社会人野球日本選手権 もと阪神の選手たちの秋が終わりました…。
10月29日から京セラドーム大阪で開催中の『第42回 社会人野球日本選手権大会』。きょう準決勝2試合が行われ、日本通運とヤマハがあす8日夜の決勝へ駒を進めました。
昨年は、和歌山箕島球友会の穴田真規選手(23)も全日本クラブ選手権を制して出場、最終予選を勝ち抜いた三菱重工長崎・野原将志選手(28)とカナフレックスの藤井宏政選手(26)、対象大会優勝のパナソニック・阪口哲也選手(24)の4人が揃って出場を決め、感激したんですよね。何年かかるだろうと思っていましたから。
ことしは和歌山箕島球友会がまさかのクラブ選手権予選で敗退し、カナフレックスも最終予選で涙を飲んだため、三菱重工長崎とパナソニック、そして玉置隆投手(30)が加入した新日鐵住金鹿島が出場です。既に三菱重工長崎と新日鐵住金鹿島は1回戦で姿を消したのですが、パナソニックは2回戦も突破。でも6日の準々決勝で敗れてしまいました。では試合が早く終わった順にご紹介しましょう。
【三菱重工長崎 野原将志選手】
三菱重工長崎は大会3日目の第2試合で、日立製作所と対戦しています。野原選手も、江越選手の弟・海地選手もスタメンではなく、結局2人とも一塁ベースコーチをする姿しか見られず残念でした。
◆10月31日 1回戦
日立製作所-三菱重工長崎
三菱 000 020 000 = 2
日立 200 000 01X = 3
《試合経過》 1回にヒットと犠打、連続四球で1死満塁となって中村良の2点タイムリーで日立製作所が先制。しかし5回、三菱重工長崎はヒットと犠打、死球などで2死一、二塁として八戸()が右中間へのタイムリー二塁打を放って追いつきました。2回以降は3安打無失点と好投していた三菱重工長崎の奥村ですが、2対2で迎えた8回裏に二塁打とヒットなどで2死一、二塁とし、遊ゴロがエラーとなって1人生還。次に四球を与えて奥村が降板。代わった三小田は2死満塁の場面を抑えます。
一方、日立2人目の山本に6回から3イニング連続で三者凡退だった三菱重工。9回に先頭の河野がセンターへの二塁打を放ち、続く4番・加治前の中前打で無死一、三塁のチャンス!ここで投手が代わり、代打の中道は二ゴロで1死二、三塁。そのあと連続三振を喫して試合終了。
出番はなくとも「勝たせてあげたかった」
野原選手は試合前半に一塁コーチを務め、その後は素振りをしたりイニング間にダッシュをしたり。試合終了の際には皮手袋もヒジ当ても装着した姿で、聞けば「6回からずっと、いつ行ってもいい準備をしていましたよ」とのこと。10月26日に行われたパナソニックとの練習試合でも出場しなかったので、ちょっと寂しいですね。
終了時の挨拶で、隣に立つ鶴田選手を見やる野原選手。何か声をかけたわけではなかったようですが、エラーで勝ち越し点を与えてしまったため鶴田選手は沈痛な面持ちでした。写真で見ると泣いているようにも。野原選手は「泣くぐらい悔しい思いをしていいですよ。成長できるなら」と話しています。
1回に2点を失ったものの、その後は粘りのピッチングを披露したエース・奥村投手について、本人は納得しているかな?勝たせてあげたかったでしょう?と野原選手に聞いたら「奥村は、勝って初めて納得するんじゃないですか。アイツはあんなもんやないですから。奥村だけじゃなく、みんな勝たせてあげたかった」と。
さすが、もとキャプテンですね。息子さんも奥村投手にいつも可愛がってもらっているので、スタンドから「エーシュ!エーシュ!」と可愛い声援を送っていました。
4大会ぶりに出場した昨年に続き、ことしも九州地区第1代表として京セラドームへやってきた三菱重工長崎。昨年は都市対抗野球にも6年ぶりの出場を果たしたわけですが、その昨年の都市対抗は初戦でヤマハに3-0の完封負け。同年の日本選手権も大阪ガスに3-0で完封負けでした。なので今回は、野原選手が入部して3年目で(本人は出なかったけれど)初の得点。しかも追いついただけに、悔しさは倍増でしょう。
今後についてはまだわかりませんが、できることなら来年また東京か大阪で会えるのを期待しています。奥さんにホームランを見せてあげてください!ドームで。
【新日鐵住金鹿島 玉置隆投手】
玉置投手は大会5日目の第1試合で登場しました。都市対抗の時は驚いた先発ですけど、もう予想通りという感じですね。そしてマウンドへ向かう背番号30に、スタンドから「玉置~!おかえり~」という声が!本人にも、ご家族にもきっと届いたはずです。
