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問題は”我々”が誰を欲しているかではなく、ザッケローニが誰を欲しているかだ。

杉山茂樹スポーツライター

コンフェデ杯後、暗い過去を振り返るより、明るい未来に期待したほうが得策とばかり、一瞬、盛り上がりかけていた代表監督交代を望む声は、すっかり萎んでしまった。

東アジア杯。従来のスタメン選手は出場しない。日本はB代表同然のメンバーで臨む。

盛り上がりが心配されたが、日本は、日本代表に特別な価値観を必要以上に見いだそうとする代表至上主義に染まる国だ。代表選手に選ばれることは、スターになったことを意味する。

新たなスターを常に欲しているメディアには、新顔が大量招集されたいまの状況は、願ったり叶ったりだ。ここに来て柿谷曜一朗、豊田陽平、扇原貴宏、斉藤学などの名前は、急速に露出。水曜日に行われたJリーグ報道も、新メンバーの話題一色だった。

かき消されてしまったというか、臭いものに蓋をされてしまった格好だ。

これまで埋もれていた選手の中から救世主が現れる可能性、まさに二匹目のドジョウが登場する可能性はどれほどあるのか。

前回、岡田ジャパンは、本田の出現で終盤、劇的に変化した。彼がいなかったらW杯本大会でのベスト16入りはなかったと言いきれるほどだが、この手の成功例はサッカー界によくある話ではない。

その本田登用にしても、きっかけは外的要因にあった。09〜10シーズンのチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦(対セビーリャ戦)で、彼が思いがけぬ活躍したからだ。それがなかったら、最終メンバーに残っていたかどうか、怪しい限りだ。

先のコンフェデ杯では、マイナーチェンジではなく、ある程度大幅な改造を行わない限り、日本の今後には、期待が抱けそうにないことを実感させられた。

マイナーチェンジであれば、監督を変える必要はないが、大幅な変革は、監督を交代させる方がスムーズにいく。理に叶っている。大幅な大改造を監督交代なしに行った前回、岡田ジャパンのケースはまさに例外だ。

改造のカギを握っているのは監督。これは紛れもない事実だ。選手はそうした意味で非力。現在騒がれているスター候補選手に、多くの期待は掛けられないのだ。

監督のお眼鏡に叶うか否か。問題はそこになる。しかし、監督はファンとは違い、全選手をフラットな目で見ているわけではない。今回、東アジア杯で活躍した順に、代表に残そうとしているわけではない。

ザッケローニが現在の代表チームをどう分析しているか、だ。足りているところはどこで、足りていないところはどこだと考えているか。

チャンスが多いのは、我々が求めている選手ではなく、ザッケローニが求めている選手。ザッケローニが足りていないと思っているポジションに該当する選手だ。残るのは誰かという興味は、空いていそうな場所を探ることで見えてくる。

センターバックはその一つ。現在、スタメンは今野泰幸と吉田麻也で固定されているが、正直いって、吉田のプレイに不安を覚えずにはいられない。ザッケローニのコンフェデ杯の起用法からも、不安視する様子が見て取れた。

その次に控えるのは栗原勇蔵で、今野、吉田がいない今回は、真っ先にスタメンを飾るに違いないが、それ以外の新戦力(千葉和彦、森重真人、鈴木大輔)が、生き残ろうとすれば、その栗原よりいいプレイをする必要がある。栗原を抜いて、3番手に上がる選手は現れるのか。3番手になれれば、吉田の背中は見えてくる。

サイドバックは、あまりチャンスがなさそうだ。今回選ばれた3人(駒野友一、槙野智章、森脇良太)と、従来の4人(長友佑都、内田篤人、酒井宏樹、酒井高徳)は、勝負がすでに決着済みの関係にある。駒野、槙野、森脇は、今回、チームを安定させるために選ばれた3人というべきである。

守備的MFは、現在スタメンを張る遠藤保仁と長谷部誠をどう考えるかで変わる。ザッケローニは両者にどれほど不安を感じているか。チームを大改造するなら、まず着手すべきは、このポジションになる。この2人が揃って最後までスタメンを張る可能性は客観的にみて半々。言い方を変えれば、それはどちらか一人が脱落する可能性と同じになる。今回初めて選ばれた3人(扇原、山口蛍、青山敏弘)の中で、今回、一番出番の多かった選手は有望だ。

前戦の4人(4−2−3−1の「3−1」)で、最後まで持ちそうなのは香川真司と本田圭佑。センターフォワードの2人(前田遼一、ハーフナー・マイク)と、岡崎慎司と清武弘嗣の4人には、絶対的な決め手がない。そうした意味では、最も開かれた、可能性の高い狙い目のポジションと言える。

有利になるのは、右も左も真ん中もできる多機能型の選手だ。センターフォワード、あるいは1トップ下しかできない選手は使い勝手が悪く、今日的ではない。チームとして交替の選択肢も狭まる。事実上のA代表に加わり、従来のスタメン候補の中に混じったとき、収まり場所を想定できるか否か。それができない非多機能型は、それこそ本田、香川を凌駕する圧倒的な力を見せつける必要がある。

実際に、そうした選手は見あたらないわけで、だとすれば、日本は選手の組み合わせで勝負していくしかない。

ザッケローニのメンバー交替術にはそうした意味でも注目だ。

これまで通り、後手後手を踏み、戦術的かつ建設的な交替ができないようなら、監督を代えるしか術はなくなる。

メンバーチェンジの上手い監督。その選択肢の多い監督こそ、いまの日本代表が求めるべき人材だと僕は思う。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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