内容は良いのに…ではない。開幕3戦で見えてきた浦和レッズが優勝するために解決すべき課題とは?
勝てる試合を落としてしまった理由
『FUJIFILM SUPER CUP 2022』で川崎を2-0で下し、今季は幸先の良いスタートを切った、はずの浦和だった。
ところが、スーパーカップ直後に選手やスタッフの複数人にコロナ陽性が判明し、全体トレーニングの中止、さらに起用可能な選手も制限される事態に追い込まれる。そうして迎えた開幕節は、京都に0-1で敗れ、続く神戸戦も2-2で勝てず、さらにG大阪戦も0-1で落としてしまった。
まさかの1分2敗。何より悔いが残るのは、3試合共に、勝つ可能性が充分にあったことだろう。戦術に手応えがあり、3連勝すらあり得る中で、1分2敗に留まる現状は歯がゆい。
なぜ内容は良いのに勝てないのか……って、それは言うまでもない。退場者を出さないことに尽きる。3試合のうち2試合で退場者を出してしまえば、勝ち点3は厳しい。
今季J1は20試合しか実施されていないが、すでに9枚のレッドカードが乱れ飛ぶ異常事態だ。そして、退場者を出したチームはほぼすべて敗れている。唯一の例外は2-2で引き分けた神戸戦の浦和だが、それ以外のチームはすべて敗戦。当たり前だが、勝ち点3を目指すなら、まずは退場を避けることが先決だ。
今季の判定基準を示す『レフェリングスタンダード』では、昨今のJリーグで増加する選手生命を脅かすような危険なプレーに対し、厳しく対処する方針が示された。
相手に怪我をさせる可能性がある激しいタックル、危険な肘打ち等には、今季は特にレフェリーが神経を尖らせる。選手やチームに対しては、今季開幕前のブリーフィングで説明が行われているので、今一度注意してほしいところだ。
成功体験の影で・・・
また、判定への適応だけでなく、戦術面でも向上の余地は大きい。
「内容は良いのに」とは書いたが、その良い時間帯を90分の中にどれだけ増やせるか。京都戦も神戸戦も、もっとつなぐことが出来るのに、プレスをかけられた瞬間、長いボールを蹴りすぎた。これでは試合のコントロールを握れないし、大量点で試合を決めることも難しい。
ポゼッション重視の中でも、時には相手に合わせて柔軟に戦えるのがリカルド・ロドリゲスのチームの良さだが、京都戦や神戸戦はその反面が表れた。柔軟と言えば聞こえは良いが、相手に合わせすぎて、特長が薄まっている。
だからこそ、相手に合わせた試合の後、指揮官は必ずと言っていいほど、「もっとボールを持ちたかった」と目的地の確認を行ってきた。しかし、最近は今ひとつ選手に響いていない気もする。昨季終盤の横浜FM戦や、スーパーカップの川崎戦など、印象的な成功体験がそうさせるのかもしれないが、ハイプレスをかけられたとき、ロングキックに逃げる判断が早すぎた。時折リカルドの浦和に表れる、悪い癖だと感じている。
優勝から逆算するならば、改善しないといけない
一方、先週末のG大阪戦はそれらの反省が生きたのか、前半に質の高いビルドアップを次々と繰り出し、多くのチャンスを生み出すことができた。
もっとも、相手のプレッシングが中途半端だったことも、浦和の攻撃が機能した要因ではある。G大阪の1トップ、レアンドロ・ペレイラは運動量が少なく、守備に献身的でないため、相手はファーストディフェンスが定まらず、彷徨っていた。このレベルの守備が相手なら、浦和は難なくチャンスを量産できる。
あとは決定力……と言いたいところだが、その前にいくつかの修正点もあった。
松崎快は神戸戦で初ゴールを挙げ、ドリブルの仕掛けでも好印象を残していたが、G大阪戦はあまり良くなかった。特に小泉佳穂と、立ち位置がかぶる。
G大阪は[5-2-3]でプレスに来るため、3トップと5バックの間、中盤に大きなスペースがある。そこに立ち位置を取る岩尾憲や伊藤敦樹に対し、ダブルボランチの倉田秋やチュ・セジョンが出てくると、その脇が必ず空くため、小泉がすき間で縦パスを引き出していた。
ところが、このすき間に、右サイドから松崎も下りてくる。小泉の場合は、直接の相手マーカーがいないためにフリーになりやすいが、松崎が下りてくるケースは違う。松崎には対面する3バック左の三浦弦太が付いて来てしまう。その結果、松崎が引き連れてきた三浦が、小泉のトラップ際をカットするという、自滅的な場面が目についた。
神戸戦では江坂任と明本考浩のコンビだったので、ここに小泉が入ると勝手が変わる。そうした連系、あるいは守備時も含めて、松崎の課題は多いと思う。アタッキングサードでは面白いセンスを持っている選手なので、今後のチームへの順応を期待したい。浦和は確かに多くの決定機を外したが、もっと多くのチャンスを作るべく、向上は可能だ。
そして、G大阪は前半の終わり頃から敵陣へのプレスを諦め、[5-4-1]で自陣に構える形を取ったが、ここから浦和のチャンスは、量も質も一気に落ちた。
[5-4-1]は守備のスペースを徹底して埋めてくるため、打開に苦労する形ではあるが、狙いどころはまず、1トップの裏だ。このすき間でアンカーやボランチがボールを受ける。そこへ寄ってきた相手ボランチの脇に、相手サイドハーフが絞らなければ、ハーフスペースで間受けし、絞って来たら、素早くサイドへ展開してウイングとサイドバックが数的優位を作って侵入する。そうやって相手の中盤を攻略できれば、最後の仕掛けに行けばいい。
ところが、浦和はボールの運び方がハッキリせず、攻撃のチャンスは激減した。G大阪が[5-4-1]になってからは、ボールを持たされる印象が強くなっている。
そして後半36分、ボールを奪われてカウンターを食らいそうになったところへ、岩尾が深いタックルに飛び込み、2枚目のイエローカードで退場。決定機外しといい、相手の変形に対するビルドアップの手詰まりといい、自ら悪い流れを招いたようにも見える。
「内容は良いのに」と言われたりもするが、浦和の課題は多い。総合力が無いというか、対応できる相手や状況と、対応できない相手や状況が、ハッキリ分かれてしまっている。
今後は新外国人選手のモーベルグの合流、あるいはコンディション不良とされるキャスパー・ユンカーが戻って来れば、状況は変わりそうだが、守備やビルドアップはそれだけでは解決し切れない。もし、浦和が中位で満足するクラブだったら、「OK!続ければ勝てるよ」「切り替えて次」と言えるかもしれないが、優勝を狙うとなれば、ベースアップは不可欠だ。
次戦は川崎戦。相手は3戦を経て、スーパーカップの頃より、明らかに状態が良くなっている。厳しい試合になりそうだが、昨季同様、この試合をチームの転機に出来れば。楽しみな一戦だ。
清水 英斗(しみず・ひでと)
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など