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北朝鮮の兵士が脱走…中国に逃亡し凶悪事件も

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
2015年3月に逃亡先の中国で拘束された北朝鮮兵士(デイリーNK)

 北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)三池淵(サムジヨン)で、国境警備隊の隊員が脱走する事件が起きた。

 現地のデイリーNK内部情報筋は、国境警備隊に所属する20代の隊員が脱走する事件が起きたと伝えた。それから2週間ほどたったが、依然として足取りはつかめていない。この地域は、中国との国境に接しており、無人地帯も多いことから、脱北して中国に向かったものと見られる。

 北朝鮮では、兵士が脱走する事件がしばしば起きているが、今回の原因は「空腹」だ。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

 朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の一般的な部隊では、コロナ前から兵士が飢える状態が続いていた。全く儲けのない軍への穀物の供出を嫌う農民は、異物を混ぜて水増ししたり、徴収される前に隠したりしている。かき集められた穀物は、輸送過程で横流しされ、現場の兵士のところに届く頃には量がすっかり減っているという具合だ。

 過去には食べ物欲しさに脱走・脱北して、中国で凶悪犯罪に及ぶ者もいた。

 一方の国境警備隊だが、比較的裕福な暮らしをしていた。国境地帯で行われる密輸を黙認してワイロを受け取ったり、民間人と共同で密輸を行ったりするなど、それなりの収入があったからだ。

 ところが、2020年1月に国境が閉鎖され、密輸が困難になってからは状況が一変。生活は苦しくなり、配給も途絶え、軍官(将校)が兵士向けの配給に手を付けるほどになった。また、自然災害で作物が育たず、定番のおかずだった塩漬けの大根すら出されなくなってしまった。

 そんな中で、飢えに耐えかねて脱走を図り逮捕される若い兵士が増えている。ただ、脱走したところで簡単に食べ物にありつけるわけではなく、犯罪に走ることになるのだ。

「10代、20代は食べざかりなのに、空腹で訓練や労働をやらされる。民間人も、そんな彼らを気の毒そうに見ている」(情報筋)

 朝鮮人民軍では、これ以外にも上官からの暴力に耐えかねて脱走する事件も相次いでいる。統計が公開されていないので、その全貌はわかっていない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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