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ウクライナ危機、岸田首相は自身の発言を実行しなさい―防弾チョッキより必要なこと

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
在日ウクライナ人によるデモ 筆者撮影

 政府は今月4日、ロシア軍から侵攻を受けているウクライナを支援するため、防弾チョッキやヘルメット等を提供することを決定。同8日にウクライナ隣国ポーランドへ、これらの防衛装備品の輸送を開始した。だが、交戦中の国への防衛装備品の提供は異例中の異例であり、紛争を助長しないという日本国憲法の理念にも抵触するのではないか、との意見が野党や専門家などから指摘されており、また、ウクライナ側の要求により、より殺傷力のあるものへと、防衛装備品の提供の歯止めがかからなくなる恐れもある。他方、在日ウクライナ人達の働きかけに応じるかたちで、軍事ではない分野で、日本が出来うることもあるだろう。その一つがロシアの天然ガス・石油の輸入の停止であり、そのためにも建築物の省エネ化が必要で、国会での関連法の審議が求められている。

◯ウクライナへの防衛装備提供、歯止めなくなる恐れ

 今月4日に决定され、8日には隣国ポーランドまでの輸送と急ピッチで進められたウクライナへの防弾チョッキの提供。武器等の他国への提供に関しては、かつて武器輸出三原則で厳しく規制されていたが、同三原則は2014年に撤廃され、防衛装備移転三原則が新たに定められた。同三原則では「紛争当事国には防衛装備を移転しない」とされているのだが、この「紛争当事国」というのが、国連安保理の措置の対象となっている国と定義されているため、今、正に交戦中のウクライナが「紛争当事国ではない」(政府与党)という解釈となってしまうのだ。また、防弾チョッキは殺傷力のある兵器ではないが、今回の提供により、ウクライナへの防衛装備品の提供の歯止めがかからなくなる恐れがある。実際、産経新聞(今月8日付)が報じたところによれば、日本政府に対し、対戦車砲や、地対空ミサイル、小銃の弾薬などの提供をウクライナ側が求めていたのだという。同記事によれば、日本政府は「法的根拠がない」とのことで、今回はこれらの兵器は提供できないとしたとのことだが、今後、より殺傷力のある兵器の提供のための法整備という流れになるのかもしれない。

◯「ロシアの天然ガスを買わないで!」

 他方、ウクライナを支援しなければという国際的な機運があり、日本国内でもそうした声は高まっている。憲法に抵触しないかたちでのウクライナ支援を行うのであれば、食料・医療品等の支援物資の提供や、日本での受け入れも含むウクライナ周辺国に避難している難民達への支援などを行うべきで、既に日本政府もそうした方向で動いている。その他、プーチン政権にウクライナ攻撃をやめさせる上で、日本が出来うることは、ロシアからの天然ガスや石油の輸入を停止することだ。先月26日と今月5日、筆者は在日ウクライナ人の人々を中心に都内で行われた反戦集会/デモを取材した。そこで、在日ウクライナ人の人々が求めていたことの一つが、「ロシアの天然ガス・石油の輸入停止」なのだ。

「ロシアの天然ガスを買わないで」と訴える在日ウクライナ人女性 筆者撮影
「ロシアの天然ガスを買わないで」と訴える在日ウクライナ人女性 筆者撮影

 石油・ガス関連収入はロシアの政府歳入の約4~5割を占める。また、日本の輸入はロシアの天然ガス輸出全体の1割弱を占めているのだ。言い換えれば、日本が天然ガスや石油等をロシアから輸入することは、ロシアに戦費を提供することなのである。今月8日、米国のバイデン政権は、ロシア産の原油、天然ガスの輸入停止を決定した。日本もこの流れに加わり、輸入停止に後ろ向きなドイツなどに働きかけることが、「プーチンの戦争」の資金源を断つ上で重要なのである。

◯エネルギー消費全体の3分の1!建築物の省エネ化が重要

 日本はロシアからの天然ガス・原油の依存は低いものの、それでも国際的な原油・ガスの価格高騰の影響は免れないだろう。岸田首相も、今月3日の会見で、ウクライナ情勢に関連して省エネを呼びかけた。

「私たちは、ロシアのウクライナ侵略という、極めて深刻な事態に直面している。エネルギー価格の高騰による、我が国経済への悪影響を少しでも減らすべく、これまで以上の省エネに取り組み、石油やガスの使用を少しでも減らす努力をしていくことが大切だ」

 そこで、必要なのが、住宅やオフィス等の省エネ化だ。東北芸術工科大学教授の竹内昌義氏、東京大学准教授の前真之氏らは、建築物省エネ法改正案を国会に提出することを求め、ネット署名を呼びかけている。この署名の趣旨は、脱炭素社会を実現するため、日本のエネルギー消費量全体の約3分の1を占める、家庭やオフィスビル内の冷暖房などを含む建築物でのエネルギー消費を削減するために、建築物省エネ法を改正し、「建物のゼロエネルギー化」を進めようというものだ。同改正案は、新規の住宅や建物で高断熱などの省エネ化を義務化するというもの。国交省が同改正案を準備していたが、今年夏の参院選への影響を懸念したのか、岸田内閣は同改正案の国会提出を先送りする見通しなのだという。

 だが、岸田首相自身が省エネを呼びかけている以上、一般市民や企業の自主的な省エネ努力に頼るのではなく、建築物省エネ法の改正を急ぐべきだろう。高断熱や太陽光発電を組み合わせたZEH(ゼロエネルギーハウス)を推進し、さらに鳥取県で既に実施されているような建築物の省エネ化に補助金を出す等の支援を行う。これらのことこそ、防弾チョッキを送るよりも「プーチンの戦争」を止める力となり得るし、日本の脱炭素化という中長期目標を実現する上でも重要なのだ。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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