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エリザベス女王が教えてくれた、「エイジレスに生きるコツ」 秘訣を読み解く

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
(c) Elizabeth Productions Limited 2021

英国の国家元首、エリザベス2世女王が在位70周年を迎えました。英国が今年最も盛り上がるビッグイベントがこの「プラチナ・ジュビリー」初の長編ドキュメンタリー映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』も2022年6月17日に公開されます。今回はこの映画を通して、エリザベス女王のいつまでも変わらないエイジレスな魅力を掘り下げてみます。

女王は世界のファッションアイコンとしても知られています。4月に96歳を迎えたとは思えないチャーミングな女王。実は若い頃からおしゃれ上手でした。年齢を重ねても魅力的に映るのは、自分らしい着こなしのスタイルを確立しているから。長い歴史を持つ英国王室流の細かい決まり事を守りながらも、マイスタイルを貫く女王のポリシーは世界のファッショニスタからリスペクトされています。

王冠やジュエリー、ドレスで「女王」らしさを象徴

映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』 (c) Elizabeth Productions Limited 2021
映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』 (c) Elizabeth Productions Limited 2021

映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』 (c) Elizabeth Productions Limited 2021
映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』 (c) Elizabeth Productions Limited 2021

エリザベス女王は英国だけではなく、英連邦のリーダーです。だから、オフィシャルな儀式やイベントがたくさん。公式行事の際には女王の装いも特別な威厳が加わります。王冠をはじめとする、様々な装飾は女王だけのオンリーワン仕様で、圧倒的な「王様感」が漂います。

王室メンバーがまとう、いわゆる「ロイヤルファッション」の中でも、女王の装いは別格です。宝石や貴金属できらびやかに飾られた王冠やドレスは権力のシンボル。たとえば、世界最大の研磨・カット済みダイヤモンドといわれる「カリナン」シリーズは英国王室の笏(杖)や冠にあしらわれています。王様であることを、ファッション自体が印象づけているわけです。

映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』 (c) Elizabeth Productions Limited 2021
映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』 (c) Elizabeth Productions Limited 2021

今回の映画では、女王が様々なセレモニーに参加したときの姿が収められています。英国王室ならではのイベントにはいろいろなものがあり、たとえば馬に乗った形での参加は、いかにも英国王室らしく見えます。たくさんの勲章や、飾りモール、肩章などが凜々しさを引き立てています。

映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』 (c) Elizabeth Productions Limited 2021
映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』 (c) Elizabeth Productions Limited 2021

見逃せないポイントのひとつは、随所に登場するジュエリーやアクセサリーです。公式行事や外交シーンでは、一定の華やぎを宝飾品で演出するのが決まり事のようになっています。女王が着用するジュエリー類は誰もがうらやむような別格の名品ばかり。イヤリングとネックレスといったコンビネーション使い、重ね付けのテクニックもお手本にもなりそうです。

映画の隠れた見どころ 女王のプライベートな「素顔」

映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』 (c) Elizabeth Productions Limited 2021
映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』 (c) Elizabeth Productions Limited 2021

映画の隠れた見どころになっているのは、女王のプライベートな「素顔」。女王は国家元首であると同時に、亡きフィリップ王配の妻でありましたし、4人の子どもたち(チャールズ、アン、アンドルー、エドワード)の母でもあります。人生の様々な場面で見せた「個人・エリザベス」の表情は儀式の場面を見ることの多い中、彼女のヒューマンなキャラクターを感じさせてくれます。

映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』 (c) Elizabeth Productions Limited 2021
映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』 (c) Elizabeth Productions Limited 2021

映画のなかではポール・マッカートニーが「リバプールの小僧たちはみんな女王様が大好きだった」と言うように、皆の憧れの的でした。映画ではザ・ビートルズ、ダニエル・クレイグ、マリリン・モンローらのスターをはじめ、歴史に残る政治家、各界のセレブが登場。貴重な映像・楽曲が華を添えてくれます。

同系色で統一 ネックレスやブローチで気品を演出

パールネックレスとブローチをダブル着けして気品と華やぎを表現
パールネックレスとブローチをダブル着けして気品と華やぎを表現写真:REX/アフロ

女王特有の着こなしである「エリザベス・ルック」には、いくつかの際立った特徴や傾向があります。その一つに挙げられるのは、色をそろえる「同系色コーディネート」です。上品なムードを醸し出すうえで、色の統一は効果的です。特に帽子まで同系色で統一するのが女王流です。

