殿様の働き方~1000年先を見据えて地域と共に~【相馬行胤×倉重公太朗】第3回
倉重:今ずっとお話をお伺いして、殿はすごく想いが強い方で、心のwillをすごく持っていて、しかもそれは誰かに言われたわけではなくて、恐らく生い立ちも関係しているのでしょうが、本来自分の中に持っているものによって自分の行動を決定していらっしゃるなとお聞きしていました。
今度は労働法的な話に近づいてくるのですが、そういう殿から見て、今、労働法の世界では、残業を減らそう、労働時間を減らそう、あるいは、『わたし、定時で帰ります。』というドラマもありますが、こういった嫌々働かされている人たちといいますか、本当に働くことは悪いことなのかという根本的な疑問もあります。満員電車に乗ったら目が死んでいる人が多いなどという話もよく聞きます。そういった、働くということに対して良いイメージを持てていない人もかなりいる時代やそういう人たちに対して、どのように思いますか。
相馬:僕は、先ほど言ったように、サラリーマンの経験がないので、わりと憧れを持っています。というのは、僕は、仕事はなんでも大変だと思っていますが、サラリーマンは大変でも安定はあるわけですよね。
倉重:ある意味そうですね。
相馬:それをうらやましいと思う反面、楽しまれてやっているのかなと常々疑問に思います。難しい話になると「雇用改革のファンファーレ」に頼ってばかりで申し訳ないのですが、良い学校に入って良い大学を卒業して良い会社に入ると人生はハッピーじゃない?という固定観念に対して、それでハッピーに生活できる方々もおられますが、僕のやっていることとは少し違うなと思ったとき、変える一歩を踏み出しづらいのです。少しでも道を間違えると「人生ハードモード」になってしまうというのは、私もすごく感じます。
でも、僕も実際に仕事をしていて、震災をきっかけに会社を駄目にしてしまったというときに、会社を持っていると、絶対に継続しなくてはいけない、何をしなければいけないということの思いのほうが強いので、リセットをする期間が延びてしまうかもしれないし、また新しいチャンスがあるのかもしれないということを逃してしまう可能性は大いにあると思っています。
ですが、僕の場合は強制的なリセットが起きてしまいました。そうはなかなかならないかもしれませんが、強制リセットを押されても、今までの呪縛うんぬんよりは新しい道が必ず切り開かれる。自分がやりたいことを、目的を持ってということを発信し続けていると、絶対に救っていただける世の中であると僕は思っています。
「それはおまえが殿さまだからだ」とか「成功するのはおまえがすごいからだろう」とかおっしゃる方はいるかもしれませんが、実はそうではありません。仕事はあるのです。田舎に行くと、人がいなくて困っています。人がいるだけでハッピーなわけです。僕は、東京にいると本当に大変ではないかと思います。お金の価値観が本当に分からなくなってしまいます。幾ら稼いでも生活できなさそうだし。でも、東京で仕事をしていないと不安ということはあるかもしれませんが、思い切ってローカルに行くと、皆さまの能力が、今も発揮されているとは思いますが、今まで以上に発揮される場所が必ずあります。
それは日本だけではなく世界も含めてです。視野をもう少し大きく持って、働きたい環境もそうですし、働いて一緒に過ごせる家庭環境、パートナーと過ごせる環境を楽しめること、全体を考えることになれば、もっと広がるのではないでしょうか。
ただ自分探しのために世界に行けばなんでも見つかると思ったらそうではないのです。
倉重:世界のどこかに自分が落ちているわけではないですからね。
相馬:やはり自分が求めて、いいところも悪いところも想定した上でやっていかないと、思ったより田舎は寂しいな、仲間がいないなということになると、つらくなってしまうので。支えてくれる仲間がいたりするという当たり前のことだけを保っていけば、僕は、人生は本当により豊かになるのではないかと思います。
僕の農業は、労働時間はお天道さんが決めますから。雨が続けば仕事ができませんし、天気が良ければ何時間でも仕事をするという環境下になります。大変だと思われるかもしれませんが充実感があります。
ですから、元の問いに戻ると、固定観念にとらわれないということと、僕はいろいろな道があると思っていますので、それに対して皆さんがチャレンジしていってもらいたいなと思います。「今の現状がつらい人たちは相馬に来て僕と仕事をすれば、楽しいことがいっぱいあるぜ」と本当に思います。
倉重:いいですね。つらかったら相馬に来いよ、と。
相馬:相馬に来いよ、一緒にやろうぜ、と言いたいですね。
というのも、僕にはパッションしかないです。自分は圧倒的に能力がないわけです。会社をやっても会社をつぶしてしまうし、僕には能力がありません。そんな僕がNPOの代表もやらせていただいています。自分のくにを思い、熱い気持ちをお伝えさせて頂くと、皆さまが応援してくださいます。国を思い、そのことを応援してくれるそれって昔でいう年貢ですよね。まさにNPOの代表は殿様に向いている仕事かなと思っています。
倉重:本当ですね。結果的に殿様らしくなってきましたね(笑)。
相馬:想いをお伝えしているとその想いに共感してくださった方々が一緒に仕事をしてくださり、その輪が広がっていくと何か形にできます。皆さまも働いていて思っていることを言葉にしていると、形になってくる時があると思います。
倉重:想い思いを言葉に出すことは大事ですよね。想いは共鳴しますから。
分かってくれる人がいれば、手伝おうという人も現れますし。特にテクノロジーが発達していくこれからの時代においては、知識や能力というよりも想いが一番大事だと思うのです。
相馬:そうです。
倉重:想いは絶対にAIでは持てませんから。
相馬:AIがやってくれることは、逆に僕らがやらなくていいことです。
倉重:そうです。任せればいいのです。
相馬:任せてしまって新しいことができるのであれば、もっと素敵な未来が待っているのではないかと思います。
倉重:いいですね。思いを持つのは大事だということは、いろいろなところで若い人たちも含めて聞いたことがある方が多いと思うのですが、そんなことを言われても、好きなことや熱くなれるものはそう簡単には見つからないと言う人もいると思うのですが、そのように相談されたらどう返しますか?
