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安倍首相は憲法改正を急ぐより「国民第一!」税制による賃上げで個人所得の増加を

木村正人在英国際ジャーナリスト
自民党総裁選で連続3選を果たした安倍首相(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

自民党総裁選は圧勝で連続3選

[ロンドン発]20日の自民党総裁選で現総裁の安倍晋三首相(63)が石破茂元幹事長(61)を破り、連続3選を決めました。任期は2021年9月までの3年間で、任期中に史上最長の首相在職日数を記録する見通しです。

安倍首相は記者会見で「70年以上一度も実現してこなかった憲法改正にいよいよ挑戦し、新しい国創りに挑んでまいります」と、9条に自衛隊を明記する党改憲案を秋の臨時国会に提出することに改めて意欲を示しました。

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森友・加計学園問題で政治と官僚への信頼は大きく損なわれたものの、「円安・株高」「過去最高益の企業続出」「来春、大卒求人倍率7年連続上昇で1.88倍に(リクルートワークス研究所)」「完全失業率2.5%」という安倍首相の経済政策アベノミクスの成果が評価されたかたちです。

中国の軍事的な台頭に対して安倍首相は集団的自衛権行使を限定的に認めて日米同盟を深化させ、防衛力も強化しました。暴走を続けるドナルド・トランプ米大統領とも「特別な関係」を築いています。

プーチン大統領に待たされた時間から見る日露関係

外交面で筆者が感心したのは、ウラジーミル・プーチン露大統領との関係です。北方領土交渉で前のめりになっているのではないかと心配していましたが、「北方四島は日本固有の領土」という大原則を崩しませんでした。

22回も日露首脳会談を持ちながら、安倍首相が親密さをアピールしていたプーチン大統領に対して一歩も譲っていなかったことを示す興味深いデータがあります。

プーチン大統領は若い頃から遅刻の常習犯です。英紙インディペンデントと独データ会社スタティスタ(Statista)が、各国の元首や首脳らが03~16年にかけ、プーチン大統領に待たされた時間をまとめています。

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安倍首相はプーチン大統領になめられているのでしょうか。というより、西側諸国の中ではドイツのアンゲラ・メルケル首相に続いて「やりにくい相手」とみられているように思います。

安倍首相は日本を良くしたい、日本の安全を守りたいと強く思っているナショナリストです。それが、連合国軍総指令部(GHQ)の占領下に施行された現行憲法を日本国民の手で改正したいという政治家としての志に現れています。

「出口」なき日銀緩和

自民党総裁選の討論会で、安倍首相は日銀の超金融緩和策の「出口」を問われて「(超緩和を)ずっとやっていいとは全く思っていない」「私の任期のうちにやり遂げたい」と答えました。

その一方で「物価安定目標には達しておらず、日本銀行にしっかり対応して頂きたい」と「出口」政策への移行には慎重な考えを示しました。

消費者物価指数は値動きの大きい生鮮食品を含めると8月は前年同月比1.3%でした。2%の物価目標にはまだ届きません。

日銀の黒田東彦総裁は19日の金融政策決定会合後の記者会見で「出口」政策について「あくまでも2%を達成して、そういった状況にしていく必要がある」と述べました。

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12年末、日銀の国債保有残高は114兆円だったのに対し、現在は469兆円と4.1倍に膨れ上がっています。資産残高は552兆円と日本の国内総生産(GDP)を上回っています。

国民の懐はそれほど潤っていない

日銀の超金融緩和策は円安を誘導し、過去最高益を更新する企業が続出、株や不動産はバブルのような活況を呈しました。しかし内閣府の消費総合指数を見ると、個人消費はそれほど伸びていません。

14年4月に逆進性の高い消費税が5%から8%に引き上げられ、消費を冷ましてしまいました。

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個人消費が伸びないのは、非正規雇用が増え、実質賃金が下がり続けているからです。

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財務総合政策研究所調査統計部の特集「法人企業統計調査結果と調査からみた企業動向」が非常に分かりやすいので見ておきましょう。 

法人企業全体の経常利益は75兆円となり、4年連続で過去最高を更新しました。企業利益の蓄積である「内部留保(利益余剰金)」も406兆円に達し、過去最高を記録しました。

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企業の収益がこんなに増えたのに実質賃金が上昇しないのは、収益を「賃金」ではなく「内部留保」に回したからです。

企業が一定期間に生み出す利益(付加価値額)は増えたのに賃金に反映されなかったため、01年には75%強あった労働分配率は67.6%まで低下しています。

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最も付加価値額が増えた業種の建設業を見てみましょう。役員・従業員1人当たりの付加価値額は23.6%も増えたのに、人件費は8.2%しか増えていないことが分かります。

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「国民第一!」税制を

安倍政権は企業の国際競争力を増すため、法人実効税率を37%から29.74%に引き下げました。来年10月には消費税は8%から10%に引き上げられ、再び消費は冷え込むでしょう。これでは「企業最優遇」税制で「国民第一!」税制とはとても言えません。

アベノミクスで大きな恩恵を受けた企業は非正規雇用を増やして賃金上昇を抑える一方で、成長が期待できない国内には投資せず、海外の企業買収を進めています。これでは個人消費は伸びません。企業行動を変えるには税制しかありません。

石破氏は総裁選で地方の中小企業や農林水産業の生産性を高め、今後10年間で個人所得を3~5割伸ばす目標を掲げました。

安倍首相は、国論を二分させ、国民投票で否決されると辞任に追い込まれるリスクのある憲法改正より、賃上げを先に実現して個人所得をもっともっと増やすべきです。

筆者は企業が賃上げと国内投資をしないようなら「国民第一!」税制として内部留保課税の脅しも必要かと考えますが、皆さんはどう思われますか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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