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プーチンと会った中国外交トップ王毅 こんなビビった顔は見たことがない

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中国外交トップ王毅氏とプーチン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 2月22日、中国の外交トップ王毅氏はクレムリンでプーチン大統領と会ったが、まるで別人のようにビビっていた。そのビビリ顔からウクライナ戦争「和平案」の性格も見えるし、中露関係も見えてくる。

◆プーチンと会った時の王毅のビビった顔!

 2月22日、中共中央政治局委員で中央外事工作委員会弁公室主任の王毅氏は、クレムリンでロシアのプーチン大統領と会談した。その時の様子は、この動画をご覧になると、つぶさに考察することができる。

 ともかく第一印象は、「えっ?これが王毅?」というほど、卑屈というか、オドオドというか、もう、喩(たと)えようがないほど「ビビっている」のだ。その証拠に以下の表情をご覧いただきたい。

Firstpostの報道動画に基づいて筆者作成
Firstpostの報道動画に基づいて筆者作成

 これを見ただけで、王毅がミュンヘン会議で「勇ましく」宣言した、習近平が提唱するところのウクライナ戦争「和平案」が、いかなる性格を持ったものであるかがうかがえるというもの。

 筆者は王毅とは何度か会っており、会話も何度かしている。

 日本語が堪能なのだが、筆者の中国語を聞いた途端、「こんなに地道(di-dao)(本場の)中国語の発音を聞いたからには、私は日本語で話すのが恥ずかしい…」と言って、中国語で会話したことがある。 

 したがって、王毅の表情に関しては、熟知しているつもりだ。

 そうでなかったとしても、普段からの、あの勇ましい表情は、どこに行ったのか?

 もう、会談内容など分析する必要もないほどだ。

 動画をご覧になれば一目瞭然だが、プーチンが立て板に水のごとく、「自信満々に!」ひたすら喋りまくるのを、じっとオドオドしながら見ている王毅の表情を見て取ることができるだろう。

 念のため写真の説明をすると、①は動画が始まってから「1:35」後のもので、②は「2:12」後のもの、③は「2:39」後のものだ。

 いずれもプーチンがペラペラと喋りまくっているのを聞いているときの表情である。

 ①はジッと聞いているときの「自信なさそうな表情」。ポカーンとしている。

 ②は、プーチンが息継ぎをしたので、その間に何か一声、相づちを打とうとしたが、それが出来なかった時の表情。「あ、しまった」という表情。

 ③は、プーチンの喋りの中で、「そうだろ?」的な発言があったので、微笑み返そうとしたが、何せイヤホンから聞こえてくる中国語の通訳の声が、ワンテンポ遅れているので、タイミングが合わず、「お愛想笑い」になってしまった時の表情だ。

 いずれにせよ、王毅はプーチンに面と向かった時に、「ビビっている」ということを如実に表しており、もう、何を話し合ったのかに関して分析する気にもなれないほどだ。

◆何を話し合ったのか?

 それでも念のため、何を話したのかをザックリと示すと、おおむね以下のようになる。まとめるに当たり、北京情報 およびクレムリン情報を参照した。

プーチン:

 ●ロシアと中国の関係は、計画通りに進んでいる。着実に進歩し、成長しており、新しいマイルストーンに到達している。特に経済プロジェクトについて言うならば、計画したよりも早く、二国間貿易の目標に達している。国際問題を解決する際には、このことが重要だ。

 ●現在、国際関係は複雑で、緊張が渦巻いている。しかし露中の協力関係は、国際情勢を安定させるために重要だ。われわれは、国連、国連安全保障理事会、BRICSおよび上海協力機構など、協力できることがたくさんある。

 ●中華人民共和国の習近平国家主席のロシア訪問に関して、私たち(プーチンと習近平)は以前に合意している。全人代(全国人民代表大会)など国内の政治的議題で、人事配置が決定したら、私たちは個人的な計画(習近平のロシア訪問)を進める。それは私たちの関係にさらなる推進力を与えるだろう。

王毅:

 ●現在の国際情勢は複雑で厳しいが、中露関係は国際情勢の試練に耐え、太山のように成熟し、粘り強く、安定している。危機と混沌はしばしば私たちの前に現れるが、挑戦と機会は共存している。

