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中学受験のカリスマに聞く、「子供のキャリア形成と親の関わり方」【安浪京子×倉重公太朗】最終回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

カリスマ家庭教師に聞く中学受験の功罪【安浪京子倉重公太朗】第4回

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中学受験のために家庭でやるべきことは少なくありません。共働き家庭の増加で両親ともに忙しく、なかなか子どもに目を向ける時間がなかったり、中学受験で結果を出すことばかり気持ちが向いてしまったりする家庭もあります。それによって子どもから親へのSOSサインを見落とすこともあるようです。中学受験の「辞め時」はどのように判断したら良いのでしょうか。安浪京子先生に中学受験に関するお悩みに答えていただきました。

<ポイント>

・勉強の量は質に転化する

・受験の引き際は親が決めていいのか?

・子どもが明らかに無理しているときのサイン

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■参加者からの質問コーナー

倉重:あとは参加者からのご質問に少しだけ答えていただくことは可能でしょうか。

安浪:大丈夫です。

D:受験の先生に聞くのは恐縮ですが、今後どのような教育が大切になるとお考えですか。受験も変わっていくのでしょうか。例えば、バカロレアのようなものや探究学習は、今後主流になっていくのでしょうか。

安浪:いわゆる探究系が主流になるのは難しいと思います。探究はすごく大事ですが、そもそも探究と教科学習を切り分けている時点で駄目です。

倉重:バカロレアって何ですか。

安浪:国際バカロレア、IBプログラムと言われるものですね。IBは国際基準ですが、、日本は結局IBを取り入れても全然なじみません。というのも、日本は海外の大学に合格するスキルの一つとして形式上IBを取り入れている所がほとんどで、IBの本質を提供できていない。IBであろうとなかろうと、一番大事なものは基礎学力です。探究もいろいろ派閥があって、話がまた広がってしまうのですが、探究するにも基礎学力が必要です。「探究が好きだけど基礎学力の教科勉強は嫌」というのは、「お米は嫌いでお菓子ばかり食べていたい」というのと一緒です。だから、何をするにしてもバランスが必要だし、基礎学力があるからこそより深く探究していけます。

 ただ、どうしても日本は基礎学力を付けることが国的にも脆弱になっています。国の教育カリキュラム自体がどんどん先取りで低学齢化してしまっていますから、国や塾に任せるのではなく、自分の子どもを自立するためにはどういう思考や言語が必要かということはやはり家庭で考えてやることだと思います。

D:ありがとうございます。

倉重:ちなみに詰め込みが悪いとよくいわれますが、私はやはり一定程度は必要だろうと思っている派でございます。

安浪:詰め込むことによって鍛えられますから、詰め込みもある程度必要です。

倉重:最低限詰め込むものがないと、能力の発揮のしようもないだろうと思います。

安浪:そうです。だから、よく質か量かといわれますが、量の後に質が付いてきます。

倉重:量は質に転化すると本当に思っています。

安浪:そこを勘違いした親が基礎学力を軽んじて好きなことばかりさせますが、それだけで花開くことはなかなか難しいと思います。

倉重:何をするにしても型は大事ですね。

安浪:よく北欧などは詰め込みがないと言うけれども、あれはしっかり先生がファリシテーターになって、子どもが考える機会をものすごくうまく作っています。単に放置しているわけではありません。

倉重:表面だけをまねたらおかしいことになりますね。ありがとうございます。

■中学受験の撤退は親が決めるべきか?

倉重:Uさんはどうですか。

U:今後、引き際を考えなくてはいけない時も来るかもしれません。うちの子も、中学受験をしたいし頑張るといっている割には本当に勉強しないので、「このまま続けていくと、中学受験が逆にマイナスになってしまうのではないか」と感じているのです。まだ5年生の冬なのでこれから挽回することも可能かもしれませんが、引き際は本人では決められないのではないでしょうか。そういうタイミングはやはり親が決めるものですか。

