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鴨川の源流に息づく信仰

山村純也京都の魅力を発信する「らくたび」代表

記録的雨量を記録した2014年の夏が過ぎ去ろうとしている。京都の夏も観光分野で見ると、嵐山や宇治川の鵜飼の長期中止をはじめ、様々な影響があった。貴船の川床料理の店の方に聞いても、この夏は川床を出せない日が多かったとか。とはいえ、観光客が京都の夏の暑さを避けるべく洛北へ向かう傾向は今年も不変であり、週末ともなると、貴船神社周辺は人でごった返す人気ぶりである。

ところが、同じ洛北でも貴船からみて西寄りの「 雲ケ畑 」は、隠れた山里であり、訪れる人は稀である。鴨川の上流域に位置し、上賀茂神社を通過して車で走ること約10分、貴船方面へ分かれる分岐点を過ぎるとそこからさらに20分。到着した山道の“どんつき”にあったのは、狭い山間に不釣り合いなほど重厚な建物。これぞ知る人ぞ知る料理旅館 「 洛雲荘 」である。

洛雲荘入口
洛雲荘入口

洛雲荘から鴨川の上流を挟んで川向うには、平安時代の悲運の親王である惟喬親王を祀る小さな惟喬神社も建っている。(文徳天皇の第一皇子である惟喬親王は、政争に敗れて京都の郊外各地を逃げるように転々とし、この雲ケ畑にも隠棲したという。)

惟喬神社
惟喬神社

ここからは路線バス( 雲ヶ畑バスもくもく号 )も無く、徒歩か乗用車などになるが、さらに細い山道を約1.4キロ登ると到着するのが志明院である。境内は修行場であることから、山門の中からは撮影禁止であるが、中には本堂に弘法大師空海が刻んだ不動明王、その横には鴨川の源流をなす滝が落ち、空海や歌舞伎 「 鳴神 」 で知られる鳴神上人が修業した洞窟、さらには舞台造となっている奥の院には、宇多天皇の命によって菅原道真が刻んだと伝わる不動明王が鎮座しているのだ。

鴨川の源流は、こうして現在も 特別厳重 に守られているのである

空海といえば日本人僧侶としておそらく最も著名な人物であり、偉大な宗教家である。また菅原道真といえば藤原氏以外で抜群の出世を遂げ、死後にはその力から神様として祀られた人物。その偉大な2人がどちらもそれぞれ不動明王を刻んだ聖地・志明院。さらに先に紹介した志明院の入口に鎮座する惟喬神社も、祭神の惟喬親王自身が北区にある玄武神社(玄武とは北を守る神様)では神様として祀られてる人物である。周辺が保安林などで保護されている物理的なこと以上に、精神的に、宗教的に鉄壁に守られている。そんな気がするのである。境内は石楠花の名所として知られ、4月下旬~5月初旬にかけて清廉に境内を彩ることから、この時期には人はそこそこ訪れる。しかし寺院の方いわく、「 実は紅葉がすばらしい! 」と。なるほど楓の木が程良く境内を包んでいる。ぜひ秋の紅葉の時期にも訪れてみたい。

※志明院 075-406-2061 拝観料300円

志明院入口
志明院入口

参拝を済まして清らかな気分になれば、洛雲荘にて、野趣あふれる中にも繊細な京料理の技を堪能できる川床料理をぜひ味わいたい。貴船の川床と違い、しっかりとした建物と屋根も常設されているため多少の雨でも楽しめるほか、椅子席も完備されている。

※洛雲荘 075-406-2204

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京都の魅力を発信する「らくたび」代表

1973年、京都生まれ。立命館大学在学中にプロの観光ガイドとして京都・奈良を案内。卒業後は大手旅行会社に勤務。2006年4月、京都観光を総合的にプロデュースする「(株)らくたび」を創立。以後、ツアープロデューサー、ツアー講師として活躍。2007年3月に「らくたび文庫」を創刊。現在、NHK文化センター、大阪シティーアカデミー、ウェーブ産経、サンケイリビング新聞社の講師、京都商工会議所の京都検定講師も務める。著書・執筆に『幕末 龍馬の京都案内』、『京都・国宝の美』、『見る 歩く 学ぶ 京都御所』(コトコト)など。京都検定1級取得。

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