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吉田麻也を絶望させたスーパーゴール、“レジェンド表彰台”も迫るジェコは「ローマの希望」

中村大晃カルチョ・ライター
2020年2月20日、EL決勝トーナメント1回戦、ヘント戦でのジェコ。(写真:ロイター/アフロ)

見事に最終ラインを破っての、ゴラッソだった。

6月24日のセリエA第27節、ローマはホームでサンプドリアに2-1で勝利した。早い時間に先制されたチームを後半の2ゴールで救ったのは、エディン・ジェコだ。腕章を巻く34歳のドッピエッタ(1試合2得点)で、シーズン再開初戦を白星で飾った。

◆高い技術のスーパーボレー

2ゴールは似たようなかたちで生まれた。ボール保持者とアイコンタクトをかわし、マークするDFの一瞬の隙を突いて最終ラインの背後に飛び出すと、後方からのパスをダイレクトボレー。いずれも難易度の高いシュートを、何事もなかったかのように決めたことが技術の高さを物語る。

どちらの得点場面も、ジェコをマークしていたのは、1月にサンプドリアに加入した日本代表主将の吉田麻也だ。前半はうまくコントロールしたが、同点弾となるゴラッソを許し、終了間際の85分に決勝点も献上すると、吉田はピッチに崩れ落ちるように両ひざをつき、天を仰いだ。

DFが2失点に絡めば、批判は容赦ない。各メディアは吉田をチームのワースト選手に選んだ。ただ、失点までのパフォーマンスを評価する声も少なくなかった。ジェコの2発がすべてだったということ。だからこそ、2点目を許した際、吉田は絶望したかのように落胆をあらわにしたのだろう。

◆負のムードからローマを救う

ローマにとっては救いの2ゴールだった。不穏な空気に包まれていただけに、なおさらだ。

新型コロナウイルスの影響で、決まりかけていたクラブ売却は流れてしまった。財政難からニコロ・ザニオーロやロレンツォ・ペッレグリーニら主力の放出のうわさも後を絶たない。トリノから引き抜いたジャンルカ・ペトラーキSDが、シーズン再開直前に事実上更迭となったことも衝撃だった。

さらに、大事な再開初戦の前半11分という早い時間帯に、アマドゥ・ディアワラの軽率なパスミスから先制点を献上。チャンピオンズリーグ出場権を争うアタランタに食らいつくべく、勝利が必要な試合での序盤の躓きは、チームに嫌な空気をもたらした。

そういった負のムードを払しょくしたのが、ジェコの2ゴールだったのだ。

◆レジェンドたちも称賛

このドッピエッタで、ジェコはローマでの通算得点数を104ゴールとした。ペドロ・マンフレディーニに並ぶクラブ歴代5位タイの数字だ。

得点記録はカウントの仕方にもよるが、6月26日付の『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は、次のようにランキングを紹介している。

  1. フランチェスコ・トッティ(307得点)
  2. ロベルト・プルッツォ(138得点)
  3. アメデオ・アマデイ(111得点)
  4. ロドルフォ・ヴォルク(106得点)
  5. エディン・ジェコ(104得点)

だが、1試合平均得点になると、ジェコは0.49得点とマンフレディーニに次ぐ2位。トッティ(平均0.39得点)をも上回る数字だ。2試合に約1得点のペースでネットを揺らしている。

当然、歴代得点ランクをさらに上げていく可能性は高い。今季中にアマデイをとらえることも可能だ。トッティ、プルッツォと並ぶ“表彰台”に立つのも、もはや夢ではないだろう。

実際、プルッツォは『ガゼッタ』でジェコが自身の記録を更新することも可能と太鼓判を押した。プルッツォはサンプドリア戦の2ゴールを称賛し、「チームがビハインドを背負っていても、このレベルのFWがいれば、挽回するのはより簡単」とたたえている。

「ジェコは偉大な選手だ。クオリティーが素晴らしく、フィジカルもしっかりしている。両足でプレーすることができ、これはFWにとって重要なことだ。完成されたボンバーだよ。得点することだけでなく、チームのためにプレーすることも考えている」

同じくローマのかつての名ストライカー、アベル・バルボも『コッリエレ・デッロ・スポルト』で「ローマのアイドルになったことは確か」と賛辞を寄せた。

「すべてを見事にやる。格、フィジカル、インテリジェンス、得点感覚があり、利他的で気質も強い。攻撃のレジスタでもあり、素晴らしいゴールを決められる。これ以上、何を求めるんだ?」

◆タイトルへの期待

入団当初は、とんでもないミスで揶揄されたこともあった。だが、今のジェコはローマを支える存在だ。トッティやダニエレ・デ・ロッシ、アレッサンドロ・フロレンツィが去ったなかで、外国人選手ながら腕章を託されたのは、偶然ではない。

期待されるのは、ローマに栄冠をもたらすことだ。今季はまだ、ヨーロッパリーグでそのチャンスが残されている。ドイツでもイングランドでもトロフィーを手にしてきたジェコ本人も、イタリアでの初タイトルを望んでいるだろう。

欧州最高峰の舞台への返り咲きも同様だ。4位アタランタとは6ポイント差。だが、異例のシーズンはまだ終わっていない。ミーノ・フッチッロ記者は、『Calciomercato.com』でこう記している。

「ジェコがいる限り、希望はある」

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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