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バーンアウトで現場を去っていく医療従事者 離職対策が急務

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

コロナ禍では、医療従事者のバーンアウト(燃え尽き症候群)が問題になっています。多くの新型コロナを引き受けた医療機関では診療・看護が思うように回らず、スタッフは精神的に疲弊し、多くのバーンアウトを生みました。どうすればバーンアウトは減らせるでしょうか?

コロナ禍のバーンアウト

日本の医療従事者280名を対象におこなわれたコロナ禍のバーンアウトに関する調査では、コロナ禍前と比べて、仕事に対するストレスが増加し、身体的な不調や心理的な不調が大きくなることが示されました(1)。

コロナ禍初期では、医療従事者に対する差別も問題になりました。日本医師会は2021年2月に、新型コロナウイルス感染症に関連して医療従事者らが受けた風評被害が、2020年10~12月に全国で少なくとも約700件あったという調査結果を発表しています(2)。

患者さんに感染させてはならないという強いプレッシャーから、コロナ禍の3年間で次第に元気がなくなってしまう医療従事者も多く、同僚とのコミュニケーションの減少も相まって、水面下でじわじわバーンアウトが進行しています(図1)。

図1. 医療従事者のバーンアウト(参考資料3をもとに筆者作成)(イラストはシルエットACより使用)
図1. 医療従事者のバーンアウト(参考資料3をもとに筆者作成)(イラストはシルエットACより使用)

新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードにおいて、日本看護協会は「新型コロナウイルス感染症対応に関する看護職の現状と課題」という資料を提出しています(4)。

これによると、現場の看護職から日本看護協会へ寄せられた2022年度の相談件数は、前年度と比べてメール相談で1.6倍、電話相談は1.7倍増加しています図1)。

図1. 日本看護協会へ寄せられた意見(参考資料4をもとに筆者作成)(イラストは看護roo!より使用)
図1. 日本看護協会へ寄せられた意見(参考資料4をもとに筆者作成)(イラストは看護roo!より使用)

多くの看護師が退職した医療機関もあり、日本全体で医療従事者のバーンアウト対策を講じなければ、現行の新型コロナはおろか、新しい新興感染症に対応する現場スタッフが不足する構図は改善しません。

医療逼迫によってバーンアウトは加速度的に悪化します。たとえば2020年に医療崩壊したスペインでは、バーンアウトのあまりの多さから、「死んでしまいたい」という希死念慮を持っている医師が全体の6.31%にのぼったという報告もあります(5)。

どうバーンアウトを予防するか

私は、コロナ禍初期に日本救急看護学会が出した声明がいまだに忘れられません(6)。

「皆様にお願いです。看護チーム、医療チームが協働して対応する姿勢を持ち続けて下さい。国民の命を守るといった使命感に押し潰されないで下さい。疲弊している同僚にねぎらいの言葉をかけて下さい。恐怖と隣り合わせで戦っている自分を褒めて下さい。辛かったら、同僚や家族にその心情を吐露して下さい。」

しかし、セルフケアだけではバーンアウトはなかなか防げません。そのため、経営上の決定へ現場職が参加すること、職員を支援するメンタルヘルスなどの取り組み、十分な福利厚生といった組織の団結性、が重要です。これらなくしてバーンアウトは防げません(7,8)。

コロナ禍では、非コロナ患者さんを受け入れる余裕が減り、医業収益が大きく減少しました。赤字病院は初年度で約8割にのぼったため、空床補填のために国は資金を投下しました。

これによって黒字転換が達成された医療機関も多く、経常赤字の病院は半減しました。医療界全体に批判的な報道がありますが、多くの現場はギリギリで回しています。

今回の日本看護協会の声明(4)にあるように、現場で働く看護職等の医療従事者を支えるための各種施策は、少なくとも継続か、場合によっては拡充の必要があると私も考えます。

「5類」化が達成されても、医療機関の感染対策を大きく間引けるわけではありません。感染性が高すぎるので、医療機関ではウィズコロナが難しいです。

そのため、感染対策に投じるコストは高止まりすると考えられ、これを大きく削れば、院内感染が増える・赤字病院が増えるという二重苦になります。

ひいては、これがバーンアウトする医療従事者を増やしてしまうことにつながります。

「5類」化に向けて、最前線で新型コロナと向き合っている医療従事者が離職しない策について、議論が必要と考えます。

(参考)

(1) 山蔦圭輔. 日本医療・病院管理学会誌. 2022; 59(2): 56-67.

(2) 日本医師会. 新型コロナウイルス感染症に関する評被害の緊急調査(URL: https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20210203_4.pdf

(3) The U.S. Surgeon General. Health Worker Burnout. (URL:https://www.hhs.gov/surgeongeneral/priorities/health-worker-burnout/index.html

(4) 日本看護協会. 新型コロナウイルス感染症対応に関する看護職の現状と課題(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001062647.pdf

(5) Sánchez D, et al. Psychiatry Res. 2023; 321: 115057.

(6) 日本救急看護学会. 新型コロナウイルス感染症に対応する救急看護師の皆様へ. (http://jaen.umin.ac.jp/pdf/urgent-statement_20200415.pdf)

(7) Leo CG, et al. Front Public Health. 2021; 9: 750529.

(8) Lee J, et al. J Occup Environ Med. 2022. doi: 10.1097/JOM.0000000000002773.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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