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英国のクリスマス(2) もらうとうれしいクリスマス・カード

小林恭子ジャーナリスト
英国初のクリスマス・カード(1843年)の図柄

英国に住む人がクリスマスに向けて忙しくなる理由の1つは、クリスマス・カードを送る作業があるからだ。

こちらのクリスマス・カードは、日本で言うとお正月の年賀状に当たる。もともと、誕生日や挨拶状、感謝状など、何かにつけてカードを送ったりもらったりすることが多いのだけれども、クリスマス・カードは普段音信不通となっている人に1年に一度、近況を教えあう良い機会となる。

最初にやることは、去年もらったクリスマス・カードを取り出して、今年は誰に送ろうかとリストを作ることだ。会社で顧客に一斉に送る場合も多いが、個人の場合、去年のカードがどこに行ったのか分からなくなったり、メールだけで連絡を取っている人の住所を確認したり、と、なかなか大変な作業になる。

住所をクリアしたとして、さて、カードをどこで買うのだろう?

まず、教会内で購入するのが1つの手だ。

もし近くの教会で売っていない場合、スーパーや文房具屋(あるいはカード専門店)に行くと、20枚ワンセットなど、パックになっているものが売られている。大人数に送らなければならない場合、これを買うとお得なのだが、おいそれとパックに手を出すのは早計だ。

というのも、パックになっている値段の安いものはセンスが余り良くないものが多いのだ。「センス」の良し悪しはどこで見るかというと、独断と偏見で言えば、「商業的な感じが強すぎないかどうか」、「過度に飾っていないか」、「極度に子供っぽくないかどうか」など。

教会で購入しない場合、お勧めは「チャリティー・ショップ」である。中古品を販売するお店なのだが、英国内の街角のいたるところにある。店員は無給ボランティアの人たちだ。チャリティー・ショップは、使いまわした品物を販売することであがった売り上げを、心臓病を治す、障害者を助ける、がん患者を支援するなど、特定の目的のために使う仕組みになっている。

クリスマス・カードの売り上げの一部が、それぞれのチャリティー・ショップが専門とする慈善事業の振興を助けるようになっている。カードの購買を通じて、募金をしていることになる。

もしチャリティー・ショップが近くにない場合、カードを販売している小売店で「チャリティー用」と印刷されたものを選べばよい。せっかくお金を使うのであれば、人のために役立ったほうがよいーそんな気持ちがぴったり来るのがこの時期だ。

英国のクリスマスのキーワードの1つは「家族」と前回書いたが、慈善、つまり困っている人を互いに助け合うことも、この時期の重要なテーマなのだ。

さて、ショップで買ってきたカードに、いよいよメッセージを書き込む段階まで来たとする。カードには何らかのメッセージが既に印刷されていることが多いが、家族の近況や自分の身に起こったことなど手書きで加えると記録になるし、もらったほうもうれしいものだ。

一つ一つ、この図柄のカードはあの人に・・・と考えながら選んでゆくのは楽しい作業だ。子供や旅の写真を入れて、自分のオリジナルのカードを作れるサイトも増えている。

ただし、住所録の確認からカードの購入、いざ机の前に座って書くところまで到達するには、意外と時間がかかる。枚数分の切手を用意したり、郵便局に持って行くまでにも、結構、手間がかかる。「まだ早い」と思う時期から準備しないと、25日のクリスマス前に着かない可能性が出てくる。

近年は、紙が資源としてもったいないという感覚が出てきて、クリスマス・カードを電子メールに添付して送ったり、オンラインのグリーティングカード・サービスを利用してを送る人が増えている。今後は、こちらのほうが主流になって行くかもしれない。

私自身は、「もうそろそろやめよう」「電子カードに切り替えよう」と思いながらも、実際に、親戚や友人から心のこもったカードが届くと、とてもうれしく、枚数を絞りながらも、ついつい続けている。

クリスマス・カードはあまり早く送りすぎても、また遅くついてもよくない。気が早い人は11月に送ってしまうが、できれば、12月に入ってから着くのがのぞましいように思う。といって、25日ぎりぎりでもややさびしい。

というのも、受け取ったカードを部屋の中にディスプレイするのが常だからだ。次第に部屋の中が華やかなカードでいっぱいになってゆくのを見ると、幸せな気分になれる。カードを見ているだけで、部屋の中が暖かくなってゆく気がする。

ー始まりはビクトリア朝時代から

英国でクリスマス・カードを送りあう習慣ができたのは、19世紀半ばのようだ。

英郵便博物館&アーカイブによると、18世紀には新年を祝うカードがあったという。

記録に残っているのは、1843年、起業家でビクトリア&アルバート美術館の初代館長にもなったヘンリー・コールが、画家ジョン・カルコット・ホースリーにクリスマスの挨拶が入ったカードのデザインを依頼した。知人、友人らに送るために、一千枚のクリスマス・カードを印刷させたという。このカードは、現存するクリスマス・カードの中で、世界最古といわれている。今でも残っているのは10枚前後のようだ。

上の画像が、そのクリスマス・カードの図柄だ。当時の典型的なイングランド人の家族が食事をしている様子が描かれている。左右には、困っている人に衣服や食事を与えている様子も見える。

1843年といえば、英作家チャールズ・ディケンズが「クリスマス・キャロル」を出版した年でもある。

1862年、チャールズ・ゴッダール&サンズ社が商業用クリスマス・カードの販売を開始し、次第に利用が一般化していった。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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