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豊島将之挑戦者(30)4勝3敗2持将棋1千日手で永瀬拓矢叡王(28)を降し歴史的死闘七番勝負閉幕

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月21日。第5期叡王戦七番勝負第9局▲豊島将之竜王(30歳)-△永瀬拓矢叡王(28歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は23時7分に終局。結果は111手で挑戦者の豊島竜王の勝ちとなりました。

 豊島挑戦者はこれで4勝3敗2持将棋1千日手。長きに渡っておこなわれた叡王戦七番勝負の幕が下ろされるとともに、新叡王誕生となりました。

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豊島? 強いよね

「豊島竜王はなぜ藤井二冠に5連勝しているのか?」

 筆者は最近、この質問を何度マスコミの方から尋ねられたかわかりません。

「それはやっぱり豊島さんが強いからでしょうね」

 身も蓋もない言い方をすれば、そんなことになるのでしょう。

 豊島挑戦者リードで迎えた終盤。永瀬叡王も手段を尽くして粘ります。そして観戦者からは、相入玉、持将棋の可能性もささやかれ始めます。振り返ってみれば、第2局、第3局ともに思わぬ展開から持将棋となりました。

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 しかし本局、豊島挑戦者は崩れず、その優位はゆるぎません。自玉の安全をキープしながら、着実に相手玉に迫っていきます。そして永瀬玉は上部に逃げ出す余裕がありません。

 111手目。豊島挑戦者は桂を打って王手をかけます。

 ずっと長袖のワイシャツ姿で戦ってきた永瀬叡王はジャケットを着ます。そしてマスクをつけました。

 最後の最後、時間を表示するタブレットが消えるというハプニングが起こりました。最後まで何が起こるかわらかないという七番勝負。ほどなくタブレットは復旧しました。

 永瀬叡王は威儀を正して、一呼吸を置きます。

「負けました」

 永瀬叡王が頭を下げて、第9局は終了。豊島挑戦者が4勝3敗2持将棋1千日手でシリーズを制し、叡王位を獲得しました。

 豊島新叡王はこれで棋聖、王位、名人、竜王、そして叡王と1期ずつ、通算5期目のタイトルを獲得。これらはすべて挑戦からの奪取です。

「タイトルを防衛して初めて一人前」

 そんなことを升田幸三元名人は語ったと言われています。

 ただ、これはあまりに高いハードルと言えそうです。

「豊島竜王はなぜタイトルを防衛できないのか?」

 そんなこともよく尋ねられます。

「それは相手も強いからでしょう」

 身も蓋もない言い方をすれば、そんなことになるのでしょう。

 豊島新叡王はタイトルを次々と奪いながらも、防衛には失敗してきました。それだけ現代将棋界はレベルが高く、また競り合う相手もみんな強いということでしょう。

 豊島新叡王は8月、2勝4敗で名人位を失う逆境にも立たされました。そんな中で再びのタイトル奪取。やっぱりスキがない。強いとしか言いようがありません。

 豊島竜王・叡王の防衛初成功なるかどうかは、まずは羽生善治九段を挑戦者に迎えて10月に開幕する竜王戦七番勝負にかかっています。

 もちろん、防衛が難しいのは豊島新叡王だけではありません。

 また永瀬前叡王もタイトル初防衛はなりませんでした。こちらの防衛初成功なるかどうかは、現在進行中である王座戦五番勝負の結果にかかっています。

 新叡王、前叡王ともに、この先もほとんど休むことなく、次の戦いが続いていきます。

 それでも、ともかくもこの歴史的な死闘となった七番勝負にはついに幕が降ろされました。観戦する側も中継画面の前で何度叫んだかわからない、激熱の素晴らしいシリーズでした。「拍手、拍手」というのは原田泰夫先生のフレーズですが、筆者も一人の将棋ファンとして、両雄にスタンディングオベーションを送りたいと思います。

 そしてこれからも何度も直接対決を重ねていくであろう両者。対戦成績はともに6勝6敗2持将棋の五分となりました。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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