アップル、iPhoneの製造で脱中国依存 インドへ
先ごろロイターは、米アップルの委託製造業者である台湾3社がインドでのスマートフォン生産に総額9億ドル(約1000億円)を投じる計画だと報じた。
投資額の大部分をiPhone生産に
「PLI(プロダクション・リンクト・インセンティブ)」と呼ぶインド政府の補助金制度を活用するもので、鴻海精密工業(ホンハイ)は約400億ルピー(約572億円)を、緯創資通(ウィストロン)は約130億ルピー(約186億円)を、和碩聯合科技(ペガトロン)は約120億ルピー(約172億円)を投資するという。
このPLIとは、携帯電話や特定電子部品の国内生産を後押しするためにインド政府が拠出する補助金制度。2019~20年を基準とし、国内生産製品売上高の増加分に対して4~6%の金額を5年間支払うという。
3社はこれを活用し、インドにおける生産能力の拡大を図る。ロイターによると総額9億ドルのすべてがアップル製品の設備などに向けられるかどうかは分からない。だが、事情に詳しい関係者は、その大部分がスマートフォン「iPhone」の生産に特化すると話している。
iPhoneのインド生産については先ごろ、ホンハイ傘下の電子機器受託製造サービス(EMS)大手の富士康科技集団(フォックスコン)が南部チェンナイ近くに持つ工場で前モデルの「iPhone 11」の生産を開始したと米テッククランチが報じた。
ロイターの今回の報道によると、フォックスコンはインドで中国・小米(シャオミ)のスマートフォンも製造しているが、その生産体制に余力がある。こうした中、フォックスコンは政府のPLIを活用し、iPhoneの製造を拡大する可能性があるという。
アップルがインドでiPhoneの製造を始めたのは2017年。当時はウィストロンが南部ベンガルールの工場で比較的低価格のiPhoneを製造していた。しかし、2019年にはフォックスコンも製造を開始した。ウィストロンも生産能力を拡大するなど、アップルは同国での生産量を増やしている。
ウィストロンは8月に「iPhone SE」(第2世代モデル)の生産を開始した。現在、同モデルを月間20万台生産しているが、これを年内に40万台に増やす計画。一方、ペガトロンは、同社初のインド工場操業開始に向けて準備を進めているという。
iPhoneのシェア1%、急成長見込まれるインド市場に期待
アップルにとってこうした動きは、中国への依存を低減し、急成長が見込まれるインドのデジタル経済への布石を意味するという。移動通信関連の業界団体GSMAの調査・コンサルティング部門であるGSMAインテリジェンスのレポートによると、インドのモバイルインターネット利用者は今後5年で1億7100人増加すると見込まれている。この人数は同期間に予想される米国と中国を合わせた新規利用者数の2倍という。
また、香港の市場調査会社カウンターポイント・テクノロジー・マーケットリサーチによると、インドの2019年におけるスマートフォン出荷台数は前年比7%増の1億5800万台。同国は出荷台数ベースで米国を抜き、中国に次ぐ世界2位のスマートフォン市場になった。
インドにおけるメーカー別出荷台数の上位5社は、1位から中国・小米(シャオミ)、韓国サムスン電子、中国vivo(ビボ)、中国realme(リアルミー)、中国OPPO(オッポ)の順で、アップルはこれらから大きく引き離され、シェアわずか1%にとどまる。
インド生産のメリットは製造コスト削減と販売拡大
インドに部品を輸入して現地で組み立てて販売すれば、完成品を輸入するのに比べ関税を2割低く抑えられるという。つまり、アップルは現地生産を増やすことで輸入時にかかるコストを抑えられるほか、同国で直営店開設の条件となっている地場企業からの調達比率を高めることができる。
アップルは9月23日に同社としてインドで初となる直営のオンラインストアを開設した。これを足掛かりに、同国で同社初の直営店展開を進める考えだ。
米ブルームバーグによると、アップルは、まず2021年に西部ムンバイで1号店を開設する予定。場所は「BKC(バンドラ・クルラ・コンプレックス)」と呼ばれる新都心エリア。同社はベンガルールで2号店をオープンする計画も立てており、すでに4万6000平方メートル(東京ドーム約1個分)の用地を確保しているという。