安浪:絶対に親が決めてはダメです。引き際というのは本人が「もうやめたい」と言ったときです。親は、子どもが塾に行っているのに勉強しないとか、受験をしたいと言っているけれどもゲームばかりしているときに、腹が立って「もうやめなさい!となってしまいますよね。でもそれは、親が理想を求めすぎています。本人が受験をしたいと言っているのでしょう? 塾に行っているのでしょう?親が「お金を払っているのにあなたはなぜ勉強しないの」と思う気持ちもわかりますが、少なくとも本人は「勉強したい」という気持ちを持っているわけです。学校を決める時であれ、受験の引き際であれ、親が一方的に決めてしまうと嫌なことがあった時、子どもはずっと根に持ってそれを言い続けます。中学に入っても勉強せず中間テストがボロボロだった時に、「だって俺は受験したいと言ったのに塾をやめさせたのはママだろう」と、逃げ口をつくってしまいます。

 引き際は子どもが体や心を壊した時か、子どもがやめたいと言った時です。だから、親がつらいことに耐えられなくてやめるというのはダメですね。

U:分かりました。「子どもが傷付くことだけを残してしまうのも」と思っていましたが、おっしゃるとおりですね。

安浪:勉強をしても点が取れなくて傷づくことも、乗り越えていくことも経験です。ただし、不当に傷づいてはいけないので、そこはきちんと守ってあげるべきです。点数がとれなくても「こんなに頑張っているあなたのことをパパ・ママは見ているよ」というフォローは必要です。傷づくことを恐れているとダメです。それは怪我をしないようにブランコとジャングルジムを撤去した公園で遊ぶ子どものようになってしまいます。

U:ありがとうございます。大変参考になりました。

倉重:「危険な遊びはさせない」では本当に自立しないですからね。大変なことにならないようにだけ見守ってあげるという感じですね。

漆原:ありがとうございました。

倉重:Yさんはいかがでしょうか。

Y:ありがとうございました。私は、子どもが小学校受験をして、今私学に行っているのですが、離婚状態になっていまして、父子家庭の生活なのです。今日のお話の「去勢してはいけない」というのは、意識しながら生活していこうという学びになりました。ありがとうございました。

 お話をお伺いしていると相反する要素があると思いました。我慢しながら努力し続けていける子は、やはり難関校も受かります。一方で去勢させてはいけないという話もありました。最近よくある論調として、「やりたいことをやらせましょう」「楽しいことをやっているのがいいのですよ」ということがあります。

例えばホリエモンさんがすし屋の修行を何年もやるのは意味がないと言っていました。 これはすごく難しいと思っています。企業の人事でも、配置転換で本人の望まない仕事に就く期間があり、大人の世界だとそれをどう捉え直すかで、本人のキャリアが花開いたり、次の可能性が広がったりすることがあると思います。子どもにおいてはそれをどう捉え直すか、中学受験は本当に難しいです。

1つ悩ましいと思うのは、それが越えられる壁なのか、本人の情熱に火が付いているのか、「これはもう結構つらいのではないか」という見極めです。本人が乗り越えられて、頑張れるレベルなのか、少しセーブしたほうがいいのかの判断が難しく、どのように応援してあげたらいいのだろうということがあります。

安浪:基本的に入試会場に行った時点で乗り越えてはいます。中学受験は元々無理ゲーですから、好きなことだけをやって伸ばしたいのだったら、よほど勉強好きな子でない限り中学受験はやめる方が賢明です。だって、中学受験は教科ごとにすべき学習内容が決まっているので、好きなものだけを選べません。よほど教えることがうまい先生に当たれば、その教科自体に興味を持つという機会もありますが・・・・・・。

 でも、子どもは「もう嫌だ、やめたい」とは言っても、よほど親が言い過ぎない限り「やめる」とはあまり言いません。6年生の今頃から1月にかけて、子どもも不安と恐怖でつらくて、夜に眠れなくなったり、おなかを壊してしまったり、内科で薬を処方してもらったりします。でも「やめる」とは言わないですね…。やはり今まで頑張ってきたという自負があるし、プライドがあります。そこまで歯を食いしばって頑張っている子は、私は最後まで絶対に受験に付き添うべきだと思います。

