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"お客さんファースト”で14年 K-POPのパイオニア・ZEROの現在

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

K-POPのパイオニアの今

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現在もK-POPの人気は衰えを知らず、BIGBANG、東方神起、2PM、防弾少年団、TWICE……グループを中心に次々と新しい波が日本に押し寄せ、変わらず圧倒的なCDの売上げとライヴ動員を誇っている。思えば、最初にその波がやってきて、「韓流」なる言葉が日本を席巻したのは、2003年ドラマ『冬のソナタ』と、そこに出演していたペ・ヨンジュンが「ヨン様」としてブレイクしたのがきっかけだった。時を同じくして、2004年に放送された、イ・ビョンホン、チェ・ジウ、パク・ヨンハなどが出演しているドラマ『美しき日々』(NHK総合)が大人気となり、その劇中に登場する覆面歌手“ZERO”が歌う主題歌「約束」にも大きな反響が寄せられた。そしてZEROは同年に日本デビューを果たした。まさにK-POPのパイオニア、韓国人歌手の先駆け的存在だ。

そんなZEROも日本での活動が14年になり、今、彼のコンサートに中高年を中心にファンが殺到しているのだ。昨年12月に全国5か所でクリスマスコンサートを行なったが、どの会場もチケットは完売だった。12月18日に行われた中野ZEROホール公演を観たが、そこには、客席を徹底的に楽しませ、「コンサートはお客さんのもの」と言い切る、エンターテイナーZEROがいた。コンサートの翌日、本人に話を聞くことができたが、コンサートを見て、そしてコンサートにかける熱い思いを聞いて、彼が14年経ってもなぜここまでファンを引き付けるのか、その理由がわかった気がした。

「コンサートでお客さんの盛り上がりを見ていると、韓流ブームと言われた14年前と変わらない」

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まず14年間日本で歌い続けてきて、変わった事、変わらない事は?と聞くと「私が日本デビューした時は、まさに韓流ブームでしたので、当時と比べると少し落ち着いてきた気もします。でもコンサートで皆さんの様子を見ていると、変わっていない感じもします」という程、彼のコンサートは盛り上がる。いやZEROがとにかく盛り上げる。お客さんの心をくすぐる。この日もコンサートが始まって早々、客席から「ZEROに花束を持ってきたのに、係の人に言われて渡せなかった」という声がZEROに投げかけられた。すると彼は迷うことなくステージを降り、そのファンの元まで行き花束を受け取ると、大きな拍手が沸き起こった。「あれはあの方だけの問題ではなく、皆さんがその様子を見て、リラックスしてくれればいいと思って、ステージから降りて行って話しかけました。本当は降りてはいけないというルールがあったのかもしれませんが…。私は時々勝手にそういう事をしてしまって、照明の人も困るみたいです(笑)。でも決まっている演出も大切ですが、その時々で予定調和ではない演出を、逆に楽しみにしてきてくださる方も多いので」と、事もなげに話してくれた。

毒舌MCが魅力のひとつ。「ラインが難しいです。やりすぎると不快な思いをさせてしまい、遠慮し過ぎると面白くない」

そしてお客さんをいじるMCが絶妙なのだ。綾小路きみまろを彷彿させる毒舌で爆笑を取る。そしてまた歌い始めると、圧巻のボーカル力と表現力で聴かせ、泣かせる。このメリハリがファンにはたまらない。「毒舌のラインが難しいです。やりすぎると不快な思いをさせてしまうし、遠慮し過ぎると面白くないし、難しいです。それとやっぱりギャップが大切だと思います。最近はアドリブが多くなって、お客さんとのコミュニケーションがより楽しくなりました」と嬉しそうに語ってくれた。

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客席を見ると、若い女性の姿も見えるが、中心は中高年だ。そして“ZERO調査”で、「コンサートに初めてきたという人」というところで手を挙げた人も多かった。年を重ねれば重ねるほど“遊び場”が少なくなり、娯楽の選択肢も減り、そういう人たちが楽しみにしているのがZEROのコンサートだ。「例え私の事を知らなくても、韓流ドラマが好きな方が、色々なドラマの主題歌を生で聴きたいけど、なかなかそういうコンサートがないという声をよく聞きます。それで、日本でヒットした韓流ドラマの主題歌を、まとめて聴ける私のライヴに来てみようかなと思ったのだと思います。中には90歳の方も来てくださいます。その家族の方のお話を聞くと「ZEROさんのライヴに行くのが生きがいになっているようです。そのために食事も頑張って食べて、運動もしているのでZEROさんに感謝しています」と言ってくださって、本当に嬉しかったです」と、昔はコンサートに行っていたけど、今は行かなくなくなったという人の足を、再びコンサートに向かわせてくれている。

「コンサートはお客さんのもの。歌い手の自己満足の場ではない」

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この日はクリスマスコンサートという事もあり、「ラストクリスマス」のカバーから始まり、「恋人よ」「初恋」などのJ-POPのヒット曲も披露。もちろんドラマ『美しき日々』の主題歌「約束」、同テーマソング「Good bye」、『冬のソナタ』の主題歌「最初から今まで」など、韓流ドラマの主題歌もたっぷり聴かせてくれた。地声の強さはもちろん、強いファルセットにはますます磨きがかかり、“圧倒的な歌”で魅了した。気になったのはオリジナル曲が少なかった事だが、ここにもZERO流のコンサートに対する考え方があった。「もちろんオリジナル曲はオリジナル曲でいい曲を作って、聴いてもらいたいという気持ちが強いです。でもコンサートで一番大切なのは、お客さんが楽しいかどうかです。例えば韓国ドラマの主題歌を聴きたくて来ている方は、4~5曲主題歌を歌って、あとはオリジナル曲ばかりというセットリストだと面白くないはずです。だからオリジナル曲は1~3曲で十分だと思っています。あとはドラマの主題歌、誰もが知っている曲のカバーをZERO流に歌う事で、みなさんに楽しんでもらえるはずです。コンサートは自分の曲を知ってもらうための場ではなく、みなさんが楽しめるためのコンサートにしなければいけない。昔のヒット曲は歌わないとか、それは歌い手の自己満足。でもコンサートはそういう場所ではありません」と明確だ。全てはお客さんのために、が貫かれている。

2017年は単独公演、ジョイントコンサート合わせて60本以上のステージでファンを魅了。「ずっと歌っていられる幸せをかみしめている」

ZEROは2017年から、ヒット曲を持つ往年のアーティストが数多く在籍している「夢グループ」の所属になった。そして全国12か所で単独公演を行うと共に、50本以上のジョイントコンサートにも出演した。「人生で一番移動距離が多い年でした(笑)。でも歌手として、ずっと歌っていられる幸せをかみしめています」。そんなZEROが昨年9月に行ったコンサートの模様が、1月19日(金)「夢のスター歌謡祭~ZEROコンサート2017~」(BSフジ/17:00~18:55)としてオンエアされる。ZEROの歌を求める人は今も増えている。

BSフジ「夢のスター歌謡祭~ZEROコンサート2017~」特設ページ

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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