高級ホテルのレストランで32歳の若いシェフが誕生! 最高の料理をつくれる理由とは……
ヒルトンは日本でもよく知られている外資系ホテル
ヒルトンは人気テレビドラマの舞台にもなり、日本で抜群の知名度を誇るホテルです。1963年に東京ヒルトンホテルが永田町に開業し、1984年に東京ヒルトン インターナショナルとして新宿に移転しました。
このヒルトングループの中で、ラグジュアリーホテルに位置するのが、2005年7月1日にオープンした汐留のコンラッド東京。
日本料理「風花」、モダンフレンチ「コラージュ」、中国料理「チャイナブルー」と和洋中のファインダイニングをバランスよく抱えており、食に定評があります。
この中で今最も衆目を集めているのが「コラージュ」。
なぜならば、2022年4月1日に新しいシェフが就任したからです。
影山拓磨氏の経歴
「コラージュ」新シェフに就任したのは影山拓磨氏。
1989年に埼玉県で生まれ、都内ホテルで料理人としてのキャリアをスタートします。名門フレンチである「銀座レカン」や都内外資系ホテルで研鑽を積み、2015年にコンラッド東京へ入社。「コラージュ」に配属され、2018年にバンケットキッチンに異動します。そして、32歳という若さで「コラージュ」のシェフとして腕をふることになりました。
コンラッド東京で総料理長を務める水口雅司氏は影山氏について「料理のセンスがあって、非常に器用です。立ち居振る舞いも美しいので、オープンキッチンがある『コラージュ』のシェフに最適ですね」と太鼓判を押します。
影山氏が紡ぎ出す代表的なメニューを紹介しましょう。
シェフからの小さな贈り物
最初のアミューズとして、3品が登場。手前から時計回りの順番で紹介しましょう。最初は、トウモロコシの香りをつけたビーフのコンソメ、香ばしいヤングコーンを包み込んだトウモロコシのエスプーマ。次は、スモークサーモンのムースを詰めた竹炭グジェールです。最後は、赤タマネギのピクルスがトッピングされたマンゴーと生ハム。味わいも食感も異なるので、食欲が刺激され、どれもシャンパーニュとの相性が抜群です。
島根県産どんちっちアジのマリネ 水茄子とグリーンガスパチョ
アジの大トロと称される島根県の「どんちっちアジ」をシャルドネビネガーでマリネ。大きめにカットした水ナス、生ハムのコンソメのジュレ、グリーンガスパチョと合わせています。瑞々しい味わいの中でアジの脂が際立ち、赤紫蘇が鮮やかなアクセント。
一夜干しにした鮎のリゾット ズッキーニとトリュフ
イタリア米とアユの塩辛である「うるか」を用いたリゾットです。小さくダイスにカットしたズッキーニを加え、花ズッキーニのフリットをのせ、刻んだヨーロッパのサマートリュフをトッピングしました。米はアルデンテで小気味よく、「うるか」の濃厚な佳味が印象的。サマートリュフは香りが豊かながらも、軽やかでズッキーニと合います。
アグー豚フィレのロースト 青海苔とレタス
沖縄県のアグー豚のフィレをやさしくローストし、旨味をしっかり閉じ込めました。付け合わせは、シャキシャキとしたロメインレタス。レタスとミルクの泡を配し、アグー豚の脂に寄り添う甘いニュアンスを加えています。
厳選和牛フィレ 北山農園野菜と黒にんにく
影山氏のスペシャリテのひとつ。黒毛和牛のフィレを美しいグラデーションになるように火入れし、桜のチップで燻製しました。静岡県富士宮市の北山農園の野菜をたっぷりと添え、旨味のある黒ニンニクのソースを合わせています。
フロマージュ
5種類から6種類のフロマージュをワゴンでサービスしています。取材時は、ドイツのブルーチーズ、2種のシェーブル、24ヶ月熟成のフランスのコンテチーズ、エポワス、パルミジャーノ・レッジャーノでした。
ブルーチーズには、オンラインで販売している「コンラッド東京 オリジナル 有機エクストラヴァージン・オリーブオイル」を落とし、馥郁とした風味をまとわせています。チーズにぴったりなイタリア・ソルレオーネ社の柑橘ハチミツをスプーンで提供。
エキゾチックフルーツのムース ココナッツとディル
アシェットデセール(皿盛りデザート)には様々な要素があり、左下はマンゴーのエキゾチックムース、右上はディルのムース、左上はココナッツアイス。他には、マンゴー果肉、レモンゼリー、パッションフルーツのソースといった構成です。左下から反時計回りの順番で食べていくと、バランスがとれてよいでしょう。その後は少しずつ合わせて食べると、複雑な味わいになります。
