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お笑い芸人の「顔ファン」が物議、逸脱した行動をとるファンと外見ありきの仕事を依頼するメディアの存在

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:アフロ)

お笑い芸人の見た目に惚れ込んで応援する「顔ファン」について、さまざまな意見が飛び交っている。

3月31日に解散を発表したお笑いコンビ、ハイツ友の会。そのメンバーである西野がXに投稿した解散報告文のなかに、「私たちを応援したくださる方は女性が多くいてくださったように思います。とても嬉しかったです。女性の皆さんありがとうございました。本当に“お笑い”が好きな男性もありがとうございました」という記述があった。

読者は、西野があえて「本当に“お笑い”が好きな男性」と表現したことから、「“お笑い”の部分ではなく、“外見優先”で応援するファンもいる」と解釈。SNSでは「見た目のファン=顔ファン」の存在が、同コンビの解散原因の一つにもなったのではないかとする意見が目立った。

TikTokなどのお笑い系動画でもハイツ友の会は「外見の良さ」が取り上げられていた

たしかにTikTok、YouTubeなどのお笑い系動画でも、「ハイツ友の会は外見が良い」とする切り口の内容のものはこれまで多々見られた。またあくまで推測だが、西野の投稿文に「「ネタを評価していただけたら他はなんでも良い」という気持ちが当初から2人とも強く、お声がけいただいた仕事を今までいくつかお断りしています」「テレビ、YouTube、ラジオ、CM、雑誌などは内容によってお断りしたり当初のお話から形を変えていただきお受けすることもありました。自分たちの精神衛生を守るためでした」とあったことから、メディアからも同コンビの外見に着目した企画が持ち込まれていたのではないか。

そういった気持ちが読み取れる文章とあって、ハイツ友の会の解散報告は「顔ファン問題」へと話題が波及し、物議を醸すことに。

女性芸人、男性芸人にかかわらず、「その芸人の外見が好き」というファンはもちろんたくさんいる(それはお笑いだけではなく、音楽、舞台、スポーツなど各分野にもあてはまる)。

ただ“お笑い”である以上、芸人側としては「まずネタをしっかり見てほしい」「おもしろいから好き、となってもらいたい」が本当の気持ちだろう。私感だが、大多数のお笑いファンも基本的には、芸人を好きになる理由の第一が「おもしろさ」であるように思う。外見はその次以降。逆に言えば、お笑いファンである以上、おもしろくない芸人には魅力をそれほど感じないということ。それがお笑いファンの応援姿勢である。

それでもファンも生身の人間だ。優先順位として、外見が第一、おもしろさが第二以降ということももちろんある(これもお笑いに限らず、音楽、舞台、スポーツなどあらゆる分野に共通する)。ただ「外見が好み」が第一であっても、「おもしろい」「ネタや芸が好き」はそれに接近していなければならない。

移動時やチケットの手売り、至近距離で接することができる場合も

今回の問題のポイントは、そういった「顔ファン」のなかには、私たちが考えている以上に「逸脱した行動をとる人がいる」ということではないだろうか。

たとえばお笑い芸人は、1日に複数回の公演(複数回のステージ)に出演することがあり、いろんな劇場を行き来したりする。近距離の劇場であれば、徒歩は当たり前。離れた劇場だと、タクシーなどの車移動だけではなく、電車、自転車を使う芸人もいる。そのため、ファンも至近距離で接しようと思えばいくらでも近づける機会がある。なにより劇場内では、芸人本人が手売りのチケットやグッズを販売することがある。

西野の解散報告文から察するに、そういった機会であってもいわゆる“お笑い”のファンは節度を守ってくれるが、外見優先の「顔ファン」の一部は過度な接触を図ったりしてくるのではないだろうか。

相手がお客である以上、お笑い芸人も無下な対応をとるわけにはなかなかいかない。ただそれにつけ込んで過剰なサービスを求めるファンはたしかにいる。余談だが、私はかつてプロモーション業務で映画出演者の舞台挨拶のアテンドを何度も担当したことがあるが、サイン会などでは、タレントに対して度をこえたスキンシップをとるファン、上から目線でなにかを言うファン、退館の移動時に数十メートル先の車両まで追いかけてきて、車を取り囲む複数名のファンにも遭遇したことがある。楽屋まで押し入ってきてサインを求めるファンもいた。タレント側が難色を示すと「事務所にクレームをいれる」と脅すファンもいた。作品を鑑賞せずに出待ちだけして写真やサインを求めるファンも常だ(果たしてそれをファンと呼べるかどうかは別として)。

えてしてそういったファンの行動は、駆け出しのタレントや、まだまだそこまで売れていないタレントに対してとられることが多い印象だ。そしてまた、男性ファンが女性タレントに対しておこなう事例ばかりだった。プロモーション業務という立場で前述のような経験をしたとき、筆者は恐怖を覚えた。もし自分がタレントだったとして、ああいったことが当たり前のように起きるとなると、とてもじゃないがメンタルが持たない。

「顔ファン」のすべてを否定するのは、違うだろう。「顔ファン」のなかには、“お笑い”を見る、楽しむというもっとも優先するべき事項をすっ飛ばした上で、それらの逸脱行為をおこなう人が目立つということではないだろうか。

外見ありきの仕事を依頼するメディアの存在の厄介さ

また西野が「「ネタを評価していただけたら他はなんでも良い」という気持ちが当初から2人とも強く、お声がけいただいた仕事を今までいくつかお断りしています」と記したのは、外見ありきの仕事の依頼をしてくるメディアの存在があり、それは厄介な「顔ファン」となんら変わりがないことあらわしているのではないか。

メディアから、笑わせる目的とは大きくズレた内容が届けられることは容易に想像がつく。ハイツ友の会はちゃんとお笑いがやりたかったのに、自分たちの考えとは異なる依頼がたくさんあり、それがストレスとして積み重なったとも考えられる。

解散発表を聞いたとき、2023年夏におこなったハイツ友の会の取材時に西野が「笑ってもらうことが一番なので、それ以外の感想をいただいたとき、どう感じたら良いのか分からないんです」と語っていたことを思い出した。周囲の高評価と自己評価のギャップへの戸惑いだと捉えていたが、もしかすると今回の「顔ファン問題」のようなものに触れていたのかもしれない。

一線を越える「顔ファン」の存在がお笑い芸人のストレスとなり、その結果、おもしろい芸が見られなくなるのは、それこそ「本当に“お笑い”が好きなファン」はやりきれないだろう。今は、ピン芸人を続ける決断をした西野の活躍と、芸人を辞めるという決断を下した清水香奈芽の今後の健勝を祈りたい。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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