米国規制の抜け穴突く中国、クラウドで先端品利用 AWS経由でNVIDIA半導体にアクセス
米政府による対中国輸出規制が強化されるなか、中国政府と関係のある組織が米アマゾン・ドット・コムなど米国のクラウドサービスを通じて、先端技術を活用していることが分かった。「抜け穴」を利用して、米国製の先進半導体やAI(人工知能)技術にアクセスしているという。
英ロイター通信がこのほど報じた。米政府は、過去2年間にわたり先端AI半導体の対中輸出規制を強化してきた。しかし、これらへのアクセスをクラウドサービスを通じて提供しても規制には抵触しない。対象となるのは、製品やソフトウエア、または技術の輸出・移転に限られるからだ。
Exclusive: Chinese entities turn to Amazon cloud and its rivals to access high-end US chips, AI
中国業者の仲介でアマゾンのクラウドを利用
ロイター通信が過去1年間に中国の公開データベースに掲載された50以上の入札文書を分析した結果、少なくとも11の中国組織が、米国の技術またはクラウドサービスへのアクセスを求めていたことが分かった。
そのうちの4組織は、クラウドサービスプロバイダーとして米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を指定していた。ただし、サービスの購入先はAWSではない。入札参加者として募ったのは、中国企業である。つまり中国政府と関係のある組織は、同国の仲介業者を通じてAWSのサービスを購入し利用した、というわけだ。
ロイター通信によれば、深圳大学は仲介業者である成都運達科技を介して、20万元(約400万円)分のAWSサービスを購入。これによりエヌビディア製GPU(画像処理半導体)「A100」と「H100」を搭載したクラウドサーバーにアクセスした。これらのGPUは米商務省が2022年10月から中国などの「懸念国」に輸出することを禁じている。
「禁輸リスト」組織も米国技術にアクセス
中国科学技術大学(USTC)蘇州高等研究院は24年3月に出した入札文書で、8つのA100を搭載したサーバー500台を、クラウドサービス経由で利用したいと記した。ロイター通信によれば、こちらのサービスも中国の業者を介してUSTCに販売された。ただし、クラウドサービスプロバイダーの名称は分かっていない。
中国科学技術大学は24年5月、米国輸出管理規則(EAR)に基づくエンティティー・リスト(EL)に加えられた。中国の軍事力強化につながる、米国の量子コンピューティング技術を取得し、核開発計画に関与した、というのがその理由だという。
大規模言語モデル(LLM)「GeoGPT」を開発する浙江ラボ(Zhejiang Lab)は、24年4月の入札文書で、AWSのクラウドコンピューティングサービスを18万4000元(約373万円)で購入する意向だと記した。浙江ラボはその理由として、中国アリババ集団のクラウドでは十分なコンピューティング能力を得られない、と説明した。
「抜け穴への対応遅れている」
かねて、「米政府が半導体やAI技術を対象にした輸出規制を強化したとしても、中国企業は米国のクラウドサービスを介して先端技術にアクセスできてしまう」、という問題が指摘されていた。
米ジョージタウン大学安全保障・先端技術研究センター(CSET)の研究員であるエミリー・ワインスタイン氏は「中国企業がエヌビディアのA100にアクセスしたかったら、それはどのクラウドサービスプロバイダーからでも可能だ。(現時点では)完全に合法である」と述べていた。
今回、米下院外交委員会のマイケル・マコール委員長は「この抜け穴は長年の私の懸念事項で、対応がかなり遅れている」と、ロイター通信に語った。
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などの米メディアは23年、バイデン政権が中国企業による米国のクラウドコンピューティングサービスへのアクセスを制限する準備を進めていると報じていた。これにより、アマゾンや米マイクロソフトなどは、高度なAI半導体を使用するクラウドサービスを中国企業に提供する際、事前に米政府の許可を得る必要が生じる。
米国では24年4月、米国技術への遠隔アクセスを規制する権限を商務省に与える法案が議会に提出された。クラウド企業の顧客に関する禁止事項を定める権限を商務長官に与えるものとなる。ただ、ロイター通信は、これがいつ、そして実際に可決されるかどうかは不明だ、と報じている。
AWSの広報担当者は「商務省が新たな規制を検討していることは承知している。当社は事業を展開している国の適用法をすべて順守している」と述べている。
筆者からの補足コメント:
関係者によれば、米商務省が現在検討している措置は、22年10月から導入している半導体輸出管理規制の適用範囲を拡大するものです。これにより、クラウドサービス事業者も対象に加えることになります。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、この措置で最も影響を受ける米国のクラウドサービスプロバイダーは、AWSとマイクロソフトの「Azure(アジュール)」とみられます。また同紙によると、米国の当局者や議員らはこの措置に加えて、アリババ集団や騰訊控股(テンセント)といった中国クラウドサービスプロバイダーの米国での活動を制限することも検討しているといいます。
- (本コラム記事は「JBpress」2024年9月4日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)