『金魚妻』等注目作への出演続く松本若菜 デビュー15年で掴んだ初主演作『復讐の未亡人』で熱演
『復讐の未亡人』(Paravi/テレビ東京)で連ドラ初主演
先日“松本若菜デビュー15周年で連ドラ初主演”という見出しが、ネットニュースやスポーツ紙上で躍り、大きな話題になった。そのドラマが3月9日から動画配信サービス「Paravi」で、独占配信がスタートした『復讐の未亡人』だ(7月からテレビ東京で放送)。本人はこのオファーが来た時「主演でいいんですか?」と聞き返したほど意外に思ったというが、しかしこれまで数々の映画、ドラマに出演し、必ず“匂い”と“爪痕”を残してきた松本の実力を関係者は高く評価していた。
「主演というのは自分の中ではあまりにも縁遠いもので、憧れすら抱けなかった」
現在も『復讐~』と『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)、そしてなんといっても2月に世界配信されたNetflixシリーズ『金魚妻』が海外でも高い評価を得るなど、注目作品への出演が続く松本にインタビューし、それぞれのドラマについて、そして役者として大切していることなどを聞いた。
「今まで、映画(『腐女子彼女。』(2009年))ではW主演をやらせていただいたことはありましたが、ドラマで、しかもまさか連ドラで主演というのは、自分の中ではあまりにも縁遠いものだったので、憧れすら抱けなかったというか。まさかそんな話が自分に来るなんて思ってもみませんでした」。
初座長が決まった瞬間のことをそう教えてくれた。主演は縁遠いもの、という捉え方だったが、逆にどうして主演の話が来ないのだろうというジレンマのようなものは、なかったのだろうか。
2017年、映画『愚行録』でヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞したことがきっかけで変わった、役者という仕事との向き合い方
「一切思いませんでした。ただ、20代の頃はやってみたいと絶対思っていたはずなんですが、それを過ぎてからは考えたことないです。2017年に『愚行録』という映画で、ヨコハマ映画祭で助演女優賞を頂いたことがあって、自分が演じたものに対して賞を頂けたのはそれが初めてでした。その時に周りの人に『主演女優賞は一人だけど、助演女優賞は、たくさんいる助演の中から選ばれた一人だから、すごいことなんだよ』と言われて、確かにそうだなって思いました。もちろん主演は背負うものも大きく大変ですが、そういうふうに言われると納得してしまって、それからはそれまで以上に、出させていただく作品については物語全体を見て、いかにその主演というキャラクターを立たせるかということを考えるようになりました。そこからだと思います、主演ということにこだわらないようになったのは」。
「バンドでいえばリズム隊。作品の土台を作りながら、色付けしていくのが役割だと思っています」
「主役を立たせる」という表現をした後、松本は別の表現でも説明してくれた。それはロック好きの彼女ならではの例えで、でもそれが的確で、彼女の実力を証明していた。
「その作品の出演者がバンドだとして、主役がボーカル、リードギターなら、私達はリズム隊だなって思っていて。ベースなのかドラムなのかはわからないのですが、ドラムのスネアでリズムを変えたり、そういう気持ちで臨んでいます。作品の土台を作りながら、でも世界観を崩さないようにということは意識しているかもしれません。監督と話し合いをして、いかに役に色付けしていくかという作業を大切にしています」。
『復讐の未亡人』は“甘美でSexyな復讐”を繰り広げるサスペンスドラマ。「憎い相手を精神的に追い込んでいく。観ている人にスカッとして欲しい」
バンドはリズム隊が肝だ。特にドラムはボーカルをサポートしつつ、全体に緊張感とドラマを築き、広げ、色彩を提供していく。音のテンションを支配している。そういう心持ちで役と向き合っているからこそ、松本は先述したようにどの作品にも“匂い”と“爪痕”を残しているのだ。
そんな松本が主演を務める”オンナの復讐シリーズ“『復讐の未亡人』のストーリーは――【愛する夫が自殺に追い込まれた真相を探るため、別人になって会社に潜入。夫を追い詰め、自殺に追いやった同僚たちひとりひとりへ借りを返すため、周到かつ華麗に仕掛けられていく罠。妖艶さと狂気を武器に“甘美でSexyな復讐”を繰り広げるサスペンス】だ――。原作は『金魚妻』と同じ黒澤R。人間の欲望や醜さを掬い上げ、同時に「救い」も描くその世界観にハマっているユーザーは多い。
「原作を読ませていただいて、『金魚妻』よりも表現が過激というか不気味さも見える作品だったのでこれを映像化する、しかも最初は配信だけど地上波のテレビ東京さんでもやるって聞いたとき『どうやるんですか、これ』と思いました(笑)。企画段階でプロットを見させていただいた時、女性の武器を使いながらの復讐もあるけど、それ以外に、相手が本当に嫌がる根っこの部分、人間が一番ストレスを感じるところを突いて、精神的に追い込んでいくところが描けたら、絶対に面白いし、復讐する相手が本当に憎たらしいキャラクターばかりなので、観ている人がスカッとすると思いました」。
ドラマを観たユーザーからも「スッキリさせてくれた」という声が多く届いているという。松本演じる鈴木密の、愛する人のための復讐でもあるが、自分のための復讐でもあるところが深みとなっている。