 ●新時代の調整のための中露包括的戦略パートナーシップは、第三者を標的にしたことはなく、第三者に干渉されるべきでなく、第三者に強制されてもならない。

 ●中国はロシアと協力して政治的相互信頼関係を維持し、両国の正当な利益を保護し、世界の平和と発展を促進する上で建設的な役割を果たす用意がある。

 ●対話と交渉を通してウクライナ問題を解決する意欲をロシアと再確認できたことに感謝する。中国は、この問題で建設的な役割を果たすつもりだ。

 読者諸氏におかれては、「いやいや、お前、何言ってるんだ!」、「お前にそんなことを言う資格はないだろう!」と怒りに燃える気持ちが湧き上がっておられるであろうことは十分承知している。ここに書いたのは、プーチンと王毅が何をしゃべったかであって、筆者自身も「いやいや、違うのではないか?」と思うところは数多くある。

 しかし、ここはそれらをひとまず脇に置いて、この会話から中国が何をするかを読み取るという作業だけに留めておきたい。

 ここから読み取れるのは以下のようなことだ。

 ◎中露は結局のところ緊密で、中国側はプーチンに畏敬の念を抱いている。

 ◎中国は本気で「和平案」を出そうとしている。

 ◎しかし、王毅のプーチンに対する迎合的な表情から見て、それはロシア側の言い分を反映した「和平案」になることが予測され、ウクライナ側やNATO側が納得するとは思いにくい性格のものになる可能性が高い。

◆ 「和平案」は言った者勝ち

 それでも「和平案」というのは、言った者勝ちである。

 少なくとも習近平は「世界の平和のために動こうとしている」というメッセージにはなる。その下心があることは明白だ。メリットがなければ動くはずがない。

 2月21日のコラム<習近平がウクライナ戦争停戦「和平案」に向けて動き始めた――そうはさせまいとウクライナ入りしたバイデン>に書いたように、習近平としては来年1月に行われる「中華民国」台湾の総統選挙で「親中」勢力に勝たせたい。国民党とか台湾民衆党とかが連立すれば、親中政権が誕生する。

 そのために「和平案」を提出するということ自体が重要なのである

 対ロシア制裁に加わっていない世界の人口の85%を占める発展途上国や新興国の人々に、「習近平は平和を目指し」、「バイデンは戦争を目指している」というイメージが植え付けられるだけでも十分に効果がある。

 ゼレンスキー大統領もウクライナとして、「領土保全の回復」「二度と侵略しない保証」など、これだけは譲れないという「停戦案」を出しているわけだから、中国側がプーチンとしっかりすり合わせて「和平案」でウクライナやNATOが納得するか否かは、別問題だ。

◆王毅の根回し

 なお王毅はそのために、ミュンヘンに行く前の2月15日にフランスを訪問してマクロン大統領に会い、ウクライナ問題に関して意見を交換している。また2月16日にはイタリアを訪問してタジャニ副首相兼外相と会談し、やはりウクライナ問題に関して意見交換を行った。2月17日にはドイツのベアボック外相と会談している。ここでもテーマはウクライナ戦争の「平和的解決」問題だ。

 2月18日にはミュンヘンでEUのボレル外務・安全保障政策担当上級代表と会談している。同日、ウクライナのクレバ外相とも会談し、王毅はクレバに「ウクライナと中国は長年にわたって友好的な戦略パートナーシップで結ばれている」、「ウクライナ問題では、中国は常に和平の側に立っている」、「常に和平を促し、話し合いによる解決を求めている」と語っている。そこまでなら、クレバも賛同するだろう。クレバが賛意を表明したと中国側情報にはある。

 その他、2月18日にはオーストリアのシャレンベルク外相と会談し、プーチンに会う前の2月19日にはハンガリーのオルバン首相と会談したり、2月20日にはハンガリーのシジャルト外相と会談するなど、多角的に外交活動をしたあとにプーチンに会っているので、それなりの根回しはしていると言えるかもしれない。

 特にハンガリーと中国の関係は緊密で、王毅はハンガリー外相とは2018年から電話会談を含めて16回も会談している。ハンガリーは一帯一路の加盟国でもあり、オルバン首相はプーチン寄りなので、1971年の中国国連加盟の際に果たしたアルバニアのような役割を、ひょっとしたら果たさないとも限らない。

 24日に発布されるであろうウクライナ戦争に関する中国版「和平案」を待つことにしよう。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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