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「ボヘミアン・ラプソディ」にアカデミー主演男優賞 ハリウッドの対トランプ戦争 少数派パワーが炸裂

木村正人在英国際ジャーナリスト
アカデミー主演男優賞は「ボヘミアン・ラプソディ」のラミ・マレック氏(写真:Shutterstock/アフロ)

アフリカ系の復活

[ロンドン発]第91回アカデミー賞は、黒人ピアニストと粗野な白人用心棒の旅を描いた「グリーンブック」が作品賞を、半自伝的な物語「ROMA/ローマ」を描いたメキシコ出身のアルフォンソ・キュアロン氏が監督賞を受賞しました。

白人至上主義を漂わせ、メキシコとの国境に壁を築くドナルド・トランプ米大統領にハリウッドが真っ向から対立する形となりました。

ピーター・ファレリー監督の「グリーンブック」は脚本賞と、黒人ピアニスト、ドン・シャーリー役を演じたマハーシャラ・アリ氏が助演男優賞を獲得しました。

世界中のアフリカ系プロフェッショナルが総力をあげて制作した「ブラックパンサー」は作曲賞、美術賞、衣装デザイン賞。白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」に潜入するアフリカ系とユダヤ系警官を描いたスパイク・リー監督の「ブラック・クランズマン」は脚色賞に輝きました。

2016年、アカデミー賞演技部門の候補者20人が2年連続で全員白人だったことから、ソーシャルメディアで「オスカーは真っ白」という批判が殺到しました。同年の米大統領選では、メキシコ系移民やイスラム教徒、女性を蔑視する差別発言を繰り返したトランプ大統領が当選。

それから3年、アカデミー賞はすっかり生まれ変わりました。

6年で5回作品賞を受賞したメキシコ監督

そのトランプ大統領は今月15日、議会承認を得ずにメキシコとの国境に壁を建設する費用を確保するため、国家非常事態を宣言すると発表しました。これに対して、米カリフォルニアなど16の州政府がトランプ大統領を訴える事態に発展しています。

アカデミー賞の発表でプレゼンターの1人を務めた女優でコメディアンのマーヤ・ルドルフさんはオープニングで「今宵、ホストはいません。人気映画カテゴリーもありません。メキシコは壁の建設費用を負担しないでしょう」とトランプ大統領にきつい一発をお見舞いしました。

昨年の監督賞は「シェイプ・オブ・ウォーター」のギレルモ・デル・トロ氏で、2年連続でメキシコ出身の監督が受賞。「スリー・アミーゴズ」として有名なキュアロン、デル・トロ、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの3氏はこの6年間で5回栄冠に輝いています。

Netflixの作品から史上初めて監督賞に選ばれた「ROMA/ローマ」はキュアロン氏自身の子供の頃の体験を生かしながら1970年代のメキシコを描いたモノクロ作品です。

外国語映画賞と撮影賞にも輝いた「ROMA/ローマ」を紹介する際、スペインの俳優ハビエル・バルデム氏はスペイン語でこう話しました。

「どんな国境も壁も想像力や才能を押さえ込むことはできません。いかなる大陸の、いかなる国家、そしていかなる地域にも、私たちの心を揺り動かす偉大な物語がある。そして今夜は異なる国の文化と言葉の素晴らしさと大切さを祝いましょう」

「ボヘミアン・ラプソディ」が主演男優賞

主演男優賞は「ボヘミアン・ラプソディ」でエネルギッシュなボーカリスト、フレディ・マーキュリーを演じたエジプト系移民のラミ・マレック氏。受賞あいさつでこう話しました。

「彼(フレディ)は自分のアイデンティティーと闘っていました。自分自身を見つけようとしていたのです。誰もが自分自身と闘い、自分自身の声を見つけようとしています」

「私たちは同性愛者、そして移民の、決して自分自身を恥じようとはせず人生を生き通した男の映画を作りました。私は彼を祝福します。あなたとともにあるこの物語は今夜、こうした物語を私たちが望んでいることを証明しています」

「ボヘミアン・ラプソディ」は音響編集賞、録音賞、編集賞も受賞しました。

ハリウッドは第二次大戦後、共産主義の影響を排除する赤狩り(マッカーシズム)のターゲットになったことからも分かるように社会派リベラルの牙城でした。それがいつしか商業主義の利権に絡め取られ、老いゆくホワイト(白人)に引きずられるようになってしまいました。

転機となったセクハラスキャンダル

その象徴がハリウッドに巣食うセクハラ文化でした。

アカデミー賞を主催する米映画芸術科学アカデミーは昨年5月、13歳の少女と関係を持ったロマン・ポランスキー監督と性的暴行の罪で有罪判決を受けたコメディ俳優ビル・コスビー氏を除名すると発表しました。

米ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏(レイプなどの罪で逮捕、起訴)の性的スキャンダルが大きく影響したのは言うまでもありません。

米紙ロサンゼルス・タイムズの調査では2012年当時でアカデミー会員5765人中5000人の構成は白人94%近く、男性77%、50歳以上が86%で年齢の中央値は62歳でした。これを受けて16年に女性46%、非白人41%に構成比を変えました。

米国は英国と違って自由と機会が平等に与えられる移民の国として建国されました。移民と自由、機会平等がパワーの源泉でした。しかし急激なグローバリゼーションで「負け組」に転じたアンダークラスの怒れる白人の声に引きずられるようになってしまいました。

移民は競争を激化させ、国際競争力を押し上げます。ハリウッドは選考方法を改革することで見事に蘇りました。米国が力強く復活するためにはやはり1票に大きな格差がある大統領の選出方法を変える必要があるのかもしれません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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