英国王室には「ロイヤルブルー」と呼ばれる、特別な青色があり、それ以外のブルーも女王は好んで着ています。2連のパールネックレスが気品を引き立てました。1960年代の女王のファッションを象徴する特大の襟が朗らかな雰囲気と品格を寄り添わせています。大きな襟がレトロフェミニンな新トレンドとして復活している理由もわかります。

グローブとコートボタンの黒がピンクをシックに引き締める絶好のアクセントカラーに
グローブとコートボタンの黒がピンクをシックに引き締める絶好のアクセントカラーに写真:代表撮影/ロイター/アフロ

女王はきれいな色をよくお召しになります。ピンクやブルー、グリーンなど、様々なバリエーションがありますが、どの色にも共通しているのは、割と色味がはっきりしている点です。実は女王の服には「目立ちやすい色を選ぶ」というルールがあるそうです。大勢が集まるような催しの際でも、警備担当者が女王を見付けやすいようにという配慮からだとか。さらに、全身をワントーンでまとめているので、どこにいらっしゃっても、女王の居場所は一目瞭然。コートを彩るブローチがリュクス感を加えています。

エリザベス女王が出かけるときには必ず持ち歩いている「ロウナー ロンドン(Launer London)」は熟練の職人が丁寧に仕上げています(筆者撮影)
エリザベス女王が出かけるときには必ず持ち歩いている「ロウナー ロンドン(Launer London)」は熟練の職人が丁寧に仕上げています(筆者撮影)

ヘッドスカーフの達人 優美に巻いて、顔周りに華やぎも

1960年代に披露されたワンピース風に着こなしたコート姿が凛とした佇まい
1960年代に披露されたワンピース風に着こなしたコート姿が凛とした佇まい写真:REX/アフロ

先に紹介したパールネックレスとブローチの重ね着けのように、女王は小物類の扱いもお上手です。顔周りを彩るスカーフは「エリザベス・ルック」の隠れたキーピース。たとえば、こちらはおそらく風の強かった日なのでしょう。髪の毛をスカーフですっぽり包んで、いわゆる日本でも1950年代にヒットした「真知子巻き」風に。足元もラバーブーツでアクティブな雰囲気を演出。

公務でいろいろな場所に出向くことがある女王は、「品格×アウトドア」のテイストミックスな着こなしを当時から披露しています。近ごろ人気のスタイリングであり、女王は大先輩と言えます。

大きめのスカーフを使えば、小顔効果も発揮
大きめのスカーフを使えば、小顔効果も発揮写真:REX/アフロ

アスコット競馬場やエプソム競馬場など、英国を代表する競馬場は社交の場でもあります。王室関係者は競馬や乗馬と縁が深く、女王の娘であるアン王女は乗馬の英国代表としてオリンピックにも出場しているほどです。

2021年ロイヤル・ウィンザー・ホース・ショーでホースショーを観覧する女王は、スカーフで顔の周りをくるんで、キュートな表情に。コートのグリーンと濃淡のコントラストを際立たせました。風が強い日の屋外では、髪の毛が風にあおられないよう、スカーフでまとめるのが得策。レディーライクな見え具合に仕上がる小技です。

エイジレスに生きるコツ 「チャーミングでユーモア、好奇心旺盛」

映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』 (c) Elizabeth Productions Limited 2021
映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』 (c) Elizabeth Productions Limited 2021

100年近くになる人生の中で、第2次世界大戦やEU加盟・離脱など、波乱に満ちた75年を過ごしてきたエリザベス2世女王。若かりし頃と今とを見比べてみても、着こなしの軸がぶれていないのは、「自分らしいおしゃれ」を知っているからこそ。ファッションは、その時点での彼女の状況や役割を代弁しているかのようでもあります。

今回の映画では、チャーミングな女王の素顔を見ることができます。そして、改めて感じるのは、人は何歳になっても、好奇心や遊び心などを持ち続けることで若々しくいられるということ。

おしゃれに関しても、若き日々の「好き」をぶれさせないで着続けていると、自然と自分ならではの着こなしが育ちます。この映画に描かれたエリザベス2世女王は無言のうちにファッションの楽しさを語りかけてくるかのよう。全編を通して映し出される女王のキュートな笑顔も見習いたいポイントです。

『エリザベス 女王陛下の微笑み』

https://elizabethmovie70.com/

6月17日(金)、TOHO シネマズ シャンテ、Bunkamura ル・シネマほか全国公開!

(c) Elizabeth Productions Limited 2021

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ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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