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高市総務相「電波停止」発言めぐる討論会での元経産官僚・岸博幸さん「吊し上げ」?

篠田博之月刊『創』編集長
向って右端が岸博幸さん

4月1日、日本記者クラブ主催で「放送法を考える」という討論会が開催された。言うまでもなく、高市早苗総務相の「電波停止」発言を機に起こった放送法をめぐる問題について議論したものだ。その内容については2日付の複数の新聞が報じ、特に朝日新聞などが比較的大きな記事にしている。

でもそこには、その討論会で起きたある出来事が全く触れられていない。討論の本筋と関係ないと判断したのだろうが、でも私にはそうでもない気がするので、ここで報告しておこう。

シンポジウムのパネラーは、浅田次郎(作家、日本ペンクラブ会長)/岸博幸( 慶応大教授、元経産省)/西土彰一郎( 成城大教授〈憲法〉)/山田健太( 専修大教授〈言論法〉、日本ペンクラブ常務理事)だった。日本記者クラブのホームページに案内が載っている。

http://www.jnpc.or.jp/activities/news/report/2016/04/r00032886/

シンポの動画はユーチューブにアップされているので、興味ある人は見ていただきたい。

https://www.youtube.com/watch?v=Odf04vOyk3M

ある出来事とは、パネラーの岸さんが、TBS「ニュース23」のアンカーだった岸井成格さんを非難する意見広告を全国紙に掲載するなどしている右派グループ「放送法遵守を求める視聴者の会」の賛同者に名を連ねていることが、会場との質疑応答で大きな議論になったことだ。岸さんは元経産官僚で今は慶応大教授だが、テレビにコメンテイターとしてたくさん出ていることもあってパネラーに選ばれたらしい。

最初にパネラーとして発言を行った岸さんの話した内容は、むしろリベラル派がこの間主張してきたようなもので、高市発言を批判し、それに萎縮してしまって反撃できないメディアも情けない、というものだった。そういう見解ならどうして「視聴者の会」の賛同者に名を連ねているのかという疑問がわくが、それについて岸さんは「あれは名前を貸してほしいと頼まれたので応じたもの。意見広告の内容も知らなかった」と説明した。

1時間ほどパネラーが話した後、会場との質疑応答になったのだが、最初にデモクラTVの山田厚史さんが質問。岸さんに、「視聴者の会」賛同者からすぐに降りるべきですよ、と進言した。岸さんも「そうおっしゃるなら考えます」と答えたのだが、その話はそれで終わらず、その後も次々と質問がなされた。

岸さんもさすがに批判的空気を読み取ってか、「いま気が付きましたが、きょうは私の吊し上げの会だったのですね」と言って、「というのは冗談ですが」と続けた。受け流して場をなごませようとしたらしいのだが、そうは行かなかった。

その後で質問に立った人は「さきほどから聞いていると、名前を貸しただけというのは無責任じゃないですか」と、厳しく岸さんを批判。岸さんの顔つきも変わったように見えた。

確かに岸さんの見解を聞いてみれば、「視聴者の会」のスタンスと全く異なるし、「名前を貸しただけ」ではすまないような気がする。

同団体のホームページの賛同者には、ノンフィクションライターの溝口敦さんも名を連ねていて、これについては新聞の取材に答えて溝口さんは、賛同者依頼が届いた時によく中身を読まずに返信してしまったと答えている。

ちなみに会のホームページには、賛同者の欄に溝口さんのこういうコメントが載っている。「NHK、民放を問わず、局の体質はゼイ弱です。ともすれば、権力と多数陣営に迎合しがちです。せめて放送法を盾に民主主義を守り、戦前への回帰を阻止せねば、と思います」。会の主張とむしろ反対の見解にも見えるのだが、そのまま掲載されている。

「視聴者の会」はいまや極めて政治的な団体となっているのだが、賛同依頼は、なぜか上野千鶴子さんらリベラル派の言論人にも送られていたようだ。

シンポジウムで本人が「吊し上げ」と表現したような批判を浴びた岸さん、さてその名前は「視聴者の会」のホームページでどういう扱いになるのだろうか。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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