◆11月2日 1回戦
JR東日本東北-新日鐵住金鹿島
鹿島 000 000 000 = 0
東北 000 020 00X = 2
《試合経過》 玉置は1回が1四球、2回は1安打と1死球、3回と4回に1四球ずつと、ここまで毎回ランナーを出しながらも無失点でした。しかし5回2死から9番・藤井に中前打、次も内野安打で、続く2番・高崎に右翼線へのタイムリー三塁打を浴び、2人を還します。これでJR東日本東北が先制。
6回も2死から二塁打と四球で交代し、2人目の能間が7回は1安打無失点、8回は2死から連続四球を与えたものの追加点なく終了。とはいえ打線がつながらず、1回は1安打のみ。3回に片葺の二塁打や死球で2死二、三塁としますが、他は三者凡退でした。
あとは7回に先頭の堀越が中前打、8回は2死から片葺にまた左翼線二塁打が出るも還せず。9回は2死から四球とヒットで一、二塁とした新日鐵住金鹿島ですが、反撃はここまで。散発5安打でJR東日本東北の西村に完封負けしています。
恩師はあえて厳しい言葉
この日は市立和歌山高校野球部の真鍋忠嗣部長も観戦されました。第1試合で玉置投手、第3試合で阪口選手と監督時代の教え子2人が同じ日の試合でちょうどよかったですね。生でご覧になったのは初めてだそうです。まず「いやーもう最初に『お帰り!』っていう声が飛んで…涙が出たよ」と感激された様子。「2アウトから3本打たれたらあかんわなあ。でも、(タイムリー三塁打された)最後の球、あれを打たれたら仕方がない。玉置は責められん。悪い球じゃなかった」
そのあとは「都市対抗もきょうも頭から行かせてもらって幸せだけど、厳しい野球の中でもっとチームの力になれるように。元プロといっても社会人は厳しいですよ。本人はその厳しさを、まだ心の底からわかっていないかも。そこまで抜けきるのは1年、2年かかるんじゃないですかね」と、やはり“監督”としての言葉が続きます。そして本人に対面するなり「性根入れて放れよ!」と。教え子は、ただもう苦笑いでした。
「新しい野球」で戻ってきた実感
玉置投手には後日、話を聞いています。5回2/3(107球)を投げ、5安打4三振5四死球で2失点という内容。5四死球は珍しいのでは?「そうですね、四球は普段に比べると多い方ですが、攻めて攻めての四球。悪い四球は1つぐらいだったと思うので、特に気にはしてなかったです」
5回2死一、二塁からの三塁打については「打たれた球は見逃せば低めのボール球でしたし、僕も反省点はありますが、打ったバッターを褒めるしかないですね。ただ構え方やスイング、体つきから長打は予想外です!打たれてもシングルなら問題ないと思っていたので、そこは悔しいですね!」と言います。ちなみに決勝打のJR東日本東北・高崎健太外野手は163センチ、70キロ。
「今回の投球を振り返ると、あまり調子が良くないなりには試合を作れたと思いますが、向こうがミスショットしていただけですからね。3人で抑えて流れを持ち込めなかったのが、うちの完封負けにも繋がっていますので、そこは自分の力のなさです!とにかく0をつけるしかなかった試合だったので、先制点を与えた上にマウンドを降りる結果になり、とても悔しい気持ちでいっぱいです」
創部以来初めてという同年度の2大大会出場に貢献した玉置投手。「2つとも初戦突破出来なかったのは非常に残念ですが、チームにとっては良かったと思います!来年への1つの目標になりますし、自分達の力のなさをしっかりと実感出来る結果になりましたので。またチームの動きも考え方も変わりますし、緩みなく気持ち引き締め来年へスタートを切れると思います!」と前向きにとらえています。
「そういう意味では良い敗戦になりましたね。僕も含め!2失点は、今のチーム状況を考えればすごく重かったので、この試合の敗因は僕が作ってしまいました。ただ、初戦突破の目標が残って良かったです」とのこと。できれば勝ち進んで、若いピッチャーに全国大会での先発経験をさせてあげたかった思いもあるのでしょう。
最後に、おかえり〜!の声は届いたのか尋ねたら、玉置投手らしいコメントが返ってきました。
「ハッキリと聞こえましたよ!たった1人の方の言葉でしたが、とても嬉しかったですし、気合いが入りました。僕のことを知ってくれていて、そういう目で応援してくれている人がいるんだなって!それまで関西に帰って来たという実感がありませんでしたが、あの言葉で『また新しいチームで新しい野球で、自分の足でここに戻って来たんだな!』って。人の出会いや野球、人生って面白いなぁ!俺って幸せだな、恵まれてるなって思いました!」