Y:それは先ほどUさんに対しての「親が一方的に線を引いてやめさせてはいけない」ということと通じるのでしょうか。

安浪:親から見て、「もうこれは無理だろう」と思ってやめさせるのは、子どもがけいれんを起こして入院してしまって、それが治らないというような状況です。そこまで追い詰めるような親は多分気がつかないだろうとも思いますが。 1つ、すごく簡単な基準は睡眠時間です。明らかにこれは子どもが無理をしているというのは、睡眠時間が3、4時間で真っ青な顔でフラフラしながら無理やり勉強をしている状況です。そういうときは親が子どもを守ってください。別に勉強をやめる必要はなく、睡眠時間を確保して勉強量を減らせばいいだけの話です。

Y:宿題をやるにしても、主体的にやっているように見えないと口出しをしたくなってしまいます。

安浪:主体的にやっている子なんて1割もいませんよ(笑)。

Y:では、それ自体は悪ではないのですね。主体的でないと悪いことのような気がするのですが。

安浪:皆さんが幻想を頂く「やる気」ですね。。でも、学校が終わってから塾に行っているじゃないですか。一応机にも向かって1日30分は勉強している。それ以上何を望みますか?でも親は「ご飯を15分もかけてゆっくり食べて…本当にやる気があるのだったらすぐに食べて勉強に向かうべきでしょ」と文句を言いたくなっちゃうんですよね。親の欲は際限ないです。

倉重:私はそれを言ったことがあります。

安浪:「いつまで風呂に入っているの!?」とか、「早く起きて朝の漢字と計算を始めなさい!」とか、親って本当に文句ばかりになりますよね(笑)。でも、子どもはやっているわけです。全然できるようになっていないと言っているけれども、1年前の問題を解かせたら、今のほうが解けるようになっているはずです。

倉重:確かに成長しています。

安浪:すごく成長しています。だから親は理想を求めすぎです。

Y:ありがとうございました。

倉重:最後にうちの奥様から、「教育格差を減らす活動をされていると、先ほど本編でおっしゃっていましたが、どのようなことをされているのでしょうか」という質問がきています。

安浪:オンラインで中学受験カフェ(注:オンラインサイト『中学受験カフェ』というコンテンツサービス)に入ってくださっていますよね。ありがとうございます。あの中で色々な情報発信をしていますが、やはりオンラインであれば全国どこでも見られますし、授業を受けられます。教育格差の是正はオンラインを駆使することだと今は感がています。

倉重:地域的な差はそれでなくなりますものね。

安浪:あとは安く、広くです。無料、ボランティアでは我々も仕事を続けられませんから。今はまだコンテンツをもっとどんどん作っているところではありますが、朝小の『はじめまして受験算数』は完全に無料で全員が見られます。あれは私の中ではすごく自信のあるコンテンツですね。

倉重:そうやってコンテンツが増えてアクセスしやすくなっていくと、地域格差・経済格差の壁を超えていろいろ可能性が広がりそうですね。

安浪:はい!

倉重:本当に6年生は受験対策に毎月サラリーマンの初任給並みかそれ以上にお金がかかっていて、生半可な覚悟では踏み入れられない業界と思います。一方でそれをきっかけに子供を含めて家族でも成長できたらいいですし、京子先生の今後の日本を考えるという話もよかったなと思います。長い間お付き合いありがとうございました。

安浪:ありがとうございました。

(おわり)

対談協力:安浪 京子(やすなみ きょうこ)

株式会社アートオブエデュケーション代表取締役、算数教育家、中学受験専門カウンセラー。

神戸大学発達科学部にて教育について学ぶ。関西、関東の中学受験専門大手進学塾にて算数講師を担当、生徒アンケートでは100%の支持率を誇る。プロ家庭教師歴約20年。

中学受験算数プロ家庭教師として、算数指導だけでなく、中学受験、算数、メンタルサポートなどに関するセミナーの定期開催、特に家庭で算数力をつける独自のメソッドは多数の親子から指示を得ている。

中学受験や算数に関する著書、連載、コラムなど多数。「きょうこ先生」として、朝日小学生新聞、AERAwithKids、プレジデントファミリー、日経DUALなどで様々な悩みに答えている他、教育業界における女性起業家としてビジネス誌にも多数取り上げられている。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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