「確かに、自分だけの恨み節でやってるわけではなく、気づいてあげられなかったとか、止めてあげられなかったという部分で、自分も十字架を背負って生きているからこその復讐劇なんですよね。自分への戒めでもある中で、例えば1話の最後に出てくる『復讐って気持ちいい』というセリフも、どういう感情で、どういう意味を込めるのか、監督と悩みました」。
夫が働いていた職場に別人になって潜入し、全員から慕われる存在になるが、他の人には気づかれないところで見せるふとした表情や仕草で、密という女性が持つ“違和感”、不気味さを滲ませる、陰影の強さを感じさせてくれる演技に引きつけられる。
「今回の役は、動作を極力減らそうと思いました。考え事をするときに、目の動きで表すと簡単ですが、密は周りの人から『あの人は何を考えているのかわからない』と思ってほしいので、目の動きも極力減らして表現しています。職場でも馴染んで、ちゃんとその場に“生きている”んですが、生きていない、亡霊のような異質な感じを出すことは意識しました。だから表情も、一瞬出る本心の部分も、心の中では復讐のことを考えているけど、表情としては何を考えているかわからないように見てもらえたらいいなというのは、意識しないように意識していました。今回は撮影が始まる時点で最終話まで脚本があがっていたので、ラストがわかった上で演技できたことも大きいかもしれません」。
『金魚妻』では『頭痛妻』を好演
このドラマはセクシーなシーンも度々登場するが、セクシーといえばNetflixドラマ『金魚妻』では、人妻たちが惜しげもなく濡れ場を見せている。地上波では映像化は難しいと言われていた同ドラマで、松本の熱演も話題になった。『金魚妻』は、タワーマンションに住む一見幸せそうな6人の妻たち(金魚妻(篠原涼子)、外注妻(中村静香)、弁当妻(瀬戸さおり)、伴走妻(石井杏奈)、頭痛妻(松本若菜)、改装妻(長谷川京子))が一線を越え、「禁断の恋」に足を踏み入れるラブストーリーだ。松本は度々襲ってくる激しい頭痛に悩む主婦・田口慈子を演じている。
「難しかったですね。いわゆる濡れ場があそこまで描かれている作品は自分でも初めてだったので、どう描かれるんだろうって最初は不安でした。でもセクシュアルなシーンの立ち会いや指導、役者のケアをしてくださる、日本では珍しいインティマシー・コーディネーターの方が撮影に参加してくれたことで、安心して演じることができました。相手役の眞島秀和さんは“戦友”のような存在です。今回は眞島さんの滲み出る色気や、男性としての野生味溢れるところも、映像がしっかり捉えていて、美しく映っていると思います」。
「『頭痛妻』は、女性から『感動した』という声をたくさんいただき、嬉しかった」
『金魚妻』の中で「頭痛妻」は、そのストーリーから「感動した」という声が、松本の元にも届いているという。
「記憶を失っても結局、体と体は繋がっていて、それで心もまた繋がるんだということ、人間としての本能を忘れていなかったという部分に、特に女性から『感動して泣いた』という声をたくさんいただけて嬉しかったです」。
『金魚妻』は世界190カ国で同時独占配信された日本発のオリジナル作品で、「Netflixグローバル・トップ10」にランクインするという人気ぶりだ。
「ありがたいことにSNSのフォロワーが増えて、中でも香港やインドネシアの方が多く、それを見て改めて本当に世界配信なんだな、世界中の人が観ているんだなって思いました」。
4月クールのドラマ『やんごとなき一族』にも出演
「頭痛妻」で松本を初めて演出した監督は、『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)でも同ドラマへの出演をオファーした。その刑事役で、30センチ髪を短く切った写真を松本がインスタに上げた。そのタイミングで『復讐の未亡人』の企画を進めていた同番組のプロデューサーがそのインスタを見て、黒澤Rの原作の表紙に登場している女性と、松本が重なり「ここにいた」と思ったという。タイミングという名の“運”を手繰り寄せ、ブレイクポイントを迎えている。4月クールの土屋太鳳主演の木曜劇場『やんごとなき一族』では、尾上松也と夫婦役を演じることも発表されている。
「彼(猫)から色々な感情をもらっています」
多忙を極める松本は「彼から色々な感情をもらっている」という愛猫の存在が、生活をしていく上でとても大きいという。
「猫と出会って、自分がガラッと変わりました。猫だけではないと思いますが、特に猫は自分の言う通りには絶対にならない子が多いじゃないですか。そういうところで、それこそ自分だけの考えでは押し通せないという、人間関係に繋がるものを愛猫の“もずく”から教わって、再認識しています。芝居も独りよがりではできないし、よくスタッフからも『とにかく受け身の芝居を大事に』とアドバイスされますが、思い切り芝居する方が、楽なんです。でも家に帰ると常に猫が家主のような存在で、私は受け身で、ニャアって言われたらご飯かな、何かなって気持ちを察するようになって、私生活で受け身を実践して練習している感じです(笑)」。
「私の演技、セリフが誰かの救いになっているのであれば嬉しいです」
コロナ禍でも猫の存在が救いになったと教えてくれたが、この2年で表現者としての思いを新たにしたという。
「色々な作品があって、自分が演じた役に対して『すごく救われました』とか『元気をもらいました』という言葉をいただくと、こんなに人の心を動かせるという魅力を感じる反面、傷つける可能性もあるし、難しいなって改めて思いました。なにかのセリフで発した言葉で、その人が救われ、心が豊かになってもらえるのだとしたら、それが私の力ではなくても、とてもありがたいことだと思います」。
『復讐の未亡人』の第7・8話は3月24日(木)21時~Paraviで配信される。