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ピッチクロック導入でクローザー投手が苦しむことが予想される中上原浩治のピッチテンポは別格だった!

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
クローザーながら驚異的なピッチテンポで投げていた上原浩治投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【見事にピッチクロックに対応した初ライブBP】

 エンジェルスの大谷翔平選手が現地時間の2月22日、スプリングトレーニング初のライブBPに臨み、順調な調整ぶりを見せつけたようだ。

 日本の主要メディアが報じたところでは、大谷選手は今回のライブBPで確認したかったこととして「(投球の)強度とコマンド(制球力)、ピッチクロック(の対応)ですかね」と挙げた上で、「現時点では十分に良かったんじゃないかなと思います」と手応えを口にしている。

 特に今シーズンから導入されるピッチクロックに関しては、MLBの中でもピッチテンポが遅めの大谷選手の適応度が危惧されていたが、ブルペン投球からピッチコム(バッテリー間で球種を伝達する通信機器)を使用するなどしてピッチテンポの改善を目指していた。

 今回のライブBPでも打撃ケージ横に時計を設置し、問題なく15秒間隔で投げ続けられたようだ。

【ピッチクロック体験者のオハピー捕手は心強い味方に】

 ところで今年のスプリングトレーニングでは、ブルペン投球を含め大谷選手が投げる際はローガン・オハピー捕手が女房役を務めている。彼は昨年8月に、ブランドン・マーシュ選手とのトレードでフィリーズからエンジェルスに移籍してきた23歳捕手だ。

 移籍後間もない9月には2Aから昇格しMLBデビューを飾るなど、今シーズンはメジャー定着の期待がかかるチーム屈指の若手有望選手で、フィル・ネビン監督の構想は明らかにされていないが、今後もしばらくは大谷選手の専属捕手になる可能性が高い。

 昨シーズンのオハピー捕手はメジャー昇格するまでずっと2Aに在籍し、今シーズンMLBで導入されるピッチクロックよりも厳しい制限時間(走者無しで14秒、走者ありで18秒)の中で捕手を務めてきた経験を有しているので、大谷選手にとって心強い味方になりそうだ。

【昨シーズン制限時間内に投げていた投手は全体の3%】

 さて昨日(2月22日)本欄で、今シーズンの大谷選手は打者として日本初のトリプルスリー達成が期待できそうだという記事を公開している。その中でMLB公式サイトに掲載されているデータを元に、昨シーズンの大谷翔平選手のピッチテンポを紹介させてもらった。

 そこで今回は折角なので、大谷選手以外の投手たちのピッチテンポについてチェックしてみたいと思う。ただしこれから紹介するデータは、MLB公式サイトが独自に測定したものであり、あくまで参考資料程度に考えてほしい。

 それを踏まえた上で、昨シーズン公式戦に登板した399人の投手の中で、走者無しの制限時間15秒以内のピッチテンポで投げていた投手は23人、走者ありの制限時間20秒以内で投げられていた投手は13人しか存在しなかった。全体のわずか3%程度という状況だ。

 つまりピッチクロックに関しては、ほぼすべての投手が対応を求められるのだ。

【日本人3投手の中では菊池投手が最も短いテンポ】

 次に選手個別のピッチテンポを見ていこう。とりあえずは日本人3投手(登板機会のなかった前田健太投手は除外)を比較してみたい(別表参照)。

(筆者作成)
(筆者作成)

 説明するまでもなく、3投手とも走者の有無にかかわらず制限時間をオーバーしている。だが3投手だけの比較という意味では、菊地雄星投手、ダルビッシュ有投手、大谷選手の順でテンポが遅くなっているようだ。

 まずは2月28日に予定されているアスレチックスとのオープン戦初登板で、大谷選手が走者を置いた場面で、しっかりピッチテンポを崩さずに投げられるかに注目していきたいところだ。

 ちなみに右ヒジ負傷前の2021年シーズンの前田投手のピッチテンポは、走者無しで20.2秒、走者ありで25.9秒だった。

【MLBの中で最もテンポが遅いのはクローザー2投手】

 それでは今回のピッチクロック導入で、最も苦労しそうな投手、つまりピッチテンポがかなり遅い投手は誰なのだろうか。実はクローザーとして活躍している2投手が突出しているのだ。

 まずは今シーズンからレッドソックスに在籍するケンリー・ジャンセン投手だ。彼の昨シーズンのピッチテンポは、走者無しで25.6秒(ワースト3位)、走者ありで31.4秒(ワースト1位)と、いずれもワースト3に入っている。

 そしてもう1人がカージナルスでクローザーを務める(昨シーズンはライアン・ヘルスリー投手との併用)ジオバニー・ガイエゴス投手だ。彼のピッチテンポも、走者無しで25.8秒(ワースト2位)、走者ありで30.8秒(ワースト2位)と、両方ともワースト3に入っている。

 今シーズンの彼らは、相当ピッチテンポを上げていかないとピッチクロックに対応できないだろう。

【クローザーでも抜群のピッチテンポだった上原投手】

 勝敗にかかわる重要な場面で登場するクローザーとしては、どうしても慎重になりピッチテンポが遅くなるのは仕方がない面があるのかもしれない。

 ところがクローザーを務めながらも、抜群のピッチテンポで投げていた投手が存在している。NPB時代からピッチテンポがいいと言われていた上原浩治投手だ。

 チームをワールドシリーズ王者に導いた2013年シーズンを例に挙げると、上原投手のピッチテンポは、走者無しで15.7秒(MLB115位タイ)、走者ありで20.6秒(MLB34位タイ)となっている。

 普通なら走者を置いた場面で慎重にならざるを得ない場面で、むしろMLBトップクラスのピッチテンポで投げていた上原投手の度胸に、改めて驚かされるばかりだ。

 仮に上原投手が現在まで現役を続けていたとしたら、ピッチクロックなどまったく気にせず投げられていたことだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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