Yahoo!ニュース

森保監督は続投、名波コーチが就任。第2次森保ジャパンが孕んだ「歪み」

小宮良之スポーツライター・小説家
メモを取る森保監督(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

第2次森保ジャパンが発足

 今年1月、2026年W杯に向け、日本代表は森保一監督の続投が決まり、第2次森保ジャパンが発足している。新たなコーチとして、名波浩(50歳)、前田遼一(41歳)の二人が新たに就任。実務的な戦略や指導を行ってきた横内昭展、上野優作という二人のコーチは、それぞれJ2ジュビロ磐田、J3FC岐阜の監督に就任し、代表チームを去った。カタールW杯でコーチを務めた斉藤俊秀(49歳)、GKコーチの下田崇(47歳)は留任だという。

「W杯出場以降、史上初めて指導者陣がいずれも元日本代表」

 それが第2次森保ジャパンの売りだという。

 この違和感の正体は厄介だ。

森保監督の功罪

 まず4年間という長いスパンで、再び森保一監督に指揮を委ねるべきだったのか。

 カタールW杯で出した結果に対する高い評価に、異論を挟むつもりはない。「ベスト8が目標だった」という声もあるが、ドイツ、スペインに勝利し、クロアチアに負けなかった(PKは記録上、引き分け)事実は称賛に値する。弱者の兵法でベストを尽くした。

 吉田麻也、酒井宏樹、長友佑都、権田修一と経験豊富な選手をバックラインに揃えた布陣は、安定感をもたらしたと言える。とりわけ、左サイドバックの長友起用は批判を浴び続けたが、頑固さが奏功。全盛期の走力はなかったが、老練さを生かし切った。守りに関しては、4年前の発足から冨安健洋を抜擢するなど的中した点は多い。

 森保監督は賭けに勝ったと言えるし、一つの正解を叩き出した。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20221218-00328192

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20230110-00331867

 しかしながら、サッカー自体に発展性も、再現性もなかった。数多く欧州に進出した選手は”史上最高の陣容”で、彼らの適応力で勝ちを拾った感は強い。結果は素晴らしかったが、彼らを最大限に生かすことで能動的に戦うこともできた。それは現在躍動しているレアル・ソシエダの久保建英、フランクフルトの鎌田大地、フライブルクの堂安律、ブライトンの三笘薫のプレーで一目瞭然だ。

 カタールW杯では消耗戦の駒に過ぎなかった久保は、リーグ3位レアル・ソシエダでスペクタクルを見せている。ダビド・シルバとの連係は際立つが、そのD・シルバがいない国王杯FCバルセロナ戦、国内リーグのレアル・マドリード戦ではむしろエースの風格があった。鎌田、堂安も、守備に回らされる時間が長く、出場時間も限定的で持ち味を出し切れなかったが、所属クラブでは意気軒高だ。

 三笘に至っては、ブライトンで無双状態になっている。国内リーグでリバプールをズタズタに引き裂き、FAカップでは見事に沈める決勝弾。これだけの攻撃力をウィングバックで用いるなど、悪い冗談だろう。三笘のような選手は騎兵に喩えられる。彼らは機動力を武器に守備を切り裂き、決定的仕事をする。騎兵を自陣に下がらせ、馬から降ろし、塹壕に立てこもらせるのは悪手でしかない。

 さらに、上田綺世はコスタリカ戦で孤立無援でのプレーを強いられ、何一つ良さが出せず、気の毒だった。セルクル・ブルージュではチームトップの10得点で、直近は3試合連続得点とチームをけん引し、別の生かし方はあっただろう。そして代表メンバーから外した古橋亨梧、旗手怜央もセルティックで中心になっている。古橋は、今シーズンすでに20得点(カップ戦を含めて)以上だ。

 もし彼らを十全に用いることができていたら…。

 よしんば、森保監督に契約延長をオファーするとしても、改善、改革は急務だったはずだ。

名波コーチは適任か?

 指導陣は刷新されたが、新たなコーチ二人は「元日本代表」という肩書以外、セールスポイントがない。日本サッカーのトップである代表チームの指導陣になるだけの論理性を持たないのだ。

 控え目に言っても、名波コーチは監督の値打ちが下がっていた。

 監督1,2年目は引退直後で「兄貴分」のキャラクターが首尾よくいって、J1昇格に成功。3年目、4年目は人海戦術に過ぎなかったが、ボスの風格はあり、13位で残留させ、6位という最高成績も残した。監督スタートとしては悪くない。

 しかし4年目、攻撃の構築でノッキングした。残留争いを演じながら、場当たり的なサッカーが露になった。実務的コーチに恵まれなかったのかもしれないが、6年目は求心力も失い、J2に落とした。

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/jleague_other/2019/05/04/post_43/

 そしてJ2松本山雅をJ3へ落とし、昨年はJ3から上げられていない。サッカーの仕組みを構築できず、選手に頼った戦いに終始していた。

「親分肌」と持ち上げる声がある一方、「周りが何も言えなくなるし、戦術を言語化できず、選手がついてこない」という批判も聞こえてくる。我の強さが目立つのは、百歩譲って監督としてはキャラクターなのだろうが…。

 今回はコーチ就任で、そのコーチ経験はない。

「攻撃の部分で積み上げをしてもらえる」

 森保監督はそう言って新コーチに期待しているわけだが…。

監督とコーチは違う

 未だに浸透していない事実だが、監督とコーチは仕事がまるで違う。

 監督は「選択」「統率」「決断」が仕事で、それを自らの人間性や知性を駆使するところに、リーダーの色が出る。一方、コーチは、「実務力」が求められ、従順さや規律が資質となる。監督が指導陣を仕切って、コーチはトレーニングで実務をこなす。そこで、忘れてはならないのは崩してはいけない封建的関係か。

 Jリーグではいまだにコーチが監督に昇格になるケースが多いが、この状況が歪みを生むという。監督はいつも側近に首を狙われているようなもので、疑心暗鬼になる監督、虎視眈々となるコーチという構図は最悪だろう。実はスペインなどでもかつてはこうした”クーデター”が頻発したことで、監督を中心に結束した指導陣を作るようになっていった(監督がクビになるときはコーチ陣もすべて退陣)。それは強いリーダーシップを持ち、正しい競争力を持つために必要な時代の流れだった。

 言うまでもないが、世界でも監督がコーチに、コーチが監督になることはある。指導現場で共有するものは大きな経験になる。しかし繰り返すが、監督としてやるべきこと、コーチとしてやるべきことは違うのだ。

 にもかかわらず、どのロジックで日本サッカートップである代表チームのコーチは選ばれたのか?森保監督の控え、という考え方が少しでもあるなら、あまりに安易だ。

 前田に関しては、磐田Uー18でコーチ1年、監督1年を過ごしている。悪評は聞かないが、絶賛するような声も届かない。無論、まだ指導1,2年では評価が定着しないのだろう。言い換えれば、ユース年代の指導を2年しただけのコーチを、代表トップに引き入れたとも言える。

 第2次森保ジャパンに歪みを感じないのは危険だろう。

 そもそもカタールW杯で、日本代表は歪みを孕んでしまったとも考えられる。最高の戦いをしたわけではないのに、最高の結果を得た。その歪みは、これから代表に重くのしかかる。

「勝てば官軍、負ければ賊軍」

 そのロジックで、すべてが罷り通るのか。

 今年3月、第2次森保ジャパンの初陣となる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事