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「何がエッセンシャルワーカーだ」ワクチンを打ちたくても打てないトラックドライバーたちの嘆き

橋本愛喜フリーライター
深夜の高速道路を走るトラック(筆者撮影)

「コロナ運ぶな」

トラックドライバーたちはよく「国の血液」と比喩される。

コロナ禍においては「エッセンシャルワーカー」とも称され、世間が巣籠もり生活やリモートワークをする中、社会インフラを支えるべく、日々「荷物」という名の「栄養」を「体」の隅々まで運び続けてきた。

しかし、そんな彼らに対しては、感染拡大当初から世間による偏見や仕事中における理不尽が続く。

国内での感染が本格化した昨年4月、全国各地にあるガソリンスタンドのシャワールームが感染拡大防止を理由に一時閉鎖。

長距離トラックドライバー向けにガソリンスタンドが厚意で無料開放してくれている施設ではあるものの、閉鎖中の1週間、彼らは公園で髪を洗ったり、コンビニに常備されている即席めん用のポットの熱湯をタオルにしみこませて体を拭いたり、ガソリンスタンドの洗車機の水で体を洗ったりするなど、困難を強いられた。

県外ナンバーのトラックや宅配においては、届け先の人から「コロナ運ぶな」という声が浴びせられたドライバーや、無言で除菌スプレーを吹きかけられた配達員も。

トラックドライバー本人だけでなく、その子どもが入学式の出席を拒否されたり、パートナーが出社拒否に遭うなどのケースも各地から複数届いた。

筆者に届いたメール。当該大手製造企業に質問状を送付したところ、同社の各地工場に同じ境遇の従業員が10名弱いたことが発覚。その後全員仕事復帰し、有休も取り戻したという
筆者に届いたメール。当該大手製造企業に質問状を送付したところ、同社の各地工場に同じ境遇の従業員が10名弱いたことが発覚。その後全員仕事復帰し、有休も取り戻したという

さらに「緊急事態宣言」による飲食店の時短営業によって、高速道路のサービスエリア・パーキングエリアの飲食店までもが同時に閉まり、深夜に走るトラックドライバーからは「食堂が使えない」とする声も相次いだ。

こうした状況に対し、国土交通大臣が促したのが「コンビニ飯」だったのには、現場を走る多くの‟エッセンシャルワーカー”たちが落胆した。

予約が取れない背景

そんな彼らから最近聞こえてくるのは、「ワクチン接種」に対する嘆きだ。

参考程度ではあるが、先日、トラックドライバーたちに新型コロナワクチンの接種状況を聞いたところ、8月末時点で「打ちたいのにまだ一度も打てていない」とした人は約35%に及んだ(回答者271名)。

各組合や商工会などに加盟している運送企業の従業員や、自社が小規模でも、職域接種を行っている大手の荷主を出入りしているドライバーなどの場合、早期に職域接種を受けることができたという人もいる。

が、運送業界のほとんどは中小零細企業で、どの団体・組織にも加盟していない会社も非常に多い。

こうした中小零細企業に所属するトラックドライバーは、個人で自治体接種などを予約せねばならず、今回のアンケートでは、接種希望者のうち約78%のドライバーが「自治体接種」をした、またはする予定だと回答した(回答者196名)。

現在、その自治体接種は全国的に予約が取りにくい状況にあったり、予約の受付を開始していないところもあるのだが、接種を希望するトラックドライバーが接種に至らないのには、それ以外にもいくつか弊害がある。

1つは、彼らの「労働環境」だ。

トラックドライバーは融通の利かないスケジュールのうえ、人手不足で代わりがなかなか見つからない。さらに、「日給月給制」ということもあり、接種を理由に休めばダイレクトに給料に響く。

「ウチは中小企業なので自治体接種任せ。有給制度自体ないので元請けとの調整含め大変」(40代食品・雑貨4トン)

「うちの会社には商工会や納品先の職域接種の案内も来ます。ただ、予約に空きがあるのが平日なので申し込めません」(50代男性大型中距離)

「ワクチン接種したくても会社が休ませてくれない、仕事に穴を開けられない、そもそも予約が取れない、の三重苦です」(40代大型地場食品輸送)

特に長距離トラックドライバーの場合、1度会社を出ると1週間戻って来られないこともある。ワクチンは2回の接種が必要とされるため、より予約が休みに合わせづらい。

「1回目の接種のタイミングが休みと合っても、2回目が休めるかどうなるか分からず、なかなか予約できない」(40代大型中距離精密機械)

「荷主の職域接種を利用できるけど、運行スケジュールが合わずほとんど希望者なしでした。うちは3週1セットの運行が多いので、3週間間隔を空けるファイザーのが都合がいいのですが、職域は4週間間隔のモデルナなので、休みが合わなくなります」(40代電機・自動車部品系輸送管理職)