紅茶
2022年4月から、オリジナル容器でドイツの名門紅茶であるロンネフェルトの提供を開始しました。ダージリン サマー、ルイボス レモン、カモミール、スペシャルアールグレイ、アッサム バリ、ペパーミントと、バラエティ溢れるラインナップ。
充実したお酒
コンラッド東京のレストランを紹介する上で語らなければならないのがお酒です。
エグゼクティヴ ソムリエを務める森覚氏は日本ソムリエ協会で常務理事を務め、2022年春には黄綬褒章も受章。シニアアウトレットマネージャーを務める北原康行氏は「第4回世界唎酒師コンクール」の優勝者でもあります。
これだけの人財を擁しているだけあって、ワインも日本酒も非常に充実しており、創造性も高いです。
「島根県産どんちっちアジのマリネ 水茄子とグリーンガスパチョ」には、ビネガーの酸味を包容し、青い苦味ともマッチするということで、福島県の仁井田本家の「おだやか 純米吟醸」が合わせられました。
肉料理には、サステナブルという概念がなかった頃から持続可能な農法にこだわったワイナリーの「トレフェッセン エステート ナパ・ヴァレー メルロー 2016」をペアリング。2022年にナパヴァレー・ヴィントナーズ初代ベストソムリエに選出された富滿勇希氏も在籍しており、旧世界はもちろんのこと、ニューワールドの旗手であるアメリカのワインにも精通しています。
その富滿氏によって、デザートの「エキゾチックフルーツのムース ココナッツとディル」には、夏にぴったりなオーストラリアのスパークリングワイン「シャンドン ガーデン スプリッツ」にディルオイルを加えた意欲的なカクテルが添えられました。
影山氏の料理に最適、かつ、他にはないお酒がマリアージュされるので、ドリンクは任せるとよいでしょう。
新しくシェフに選ばれた経緯
料理もワインも心が惹かれるものばかりでしたが、シェフの話があった時にどういう気持ちだったのでしょうか。
影山氏は振り返ります。
「バンケットキッチンでは、時間が経っても状態が変わりにくい料理をご提供するという難しさにやりがいを感じていました。ただ、入社前から携わってきたフランス料理でシェフになりたいという思いがあり、自由度の高いレストランで実現したいアイデアもたくさんありました。なので、シェフを打診された時には、すぐにでもチャレンジしたいと思いました」
料理人として大切にしていることは何でしょうか。
「料理が好きだという気持ちを大切にしたいですね。自分が好きな料理をゲストにも同じような気持ちで食べていただきたいという気持ちがあれば、最高の料理をご提供できると信じています」
得意とするのはクラシックなフランス料理。肉料理が好きであり、鴨にこだわりがあります。鴨の胸肉のロティに鴨のジュと赤ワインのソースを合わせるなど、しっかり食べ応えのあるフランス料理を体験してもらいたいということです。
影山氏はコミュニケーションも大切にする料理人。ゲストのテーブルに足を運んでフィードバックを受けたり、サービススタッフと連携を強めてゲストの細やかな情報を共有したりと、食体験の向上に努めています。
国産ヨーロッパ野菜やアクションを加えたい
影山氏が今後やりたいことは何でしょうか。
「一年を通してご提供できるスペシャリテを創りたいですね。出身地である埼玉県では、ヨーロッパ野菜を栽培している農家があるので、国産のヨーロッパ野菜を使ったメニューや国産のおいしい肉や魚を最大限に生かした料理を考えています」
臨場感にもこだわりたいといいます。
「ゲストの目の前でソースをかけたり、トッピングをあしらったりするような、アクションのある料理をご提供したいです。今はフロマージュもワゴンでゲストの前までお持ちしていますが、これもアクションのひとつだと思っています」
「コラージュ」=「異なる素材を組み合わせることで、新しいものを創り出す技法」はフレンチをベースに様々な食材や技法を取り入れたモダンフレンチレストラン。影山氏が志向する埼玉県のヨーロッパ野菜を用いた創作やパフォーマンスが“コラージュ”することによって、より素晴らしいファインダイニングになることは間違いありません。