【パナソニック 阪口哲也選手】
パナソニックは大会5日目の第3試合でJFE西日本と対戦。ことしはベンチスタートも多かった阪口選手ですが、この日は9番サードで先発出場でした。また阪神からドラフト8位で指名された藤谷洸介投手が初完投で完封勝利!社会人野球を生で観戦するようになって2年目、都市対抗と日本選手権の本大会で、もと阪神タイガースの選手たちが出場するチームの勝利を見たのは初めてです。
◆11月2日 1回戦
JFE西日本-パナソニック
JFE西 000 000 000 = 0
パナ 000 310 02X = 6
《試合経過》 まずパナソニックの攻撃は2回、柳田の左翼線二塁打と田中の右前打で無死一、三塁。1死後に暴投があり、三上は四球を選んで1死満塁!でも、ここは井上貴が空振り三振、そして阪口は見逃し三振に倒れ無得点でした。
4回も4番からで、まず柳田は四球、犠打と田中の右前打で1死一、二塁。JFE西日本は先発の藤井が降板し、代わった陶山の暴投と三上が選んだ四球でまた1死満塁となり、井上貴が今度は右前タイムリーを放ちました!2人が還って先制、阪口は一ゴロで2死一、三塁。深瀬の左前打でもう1点追加します。
5回は1死から柳田が右前打、2死後に福原の左前打で一、二塁。7番・三上の中前タイムリーで4点目。8回は先頭の三上が四球、井上は中前打で送球の間にそれぞれ進塁、さらにセンター送球のエラーで1点追加。阪口の代打・藤井健が四球を選び無死一、三塁とし、JFE西日本・4人目の藤谷から代打の岩本が右前タイムリーを放って6対0。
変わってJFE西日本の攻撃。パナソニックの先発・藤谷は1回、ヒットと自身のボークで1死二塁とするも問題なし。2回は三者凡退。3回に2死から二塁打と死球、4回は1死から二塁打、また5回には三塁打と、長打を許しながらも無失点でした。6回は1死球のみで、7回が三者凡退の藤谷。8回に先頭を出しますが後続を断ち、9回は2死から二塁打があったものの、最後は遊飛で試合終了。6安打完封勝利です。
緊張の打席…「打ちたかった」
阪口選手は9番サードで先発出場。1打席目、2打席目は試合経過に書いた通りチャンスで回ってきて2回は見逃し三振、4回は一ゴロで二塁封殺。そして6回の3打席目はセーフティーを狙って一塁へヘッドスライディングしましたが、三ゴロ。次の8回に代打が送られ、3打数0安打でした。
守備では1回、2死二塁で三ゴロを処理。2回は2死ランナーなしでサードライナーをキャッチ!大喜びでベンチに戻ります。3回にも2死一、二塁の場面でやはりサードライナーをキャッチ!雄叫びを上げていましたねえ。
最初の打席がいきなり先制のチャンス、満塁で回ってくるとは…。前の井上貴選手が打席にいる時、ネクストで「緊張してたんですよ」という阪口選手。はい。見てわかりました。ガチガチだったと思います。「1本打ちたかったですねえ」という感想でした。
藤谷投手のコメントもご紹介します。初完封ですよね?「はい。完投も初です。それに、2大大会で投げること自体が初めてだったんで…」。そうなんですか!そりゃ緊張したでしょう?「めちゃくちゃしました(笑)」。後半はわりと楽に投げていたのでは?「そうですね。前半に4点も取ってもらったので伸び伸びと。1回、2回、3回はきつかったです」。プロ入り前に、いい勲章ができましたね。
阪神に指名されて、驚くやら嬉しいやら大変な日々のようですが「ちょっとずつ慣れてきました」とのこと。194センチの体を少しかがめながら質問に答えてくれた藤谷投手。なお2日後の2回戦では登板予定がなく、穏やかな表情でバットを引いたり、グラブを渡したりしていて「きょうは楽しく応援できました」とニッコリ。
最後に。この日は4番の柳田選手が出て、そのあとの打線がつながりました。2回は0点だったものの先頭で二塁打、4回も先頭で四球、5回は1死から右前打とさすが。すると「いやいや、まだまだですね。最後(4打席目)のライトフライがダメ。そこを詰めていかないと」と自分に厳しい4番です。4日の2回戦ではタイムリーを放ち、6日の準々決勝でも1安打1四球でしたが、きっと2三振を猛省していることでしょう。
◆11月4日 2回戦
パナソニック-富士重工業
パナ 002 000 000 = 2
富士 100 000 000 = 1