トラックドライバーのワクチン接種の弊害としてもう1つ、「副反応」がある。

新型コロナワクチンによる副反応でよく言われているのが、「腕の痛み」や「発熱」だ。

筆者も先日1回目のワクチン接種をしたが、数日腕に強い痛みを感じた。特に当日と翌日は、ほとんど手が上がらないほどだった。

ホワイトカラーも無論、副反応が出れば翌日の仕事は辛いが、ブルーカラーは体を動かす仕事がほとんどだ。

トラックドライバーの場合、運転中は座っていられるが、ハンドルの径が普通車とは違って大きく、地面に比較的平行になっているため、脇が大きく開く。腕の痛みだけでも意識せずにはいられない。

トラックの運転席。普通車と比べてハンドルの径が大きく地面と平行のため、脇が開き腕に負担がかかる(読者提供)
トラックの運転席。普通車と比べてハンドルの径が大きく地面と平行のため、脇が開き腕に負担がかかる(読者提供)

さらに荷主のもとに到着すれば、体を動かす作業が待っている。

時に1000を超える積荷を手で積み降ろしする彼らにとっては、発熱はもちろん、腕の痛みでさえも事故の元になるのだ。

「食品をパレットに積み、バラ降ろし(手降ろし)するので、腕が上がらなかったらまあ無理だと思う。いくら普段から慣れていても、商品事故は怖いですしね」(40代大型地場食品輸送)

「接種翌日、やや腕が痛くも出社。点呼のあと倉庫入出庫で1日中リフト乗車。少しのめまいとだるさはあるものの、代わりの人もなく、途中休みを軽く挟んだりペースを落として仕事しました」(40代運送企業勤務)

「打ちたいとは思いますし、通知のハガキもきています。でも、副反応などで仕事ができないような状況になると、ただでさえ人がいないのに余計に他のドライバーに迷惑をかけてしまいます。そう思うと打てません。自分の受け持つ仕事で迷惑はかけれませんよ」(40代長距離トレーラー)

そのため、休みが取れる前日にワクチン接種することがホワイトカラー以上に求められるのだが、いかんせんトラックドライバーはそのスケジュール調整が難しい。

「職域接種はなく、自治体接種でした。仕事は土日が休みなんですが、副反応の関係でできるだけ休みの前日に行ってくださいと言われていて、行けるのは金曜の夕方か土曜なのですが、シフトによって金曜はいけなくなるので実質土曜しかなくて、10月末にようやく1回目の予約とれました」(30代大型地場自動車部品系輸送)

夜になるとサービスエリアには全国各地から他県ナンバーを引っ提げたトラックが駐車マスを取り合う(筆者撮影)
夜になるとサービスエリアには全国各地から他県ナンバーを引っ提げたトラックが駐車マスを取り合う(筆者撮影)

「何がエッセンシャルワーカーだ」

もちろん、休みの調整がしづらいのはトラックドライバーに限ったことではない。接種率も全体からすれば低いほうではないだろう。

が、日本では2月17日から医療従事者を対象にした先行接種が、そして4月12日からは各地で高齢者の接種が始まっている中、これまで「エッセンシャルワーカー」としてコロナ禍の日本を走ってきた彼らの中には、その格好のいいネーミングと現実とのギャップに戸惑う人が少なくない。

「エッセンシャルワーカーとして夜も寝ず働いている運転手が安心して働けるようにするためには、早期のワクチン接種が必須なのでは」(中小運送企業経営者)

「9月にやっと1回目の予約が取れたのですが、ふつふつと『何がエッセンシャルワーカーだ』というなんとも言えない気持ちが湧いてきます」(40代路線4トン)

つい先日も、県外ナンバーのクルマに対して「コロナウイルスを都会から一生群馬県に持ち込むな。二度と群馬県に来るな。ネット上にナンバープレートと車体を晒(さら)します」と書かれた紙が貼られた、いわゆる「他県狩り」が報じられたばかりだ。

※参考:「二度と群馬に来るな!」 県外ナンバーに張り紙 「自治会の名前使われた」 地元住民らも困惑…(上毛新聞)

いまだこうした考えを持つ人がいる中で、県をいくつもまたぎ、不特定多数の荷物に触れる機会が多いゆえ、トラックドライバー自身も感染リスクに対しては、少なくない不安がある。

ひっ迫する現場からの声が無視され続ける医療従事者同様、トラックドライバーも都合よく「エッセンシャルワーカー」という格好のいい名前だけ付けられ、気付けばしわ寄せばかりを受けているような気がしてならない。

トラックドライバーに限らず、「エッセンシャルワーカー」たちを本当に「エッセンシャル(必要不可欠)」とするならば、ワクチン接種を望む人が、より効率的かつ迅速に接種できる社会的仕組みを整え、安心して仕事に出られる環境を作っていく必要があるのではないだろうか。

※参考文献

新型コロナウイルス感染症対策分科会(第24回)

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona24.pdf

新型コロナワクチンの供給スケジュール等について

https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine_supply.html

※前回記事

世間が知らない「トラックドライバーがエンジンを切らない理由」

https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotoaiki/20210820-00254074

※ブルーカラーの皆様へ

現在、お話を聞かせてくださる方、現場取材をさせてくださる方を随時募集しています。

個人・企業問いません。世間に届けたい現場の声などありましたら、TwitterのDMまたはcontact@aikihashimoto.comまでご連絡ください。

フリーライター

フリーライター。大阪府生まれ。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆・講演などを行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。メディア研究

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