相馬:その方の価値感はなんだろうと思うのですが、一つエピソードを話しますと、僕が北海道で農業をしていたとき、狂牛病という問題が起こりました。
狂牛病はなぜ起こるのかといったら、子牛を大きくするために動物性たんぱく質を採らせる。そのために肉骨粉を使用する。そして問題が起きてしまいました。必要以上のお金を得るために起きた事です。
次に、雪印の黄色ブドウ球菌の問題起こりました。そのときに流行していた加工乳があるのですが、それを作るのに脱脂粉乳の生産量を増産しなければいけないということになりました。私どもの住んでいた大樹工場はナチュラルチーズの工場としては雪印の中で日本一大きな工場です。そこではチーズだけを作っていたのですが、脱脂粉乳をもっと作らなければいけないということで古いラインを再稼働して生産しました。そのときに停電があり、新しいラインはバックアップ電源が動きましたが、古いラインではそれが動きませんでした。結果熱が上がり黄色ブドウ球菌が増殖し、飲まれた方の中で死亡者まで出てしまう事故が起きました。それも必要以上にお金をつくるために生まれています。
僕は、貨幣経済の追求の最終兵器が原子力発電所だと思っています。
倉重:究極ということですね。
相馬:究極のところが。貨幣経済追及による事故を目の当たりにすると、追求すべきものはそこではないのではないかと思っています。
求めるのはいいのですが、求めた先に何があるのかということです。幸せの価値観は人それぞれだと思います。最初に自分たちの熱いものを求めるといったときに、やはりしたいことを先ずは描いてみてください。僕は殿様でくにをどうにかしたいと偉そうなことを言っているように聞こえるかもしれませんが、言うならば、先ずは家族が幸せに暮らせルことが一番幸せなだと思います。ご飯が頂けて、あたたかく幸せに皆様が暮らしていければいいのではないかと僕は思っています。それを求めるために皆さまは何がしたいのですかということだと思います。
倉重:それはきっと、その人自身の中にしかないのですよね。どこかに落ちているわけではなくて。
相馬:それが見つからなくて困っているのなら、相馬に来いと。
倉重:そういうことですね(笑)。
相馬:やるべきことはごまんとあって、やっていく中にあれば、そこで出てくるものは必ず見つかると思います。まずは一緒になって努力してみて、三食と泊まるところだけは与えるので、そこで幸せを見つけなさいということができれば変わっていくわけじゃないですか。やることはあるのですから。
倉重:いいですね。新しい相馬藩ができそうですね。今、本当に相馬に行く人がいたら、どういうところに人を募集しますか。
相馬:私どもの非営利の活動でも募集しておりますし、体を動かす仕事から始まり、事業を立ち上げる仕事、いろいろな企業さんが相馬を応援すると言って入ってくださっている中、基本的に労働人口が少ないので、職種はわりと多くあります。
倉重:本当に人が足りない感じですか。
相馬:足りないです。求めていけば、いろいろとあります。
倉重:まずやってみないと分からないですしね。
相馬:そうです。本当にいろいろな業種があって、求められてはいます。例えば、何かをしたいといったときには一つのチャンスにはなるかもしれません。その前に自分たちがやりたいことがあるのであれば、やはりそれに向かってチャレンジをすべきだし、それをできる場所は必ずあると僕は思います。
倉重:殿は、家臣に対して本当に優しいですね。
相馬:僕は本当に皆さんに申し訳ないと思うのですが、能力があって、できることがあれば、先ほどの混沌とした中でもっといろいろなことができたと思うのです。ですが、僕は結果的にそういったことができないので、皆に伝えることしかできません。逆に言うと、僕を助けてくださいということしかないです。ですから、皆と一緒にやっていかなければいけません。一人じゃなんの解決もできません。
倉重:自分の弱みをそうしてさらけ出せることも、なかなかできることではないと思います。
相馬:申し訳ない能力ですが、それは何か変えたいというか、皆にお願いしますということでしかないです。
倉重:でも、そのほうが多分人が集まりますよね。
相馬:はい。そう思います。
対談協力:相馬行胤(そうま みちたね)
NPO法人 相馬救援隊代表理事
福島県相馬双葉地方をフィールドに、伝統文化の振興、教育、エネルギーなどの分野に新しいムーブメントを起こすため、引退競走馬を活用した地域創生プロジェクトに取り組んでいる。「被災地」と呼ばれて久しい故郷は、世界の持続可能性をめぐる課題を解決するリソースとアイディアに溢れ、『相馬野馬追』を代表とする地域の馬事文化を継承しつつ、人々と馬の新しい関係を築き、次世代に託す、そして、地域課題の解決を通じ、世界が抱える課題に寄与するモデルを提供することをミッションとする。