《試合経過》 2回戦は先に失点したパナソニック。先発・藤井聖が1回、先頭の日置にセカンド内野安打を許し、犠打と二ゴロで2死となってから大熊に四球を与えて2死一、三塁。続く5番・林の左前タイムリーで1点失います。
しかし打線が3回、1死から阪口が死球(右前腕部)で出て、2死後に2番・横田が右前打で一、二塁とし3番・泉の左前タイムリーで同点!さらに4番・柳田の右前タイムリーで勝ち越しました。
その後、パナソニック打線は4回に6番・福原の内野安打、8回に2死から泉の左翼線二塁打があっただけ。一方、先発の藤井聖も4回を除く毎回、ランナーを出しながら無失点。しかも得点圏に置いての粘投。
9回は先頭の代打・寺腰に左前打され犠打で二塁へ。1死二塁で藤井聖は降板し、代わった北出が代打・小杉に四球を与えて一、二塁としましたが、このあと2者連続で空振り三振!1点のリードを守り切り試合終了です。
逆転の3連打を呼んだ死球
阪口選手は9番サード。3回の第1打席は1死ランナーなしでカウント2―2から右腕に死球(本人いわく「右前腕部、横」)。2死後に連打があり、それで二塁から一気に生還!早くも白いユニホームが泥んこになっていました。4回は2死二塁で見逃し三振…。7回に代打を送られて交代しています。
試合後は、先に梶原康司監督と会いました。1回戦の時は話を聞けなかったので阪口選手のことを…と思いきや、顔を見るなり「哲くんが!」と監督の方から。「哲くんは何ですか、あれ。(4回)2アウト二塁の時に呼んで、何とか次につなげよって言ったのに見逃し三振って。もうスタメンはないですよ」と憤慨しています。まわりに聞こえるよう、わざと大きな声で。
でも3回に死球で出て、そこから逆転へとつながったわけですし。「いや、もう使わん!」。そう言いながら笑っていますよね、監督。この時まだ選手たちは出てきていませんでしたが、のちほど「あのデッドボールからですよ。あれは大きかった」と先輩方や、仲良しの藤井健選手にも「ピッチャーをビビらせた」と声をかけてもらった阪口選手。「デッドボールから点が入ったんでよかったです。でも打つのがちょっと…」と、笑顔までは行きませんね。
先発・藤井聖投手のあとを受け、2対1の9回1死二塁で登板した北出投手。いきなり四球でしたけど…と言ったら「死ぬかと思った!」と苦笑です。緊張していたのかな?「だいぶ緊張しました。去年、日本新薬の補強で都市対抗へ行った時くらい緊張した。あの時も1アウト一塁とか2アウト一塁とかの場面で抑えたけど」。この日も四球のあとはフォークで連続三振を奪って締めています。
「藤井さんの勝ちを、そのままつけられてよかったです。それが去年とことし、ずっとやってきた僕の仕事なんで」。なかなか爽やかに語ってくれました。
◆11月6日 準々決勝
パナソニック-王子
パナ 010 000 000 = 1
王子 200 001 00X = 3
《試合経過》 パナソニック先発の榎本は1回、1死から2番・前田にストレートの四球を与え、続く亀山の右翼線二塁打で還します。送球の間に1死三塁となり、4番・伊礼に中犠飛。いきなり2点を失いました。しかし2回の攻撃で、5番・田中がファースト内野安打、捕逸で二塁へ。1死後に7番・三上がピッチャー返し!王子の先発・近藤が右足を出して止めようとしましたが中前タイムリーとなります。
2回からパナソニックはベテランの四丹が登板して抑えるも、6回裏に先頭の伊礼がライトフェンス直撃の二塁打、犠打で三塁へ。さらに四球で四丹は降板。代わった庄司が代打・横川のヘルメットを直撃する死球(そのまま一塁へ)を与えて1死満塁となり、2死後に押し出し四球。これで3対1です。その後は両チーム追加点なく終了。王子の近藤は8安打されながら1失点、146球の完投勝利でした。
「来年は、やり返します!」
阪口選手は9番・サードで3試合続けて先発出場。2回2死一塁で二ゴロ、5回は先頭でカウント1-2から空振り三振だったんですが、この変化球をキャッチャーが逸らして振り逃げ!ただし2死後に二盗失敗…。7回に代打を送られたため、今大会はノーヒットで終わりました。
この試合は現地で見られなかったのですが、あとで聞いたところ「打つ方でチームに貢献したかった」と反省の言葉。そして「来年はやり返しますよ!」とリベンジを誓う阪口選手です。昨年のドラフトでバッテリーごとプロ入りしたパナソニック。監督も、チームもぐっと若くなりましたしね。これからが楽しみです。来年はずっとスタメンで使ってもらえるようアピールしてください!打つ方も。