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藤井聡太王位、防衛、5連覇を達成し永世王位の資格獲得! 渡辺明九段の挑戦を4勝1敗でしりぞける

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月27日・28日。兵庫県神戸市・中の坊瑞苑において、伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦七番勝負第5局▲藤井聡太王位(22歳)-△渡辺明九段(40歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 27日9時に始まった対局は28日18時21分に終局。結果は97手で藤井王位が勝ちました。藤井王位は4勝1敗1千日手で七番勝負を制し、防衛。5連覇を達成しました。

 また藤井王位は「連続5期」という規定をクリアして、史上4人目となる永世王位の資格を獲得しました。

 勝つたびに、次々と歴史的な記録を更新していく藤井王位。今年7月、史上最年少で永世称号(永世棋聖)の資格を獲得したのに続いて、史上最年少で「永世二冠」を達成しました。

藤井「(七番勝負は)やっぱり全体としての内容的には押されていた将棋が多かったので。防衛という結果には幸運もあったかなと思いますし。やっぱり今後ももっと、力をつけていかなくてはいけないなと感じたシリーズでもあったかなと思います。(永世王位については)それも対局に臨む上では、意識はしていなかったんですけど。永世称号、得られたということもうれしく思っていますし。王位戦、この5期を通して、自分自身、いろいろな経験をすることができたかなというふうに思っています」

 藤井王位のタイトル通算獲得数は24期となりました。

雁木VS速攻

 本局は藤井王位先手。作戦家の渡辺九段は後手で、新型雁木の作戦を取りました。対して藤井王位は袖飛車から棒銀で速攻に出ます。

 両者ともに研究十分を思わせる進行。銀交換のあとの36手目、渡辺九段は相手の歩頭に銀を打ちつけました。驚くような一手が、次から次へと出てくるのが、現代将棋の序中盤です。

藤井「△8六銀と打たれたところは、いくつか対応が考えられるかなと思ったんですけど。どれも難しそうなので、比較がなかなか、難しいところかなと思っていました」

 対応によっては、早くも千日手も生じる局面。先手の藤井王位は、三段目に玉を上がる形で応じて、千日手は避けます。部分的には大変な悪形ながら、これでバランスは取れていました。

藤井「やっぱり7七玉が見慣れない形で。どういう方針でやるか、難しい局面が続いた将棋だったかなと思います」

 40手目、渡辺九段は中央に角を出て王手。さらには受けの金の中段に押し上げ、藤井陣が整う前に、プレッシャーをかけていきます。

渡辺「△5五角から△5四金は無理かなとは思ったんですけど。普通に組んでるだけだと少しずつ苦しくなるかなと思ったんで。なんか勝機があるとしたら複雑な攻め合いになる感じかなとは思ったんで、ちょっとやっていこうかなとは思ったんですけど。形的にでもやっぱり、無理はしてるだろうなという感じはしてました」

 44手目、渡辺九段は歩を突いて、藤井玉の斜めのラインをねらっていきます。藤井王位が45手目を封じて1日目は終わり、指し掛けとなりました。

藤井王位、盤石の防衛

 明けて2日目。藤井王位の封じ手は、角を追う歩突きでした。以下、藤井玉の近く、中央でのもみ合いが続きます。

藤井「封じ手、▲5六歩としたんですけど。▲2四歩から▲5六銀のような感じで、激しく戦っていくべきだったかなということは少し、封じ手のあとに思っていました」

 61手目。藤井王位は金で角を取り、駒得をします。その代償に渡辺九段は、藤井玉に迫っていきました。

藤井「複雑でよくわからないと思っていました」

渡辺「なんか直前(58手目)に△8六歩突いちゃった手をちょっととがめられたかなという感じはしてたんですけど。でも角を取られるような展開はもともと、なんか差し出してる感じなので仕方がないかなっていう感じでは思ってました」

 73手目。藤井王位は飛車を切って銀と刺し違え渡辺玉に迫っていきます。

渡辺「飛車切って(75手目)▲6四歩打たれて、どうも足りない・・・。それまではちょっと難しいところもあるかなと思ってたんですけど、▲6四歩打たれて、しばらく考えてみると、どうも足りないかなっていう感じには思ってました」

 渡辺九段は形勢をやや悲観していましたが、評価値の上ではほぼ互角のまま、終盤へと入っていきました。

 77手目。藤井王位は左端9筋に角を打ちます。これが攻防に利く位置。歩を打たれると相手陣への利きは止まるものの、最後に自玉の詰みを防ぐのにはたらきました。

藤井「飛車を切っていく前後でちょっと誤算があってあまり、自信の持てない展開になってしまったような気もしていたんですけど。(79手目)▲7四銀打から下駄を預けて、その間にどのぐらい厳しい攻めが来るかといったところかなと考えていました」

 渡辺九段は藤井陣に飛を打ち込み、さらには銀を打って藤井玉に迫っていきます。対して85手目、藤井王位はその飛と銀の両取りに角を打ちます。これが正確な速度計算に基づく決め手となりました。

渡辺「いや、▲3九角で全部ちょっと足りないとは思ったんですけど」

 渡辺九段は飛を取らせる代償に藤井玉に迫っていきますが、直前に打たれた攻防の角がよく利いていて、一手届きません。

 97手目。藤井王位は銀取りに桂を打ちます。手数はかかるものの、これが詰めろです。藤井王位ならば逃さない。渡辺九段は次の手を指さず、潔く投了を告げました。

夏の王位戦、閉幕

渡辺「(本局は)ちょっと序盤の岐(わか)れも少し苦しいと思うんですけど。なんか、あまりいいところがなかったというか。そういう感じの将棋でしたかね。(七番勝負は)途中までは、内容的にはまずまず戦えていたかなとは思ってたんですけど。4局目、5局目と、全然いいところがない将棋になってしまったのはちょっと残念ですかね」

 王位戦七番勝負を初めて戦った渡辺九段。後手番で千日手に持ち込んだ第1局から、特にシリーズ前半では押し気味だっただけに、残念な敗退となりました。

 両者の通算対戦成績は藤井24勝、渡辺5勝となりました。

 将棋界の歳時記では、王位戦が終わると、夏もまた終わった感があります。

 藤井王位は七冠を堅持し、9月からは王座戦五番勝負で永瀬拓矢九段の挑戦を受けます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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