあるんですけど、ニュージーランド産とフランスのロワール産とかだと香りが違うんで、その二つを小瓶に入れて、ずっと持ち歩いていました。新幹線で移動中にも「こっちがニュージーランド、こっちがロワール」というのを東京から新大阪までずっとやっていたり(笑)。とにかく記憶で体に刷り込ませるというか。

 そうやってワインエキスパートを取ったのが2015年。それ以来、少しずつですけど、ワイン系のお仕事をいただけるようになってきました。今、コンビではなくピンでいただいているお仕事のほとんどはワイン関連のものになっています。

「日本のワインを愛する会」副会長

 やっぱり“ルネッサ~ンス”のイメージが強いので、ワインイベントに呼んでいただき、乾杯の発声をしてもらえませんか?みたいなお仕事もいただくんですけど、これがね、なんとも変な空気になることもありまして。

 というのは、僕、ネタの時に“ルネッサ~ンス”って言ったことないんです(笑)。あれは全部相方の男爵さんが言うことなんで…。

 いつもの執事の衣装を着て、出ていくところまでは「おぉ、ホンモノが来た!」と言ってくださるんですけど、実際に「ルネッサ~ンス」と言うと、会場に「ん?何か違う…」という違和感が漂うというか(笑)。

 あと、ご縁があって、今「日本のワインを愛する会」の副会長もさせてもらっています。会長が辰巳琢郎さんで、僕が副会長。もう、この時点で何とも言えず面白いんですけど(笑)、昨年暮れに辰巳さんとお会いして、大役を頂戴しまして。

 日本のワインを楽しむ人のすそ野を広めようというのが趣旨で、ホームページでいろいろな情報も発信しています。辰巳さんがお話になっているのは、2025年に大阪万博が開催された時に、日本ワインのパビリオンができることを目指そうと。そこから日本ワインを世界に発信できればなと。

 ワインって堅苦しいイメージというか、どこか手が出しにくいというイメージもあると思うんですけど、僕は芸人という仕事をしているので、僕を通じて、もっと親しみを持ってもらうというか、良い意味で身近なものにする。そういう役割ができたらなと思っています。

先輩からの愛

 それと、日々一緒にいる人が変わりましたね。前は、カンニングの竹山さんとほぼ一緒にいたんですけど、最近はそれこそ辰巳さんだとか、酒屋さん、ワイナリーの方、ワイン好きの方とか、これまで全く接点がなかった方々とも関わらせていただくことが増えました。

 もちろん、今でも竹山さんには本当にお世話になっていますし、応援もしてくださっています。ワインエキスパートの資格を取る時も、竹山さんがその話をSNSで発信してくださったりして、それが記事になったりもしましたしね。

 ただ、困ったのは、一次を受かった時に「一次、受かりました」と報告したら、すぐに竹山さんがツイッターでつぶやいてくださったんですけど、そうなると、二次落ちられないじゃないですか(笑)。何件か取材の問い合わせもいただいて、受かること前提でお話をされたりもするんですけど、イヤイヤ、そんな簡単に受からないですからと(笑)。

 でも、今から思うと、そういうプレッシャーもあったからこそ、無事に合格することができたんだと思います。本当に。

 竹山さんはずっと焼酎一辺倒だったんですけど、最近はワインをお飲みになるようになりまして。お店を選ぶ時も「日本ワインが飲めるお店に行こうか」みたいな感じで。

 ただ、僕、インスタグラムをやってるんですけど、竹山さんにごちそうしてもらっているワインの写真を撮ってそれを全部アップしてるので「お前、人の金で飲んだワインで、だいぶ“飲んでる感”出してるよな」とつっこまれたりはしています(笑)。どこまでも、本当にありがたいお話なんですけど。

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 これだけワインのことを勉強するようになりましたけど、今もネタの時にワイングラスに入れているのは、変わらずファンタグレープです。

 ま、あれは、100%のブドウジュースとかを入れると、濁ってみえたりもするとか、いろいろ考えてチョイスした結果なんですけど、今、ワイン的な知識を持って考えると、あれは赤ワインじゃなくて、完全にロゼの色ですね(笑)。

 ワインの知識が他にもお笑いに役立っていることはあるか?ですか。いや、これが困ったもんで、お笑いのエキスパート資格は全く持っていないので…、そのあたりは何も変化はありません(笑)。

(撮影・中西正男)

■ひぐち君(ひぐちくん)

1974年2月12日生まれ。福岡県出身。樋口真一郎。サンミュージック所属。関西学院大学卒業後、会社員を経て、99年に「髭男爵」を結成。貴族ネタで2008年頃から一躍注目される。貴族キャラの相方・山田ルイ53世に仕える緑色の執事服がトレードマーク。得意ギャグは「ひぐちカッター」。15年にワインエキスパートの資格を取り、現在はワイン関連の仕事も。「日本のワインを愛する会」副会長。ひぐち君が直接出向いた全国各地のワイナリー、畑、ワインバーなど日本ワインの情報を綴るオンラインサロン「ひぐち君の日本ワイン会」も行っている。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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