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わいせつ容疑で逮捕:暑くて下着姿になった女性:許される範囲と私達の文化

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(ペイレスイメージズ/アフロ)

■下着姿で「わいせつ容疑」逮捕

駅前で下着姿になった女性が、公然わいせつ容疑で現行犯逮捕されたと報道され、ネット上で話題になっています。小さな事件だと思いますが、「昔なら下着姿の人けっこういたよ」ということで、話題になっているようです。

JR静岡駅前の広場で衣服を脱ぎ、ブラジャーとパンツだけの姿になったとして、静岡中央署は8日、公然わいせつの疑いで、静岡県沼津市に住む無職の女(43)を現行犯逮捕した。「暑かったので服を脱いだ」と供述している。

出典:わいせつ容疑 43歳女を逮捕 「暑くて…」駅前で下着に:毎日新聞2017.7.8

JR静岡駅前で突然下着姿になった女が現行犯逮捕されたニュースが話題に。ですが、昔は夏に下着同然の姿で出歩いている人を普通に見かけた気がする、という意見も出ています。

出典:「暑かったので服を脱いだ」女性 現行犯逮捕される:ツイッターモーメント7.8

ネット上の声

「下着姿で公然わいせつ罪になるんだ」

「下着姿でアウトなのか?日本の基準はそんなんだっけ?」

「なぜ全裸でもないのに逮捕なのだろう? 1970年代なら、暑い日に上半身が裸のお婆さんが当たり前のように道を歩いていたけれど。」

「昔、京阪電車で、おばちゃんが上半身裸になって乳出して汗拭っていたの見たことある。」

「子供の頃地元の近所とかパン一でウロついてるおっちゃんたくさんいたけどなあ。あれもほんとはダメなのかな。」

「水着だったら多分よかったんだよね…」

■わいせつとは、公然わいせつとは

わいせつ(猥褻)とは、国語辞典的には「性に関する事を健全な社会風俗に反する方法・態度で取り扱うこと」です。

公然わいせつ罪とは、公然と人目に付く場所でわいせつな行為やわいせつ物を露出することです。

駅前で全裸になったり、公衆の面前で性行為をしたりすれば、公然わいせつ罪でしょう。ただし、何がわいせつなのか、何が公然わいせつ罪になるのかは明確な定義はありません。わいせつは、時代により、社会により、状況により変わります。ここでは、法律の問題ではなく、心と社会の問題として考えましょう。

■何がわいせつ?下着姿はだめ?

何がわいせつかは、芸術問題などもからみ、長く議論されてきました。

今回下着姿で逮捕された報道を受け、「昔は下着姿の人なんかいたよ、本当はだめだったの?」というツイートが見られます。これは、時代と社会と状況の違いによるのでしょう。

たしかに昔は、おじさん、おばさん、おじいちゃん、おばんちゃん、そして子ども達。けっこう下着姿で歩いていたり、縁側に座っていました。昔は、これでも良かったのでしょう。数十年前の田舎なら、田んぼの横でお尻を出して放尿しているおばあちゃんなどもいたそうです(昔でもブラとパンツ姿の40代女性を駅前で見ることはなかなかなかったと思いますが)。

裸に近い格好や、下着姿がどの程度まで許容されるかは、時代と社会と状況によって違います。男性でも下着のパンツ一枚で駅前を歩いていれば、警官が来そうです。

でも、祭り会場でふんどし姿になっている男達は認められます。まあ、力士達の姿も認められますからね。ニューヨークでは、ズボンやスカートをはかずに下着のパンツ姿で地下鉄に乗るイベントもあります。「とにかく明るい安村」さんも、裸芸の「アキラ100%」さんも、テレビにでています。ただし、裸芸に対しては「卑わいだ、テレビに出すな」という意見もありますが。

女性が胸を出すことは普通は認められませんが、赤ちゃんへの授乳だと許容さえることはあるでしょう。これはこれでまた、多くの意見がありそうな話題ですが。

海水浴場の水着はもちろんOKです。しかし街中の水着姿は、少なくとも迷惑ではあるでしょう。でも、女性の水着に近いような服装を繁華街で見ることはありますね。水着ではないのでOKですが、デザインや記事の材質などで印象が異なる微妙なところです。たとえば、とても短いスカートや、とても肌の露出が多い服は、どこまで認められるのでしょうか。

■何がわいせつか、何がだめなことか

○人とは違う少数派はだめ?

多くの普通のみんなと同じ姿をしていれば、逮捕されることはないでしょう。みんなと違うことをしていると、人々は異常とか悪いことと感じることがあります。

女性みんながひじもひざも出していない社会で、ミニスカートやノースリーブの服を着れば、とても変に思われるでしょう。髪を人前で見せることは恥ずかしいこととされる社会もあります。

時代や社会によって、みんながそうしていることはOK、とても少数派だとだめということです。

○許容範囲ならOK?

たとえ少数派であっても、許される範囲内ならOKです。一時期、女性のファッションでおへそを出す服が流行りました。流行ったとはいえ、少数派です。ただ、この程度であれば社会は認めたのでしょう。逮捕された話は聞きません。背中が大きく出ている服も同様です。

これが、お尻丸出し、おっぱい丸出しならどうでしょうか。いくらファッションだと主張しても、認められないでしょう。社会はまだ、そこまでは許さないからです。

○価値があるかどうか

少数であり、普通なら限度を越えた許容されないものでも、価値が認められれば私達はそれを悪いことだとは考えません。それは、一部の神事、祭り、伝統、スポーツ、イベント、芸術などです。

世の中全体がその価値を認めていれば、逮捕されません。新しい活動で、本人は価値があると主張しても、世間や警察や裁判所が認めなければ、わいせつとなるのでしょう。裸芸も、お笑い芸として価値が認められるかどうかなのでしょう。

■世の中の変化

社会が変われば、何がわいせつかも変わります。いつの間にか変わることもあるし、大きな議論になることもあるでしょう。昔がいつも良いわけではなく、新しいものがいつも良いわけでもありません。でも、私達はそうして私達の文化を作っていくのです。

*今回逮捕された女性は、本当に暑くて服を脱いだのか、それとも何か心のバランスをくずして服を脱いでしまったのか、わかりません。これが男性であれば、社会的生命を失っていたかもしれません。社会の常識を知ること、そして心の健康を守ることも、大切です。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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