高齢者の運転免許返納は何歳が”適齢期”? 英国では事故を起こした97歳「懲りない殿下」が自主返納
事故2日後に懲りずに運転
[ロンドン発]「フィリップ殿下は熟慮した結果、運転免許証を自主返納することを決めました」――。
先月、衝突事故を起こし、女性を骨折させて厳しい批判を浴びたエリザベス英女王の夫、フィリップ殿下(97)が9日、運転免許証を自主返納したと、バッキンガム宮殿(英王室)が発表しました。
英国社会でも日本ほどではないにせよ、高齢化が進んでいます。シルバードライバーの運転免許を制限すべきか否か、議論を呼んでいます。
フィリップ殿下は高齢で公務から引退したにもかかわらず、先月17日、英中東部ノーフォーク州のサンドリンガム・ハウス(英王室の別邸)近くの公道で、四輪駆動のランドローバーを独りで運転していました。
その際、交通事故を起こして、2児の母親(46)を骨折させました。フィリップ殿下がその場からすぐに姿を消したため、母親は「フィリップ殿下は謝りもしなかった」と怒りを英大衆紙にぶちまけました。
その2日後、フィリップ殿下は新しいランドローバーに独りで乗り込み、シートベルトもせずに運転しているところをしっかりフォーカスされました。
若い頃からゴシップだらけの殿下
偉丈夫でハンサムなフィリップ殿下は昔から女優らとのゴシップが絶えませんでした。放言癖も相変わらずで、無軌道な生活態度は年をとっても一向に改まらないようです。
しかし、その無責任ぶりに批判が高まり、フィリップ殿下は交通事故で負傷した女性に「私がどんなに反省しているかあなたに知っていただきたい」と謝罪の私信を送りました。
しかし、言い訳も忘れませんでした。
「本当にまぶしい晴れの日でした。太陽が低く道路に差し込んでいました。普通なら車の状況を簡単に確認できたはずです」「しかし、車が来るのを見落としたとしか想像できません」
「交通事故で人が集まってきたので、王室付き警察官からサンドリンガム・ハウスに戻るようアドバイスされました」「あなたが腕の骨を折ったことを後で知り、心から申し訳なく思っています」
検察が警察の捜査を引き継ぎ、フィリップ殿下の刑事責任を問うかどうか、検討中だそうです。
英国の最高齢運転免許保有者は107歳
英国でも65歳以上の高齢者が増えています。しかし人口が増加、移民も多いため、総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は日本ほど高くありません。
フィリップ殿下は2016年、訪英したバラク・オバマ米大統領とミシェル夫人、エリザベス女王を乗せて車を運転したことで有名です。1952年から2017年に公務を引退するまで2万2219件もの公務をこなしました。
英運転免許庁(DVLA)の統計では、フィリップ殿下と同じように90代になっても運転免許証を持っている人は英国で11万人を超えたそうです。70歳以上の運転免許保有者は530万人を突破しました。
100歳以上の運転免許保有者は314人。最高齢は107歳で4人もいるそうです。
シルバードライバーは意外と安全
英BBC放送によると、70歳以上のドライバーが事故を起こす割合は1000人に2人。17~24歳のドライバーは1000人に9人。70歳以上は20歳未満よりも1年間で平均1000マイル(1609キロメートル)多く運転しているそうです。
英スウォンジー大学が2016年に発表した研究では、17~21歳のドライバーは70歳のドライバーより3~4倍も事故を起こす確率が高かったそうです。しかし75歳以上になると事故の確率が上昇します。
若者がスピードの出し過ぎで単独事故を起こすことが多いのに対し、高齢者は小さな衝突事故を起こしがちです。
高齢になればなるほど、反射神経が鈍る半面、同じ道を通るようになり、運転は慎重になります。天候を選んで、スピードを落とし、車間距離を取るようになるそうです。
日本では70歳以上になると3年に1度の運転免許更新の際、高齢者講習の受講通知が届きます。70~74歳なら更新手続きの前に高齢者講習を受けることが求められます。
75歳以上になると更新手続きの前に、認知機能検査を受け、その結果に基づいて高齢者講習を受講する必要があります。
英国では70歳になると運転免許証は自動的に失効してしまいます。更新するためには視力検査と、車を運転できることを自己評価する書類の提出が必要です。3年ごとに更新が求められます。
何歳以上になると運転免許を返納しなければならないというような法的な取り決めはありません。医師は高齢者に運転免許を返納するようアドバイスできるそうです。
日本では自主返納が激増
フィリップ殿下のように自発的に運転免許の返納を決めたり、医師から返納をアドバイスされたりした場合は運転免許庁に運転免許証を添えて手紙を書かなければなりません。
一方、日本の警察庁によると、運転免許証を自主返納するケースは下のグラフのように激増し、2017年に42万3800件を記録。このうち65歳以上が40万4817件を占めました。
内訳は65~69歳が4万8907件(9年前は1786件)、70~74歳が10万1973件(同6460件)、75~79歳が9万7871件(同9326件)、80~84歳が9万534件(同7609件)、85歳以上が6万5532件(同2916件)でした。
地方では車は生活必需品で人工知能(AI)による高齢者への運転サポートが今後、必要不可欠になってくるでしょう。
英国でもフィリップ殿下の交通事故とそれに続く自主返納をきっかけに高齢者の運転免許返納が増えるかもしれません。
(おわり)