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子どものスマホ使用にルールは本当に必要?ルールの役割や注意点とは

森山沙耶ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士
(写真:イメージマート)

子どものスマホ使用率は年々増加傾向にあり、令和4年度の内閣府における調査では小学生は59.5%、中学生は86.6%となっています(1)。特に2月から3月にかけては子どもの進級・進学に合わせてスマホの購入が多くなる時期です。初めてスマホを手にして子どもは嬉しい反面、歯止めがきかずに過度にのめり込み、依存症に至るリスクもあります。

そのため、家庭でのスマホ使用のルールづくりが大切であり、最近では多くの家庭でルールを作る試みがなされているようです。しかし実際にはルールを作っても子どもが守らないとか、ペアレントコントロールの抜け道を見つけて隠れて使用している、という声も多く耳にします。ルールを守らないのであれば、ルールを作る意味がないのではないかという気持ちになる保護者も少なくないのではないでしょうか。

そこで今回は、子どものスマホ使用に関するルールはなぜ必要なのかという根本的なところから考え直し、その上で守られやすい効果的なルールとはどういうものかについて解説します。

そもそもルールとは

心理学のジャンルの一つである応用行動分析学における「ルール」の概念を紹介します。ここでいうルールとは「○○すれば〜〜という結果が生じる」といった形で記述されるものです(2)。単に「○○して」などの依頼や指示、目標などにも暗黙のうちに「さもなければ〜〜になる」といった結果が含まれているため、こういった依頼や指示もルールに含まれます。

例えば「毎日試験勉強を2時間する。そうすれば1ヶ月後の試験に合格する。」というルールを設定したとして、このルールに基づいて毎日2時間ずつ勉強をするという行動が続くと、ルールによって行動を学習したということになります。

通常、人は行動した直後に、自分にとって望ましい結果が得られたり、嫌なことが回避できたりする経験によって行動を学習していきます。勉強をした結果、直後に親から褒められる、あるいは親から叱られなくて済む、勉強をしたことで分からなかったことが分かるようになる、達成感を感じる、などの結果が得られることで勉強することが次第に習慣化していきます。

一方、人は「言葉」を持っているので直接的な経験がない場合でも、あるいは結果がすぐに出ない場合でも、言葉で表現する「ルール」によって行動を学習することができます。つまり実際に行動した経験がないものでも「こうすると、こうなる」という言語情報があることで、行動を選択することができるのです。例えば「私語禁止」という立て札があると「ここで喋ったら、注意を受けるんだ」ということが分かるので、そのルールに従うことができます。

スマホの使用ルールの役割とは

スマホゲームや動画、SNSは、やればやるほどやりたくなる性質があり、夢中でやるうちに夜中まで使用してしまうこともあるでしょう。特に子どもの場合、自制心が十分に育っていないために自発的に「そろそろ寝ないと朝起きられなくなる」と気づいてスマホの使用をやめることは難しいものです。夜中まで使用することが習慣になってしまうと、朝起きられなくなり、授業中の集中力の低下、遅刻・欠席などの悪影響が生じます。成績低下や遅刻が増えるという良くない結果が起こって、ようやくスマホ使用を見直そうと考えても習慣になった行動を変えるのはとても難しく、労力がかかります。

そこで、このような悪影響が生じる前に「スマホを夜21時に親に預ける(そうすれば睡眠リズムが維持される)」というような起こりうる問題を未然に防ぐためのスマホの使用ルールを作ることは意味があるといえます。

効果的でないルールとは

しかしながら、人はルールを決めてその通りに行動できないことが多くあります。例えば、ルールを示した人を信頼していない、関係性が悪い場合は、ルールの効果は薄れてしまいます。そのため、親子関係が悪化している中で親がトップダウン的に「スマホゲームは2時間でやめなさい」と伝えても、子どもは親の言うことを聞きにくいということが起こります。

そして、ルールに従った行動をしたとしてもその人にとって何の得にもならないような場合も行動が維持・定着するのは難しくなります。スマホを親に預けるという行動は、自分の好きなことができなくなる結果をもたらす行動であるため、ルールを決めただけではその通りに行動できないかもしれません。

また「ダイエットのために筋トレをする」というルールでも、筋トレをしてもすぐに体重が減るわけではなく、長期的に筋トレを続けていった結果ようやく体重に変化をもたらすものです。スマホに関しても、毎日のスマホの使用を制限しても依存症が予防できるという結果にすぐには結びつきにくいので、ルールに従った行動を持続するのがなかなか難しいことがわかります。

さらに、ルールを破ることで周囲からの注目を得るようになり、注目を引くためにますますルールを破るというようなケースもあります。

効果的なルールとは

まずは「なぜそのルールが必要なのか」を子ども本人が理解することが大切です。「○○すれば〜〜という結果が生じる」という関係性をしっかりイメージできるように、スマホ依存やインターネットトラブルに関する本やWEBサイトなどを見せて理解してもらうとよいでしょう。

それでも、スマホ使用のルールに従ってもすぐに危険性やトラブルを回避する結果に結びつかないですし、ゲームや動画など好きなことを制限することになるために従いにくいものです。そこで、ルールに従う行動がとれたことに対して達成感や満足感が得られるような付加的な工夫を考える必要があります。例えば、「スマホは1日3時間まで」というルールなら毎日のスマホの使用時間をチェックして目標時間が維持できていることを確認するのもよいでしょう。一方で「寝る時はスマホを親に預ける」というルールであれば、夜中にスマホを使用してしまったときに「翌日スマホの時間がその分だけ減る」というように望ましくない結果を付加することも一案です。

また、ルールに従った行動を取ることで、子ども本人にとって望ましい結果が得られるような目標を設定することも効果的です。部活の朝練に参加したいけど夜スマホをだらだら使ってしまって朝起きられないのであれば、夜スマホを終える目標時間を決めます。そうするとルールに従ってスマホを早く切り上げたときに翌朝早起きできて朝練に参加できることは本人にとってもメリットになります。

このように「依存症の予防」という長期的でイメージしにくいものだけでなく、短期的で子どもがイメージしやすい目標も考えてみることで、ルールに従った結果、子ども自身が目指す目標に辿り着けるというポジティブな見通しを持つことができ、モチベーションになります。

ルールを決めるときに気をつけたいこと

ここまでルールの役割や守られやすいルールについて述べてきましたが、ルールを守ること、従うことに囚われすぎないことも大事であることも伝えておきたいと思います。

特に親が決めたルールに従うことばかり重視するようになると、子どもが親の顔色を見て行動する、ルールに従わないと不安になるといった状態になる危険性もあります。大切なことは、子どもの行動をコントロールすることではなく、子どもが自分でルールの必要性を理解し、自分の生活に必要なルールを設定できるようになることをサポートすることだと思います。

【引用参考文献】

(1)令和4年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果

(2)杉山尚子・島宗理・佐藤方哉・R. W. マロット・M. E.マロット(1998)行動分析学入門.産業図書

ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士

臨床心理士、公認心理師、社会福祉士。一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会代表理事。東京学芸大学大学院教育学研究科修了後、家庭裁判所調査官を経て、病院・福祉施設にて臨床心理士として勤務。2019年 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターにて「インターネット/ゲーム依存の診断・治療等に関する研修(医療関係者向け)」を修了後、同年 ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)を立ち上げ。現在はネット・ゲーム依存専門のカウンセリングや予防啓発のための講演・セミナー活動を行う。2021年から特定非営利活動法人ASK認定 依存症予防教育アドバイザー。

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