日本人が知らない世界のトレンド「気候正義」とは?約150カ国で同時行動、東京でも決行
今、世界各地で「気候正義」を求める声が、至る所で轟いている。今月23日に米国のニューヨークで開催される国連気候行動サミット2019、また同17日から開催されている国連総会にあわせ、日本を含む世界150カ国以上で温暖化防止を求め、数百万もの人々が声をあげているのだ。その中心となっているのは、子ども達や若者達。最も気候正義を必要とする世代である。
○国連や世界経済も変える気候正義
気候正義とは何か。温暖化は自然現象ではなく人為的なもの、少数の強者が最も責任を問われる加害者であり、多数の弱者はそのツケで苦しむという、不公正かつ社会構造的な暴力。そうした不正を正し、生態系や人権に配慮した取り組みで、温暖化を解決すべきということだ。よりわかりやすく言うならば、温暖化を促進させてきた国々や世代が、自らの責任として温暖化対策に取り組むこと、とも言えよう。
温暖化が進行する最大の原因は、先進国(及び中国などの新興国)が石油や石炭などの化石燃料を大量消費していることだ。研究者やNGOによる調査報告「AFTER PARIS」によれば、世界で最も豊かな10%の人間が、温室効果ガス全体の約半分を排出しているのだという。その一方で、世界人口の半分を占める貧困層の温室効果ガスの排出量は全体の1割にすぎない*。それにもかかわらず、温暖化の進行によって、最も深刻な影響を被るのは、途上国の貧しい人々である。彼らが依存する地域での農業や漁業が、温暖化によって成り立たなくなってきているからだ。だからこそ、温暖化を促進してきた側が、温室効果ガス排出削減や温暖化の進行を食い止めるための中心的な役割を担うことが、気候正義として求められているのである。
*FoE Japan「Climate Justice(気候正義)とは」
http://www.foejapan.org/climate/about/climatejustice.html
その「気候正義」を求める行動をアップデートし、一気に世界へ広めた立役者と言えるのが、現在16歳のスウェーデン人の少女グレタ・トゥーンベリさんだ。昨年8月、トゥーンベリさんは、温暖化対策に真摯に取り組まない政治家達に憤り、学校に行くことを拒否して、たった一人で国会前での座り込みを始めた。トゥーンベリさんは「大人達は子ども達を何より大事、愛していると言うけど、嘘です。私達の未来が燃えているのに、大人達は何もしない」と語る。つまり、未来の世代こそ、異常気象の頻発や環境の激変など温暖化の進行による災厄の最大の被害者となることを、彼女自身の言葉と行動で訴えたのだ。トゥーンベリさんの訴えは、国際的に非常に大きな反響を呼び、世界各国の子ども達や若者達が声をあげるようになった。そして、国連や世界経済フォーラムなどもそうした声に動かされつつあるのだ。
○東京でも2800人が「グローバル気候マーチ」に参加
今月23日の気候行動サミット、同17日から30日までの国連総会に合わせ、世界では同20日から27日にかけて、温暖化防止・気候正義を求めるデモやイベントが開催される。既に20日の時点で「150カ国以上で、400万人以上が参加した」と、トゥーンベリさんは発表した。20日には、日本でも東京や静岡、京都、大阪、兵庫など23都道府県で5079人が「グローバル気候マーチ」関連イベントに参加。東京では、約2800人が集まり、渋谷の街を練り歩き、気候正義の実現を訴えた。
東京でのグローバル気候マーチは筆者も取材。若者や女性の姿が多かったのが印象的だった。都内の高校に通っているという少女達は、「学校の友達と一緒に来ました」「インスタグラムでグローバル気候マーチのことを知って、参加したいと思いました」と筆者に語る。またウインタースポーツ関連の企業に勤めるという女性は「温暖化で雪がなくなると困りますから。会社の皆と参加しました」と語った。グローバル気候マーチを東京で呼びかけた団体の中心的存在「Fridays For Future Tokyo」のメンバーで、都内の高校に通う末岡桜・ウナ・マリさん(16歳)は「今年2月に、私が初めて参加した時はごくわずかな人数しか集まりませんでした。でも、今日はすごくたくさんの人々が参加してくれてびっくりです」と言う。帰国子女である末岡さんは自身のいたフランスで、トゥーンベリさんに賛同する子ども達や若者達のデモが盛り上がっていることから、日本でもそうした動きがないかと考え、当時、都内の学生達によって立ち上げられたばかりの「Fridays For Future Japan」に参加。「Fridays For Future(未来のための金曜日)」とは、トゥーンべリさんが毎週金曜日に国会前で座り込みをしていたことから、彼女に賛同する子ども達や若者達が呼びかけるようになったムーブメントの名称だ。その後、日本全国で「Fridays For Future」の名を冠する若者・学生団体が立ち上げられたため、「Fridays For Future Japan」は、「Fridays For Future Tokyo」に改称した。国際アクションデーにあわせ、今年3月、5月に東京で気候正義を求めるアピールを行ってきたが、その時の参加者数はいずれも200~300人程。今回のグローバル気候マーチは、日本でも気候正義を求める声が高まりつつあるのを感じさせるものであった。
○日本は石炭火力の規制が必要
昨年10月、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)は「人間社会の壊滅を回避するためには、より積極的で革新的な社会の変化が必要である」と警鐘を鳴らしている。つまり、「2030年までに全世界の二酸化炭素排出量を2010年の排出量と比べて45%削減し、2050年頃に排出ゼロにすること」が必須だという。ハードルの高い目標ではあるが、自然エネルギーや省エネの推進、化石燃料から電力への転換など既存の技術・対策によって全く不可能なことではない。要は、やるか、やらないかの問題、正に気候正義が問われている。それは、米国や中国などの温室効果ガスの大量排出国だけではなく、日本にも問われていることだ。グローバル気候マーチの賛同団体の一つ、「350.org Japan」は「日本は石炭火力の新規建設を早急に止め、1.5℃目標に整合する削減目標の制定と実行を確保すべきです」と強調。確かに、石油や天然ガスなど他の化石燃料に比較して、高効率型であっても大量のCO2を排出する石炭火力発電は、日本の温暖化対策における最大の問題だ。気候正義の実現を求める声が国際的に大きなうねりとなっている今、温暖化対策に後ろ向きなことは「不正義」とみなされる。そうした時代認識を、日本の政府や企業、そしてマスコミ関係者や一般の市民も持つべきなのだろう。
(了)
以下、グローバル気候マーチの写真。撮影は全て筆者。無断使用を禁じる。