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「JEDI」1兆円国防AIクラウドをめぐる「アマゾン疑惑」、議会与党から「仕切り直し」の声

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
DoD photo by Tech. Sgt. Angela Stafford

予算規模100憶ドル(1兆1000憶円)、米国防総省の大規模AIクラウド「JEDI(ジェダイ、防衛基盤統合事業)」の調達をめぐる混乱に拍車がかかっている。

※参照:100億ドル国防クラウド:「AI倫理」騒動のグーグルは去り、アマゾン、マイクロソフトは邁進する(10/28/2018

ユーザー340万人のシステムを、単一ベンダーのAI搭載クラウドに統合し、リアルタイムのデータ解析に対応する。それがJEDIだ。

国防総省から最前線までのシステムをAI時代に対応させ、スピードと攻撃力の向上を図るクラウド・プロジェクト。推進の背景には、中国などのAI推進に対する危機感も指摘される。

だが、その調達には当初から「アマゾンありき」の疑惑と批判がつきまとってきた。入札の競合相手だったオラクルは、訴訟による追撃を強めている。

国防総省とアマゾンの緊密ぶりを示すという”証拠”も取り沙汰され、さらには連邦議会の共和党議員からも「仕切り直しが必要」との声が上がり始めている。

その背後には「トランプ対ベゾス」という構図も影を落とす。

注目の落札企業の発表は、8月下旬に繰り越されている。

●入札の前年の接触

米ウォールストリート・ジャーナルは7月7日、「JEDI」入札前年の2017年3月31日に、国防長官だったジェームズ・マティス氏が、アマゾンの政府向けクラウドサービス担当副社長、テレーザ・カールソン氏とロンドンで会食していたことが新たにわかった、と報じた。

ジャーナルが情報公開請求によって入手した電子メールによって明らかになったもの。

5カ月後の同年8月にはマティス氏が米シアトルのアマゾン本社を訪問し、CEOのジェフ・ベゾス氏と面会。ベゾス氏自身もそれをツイートするなど、親密ぶりをアピールしていた。

ロンドンでの会食は、その事前打ち合わせという位置づけだった、という。

ロンドンの会食をセットした関係者によると、この場ではクラウドの話は出なかった、とジャーナルは報じている。だが、この会食の前後で、マティス氏の首席補佐官など、複数の国防総省の関係者とカールソン氏との面談も設定されていたことが、メールから明らかになったという。

これについてアマゾンの広報担当者は、「国防総省の関係者との一対一や、それ以外の面談によって、いかなる優遇措置も受けたことはない」と述べているという。

●調達と「回転ドア」人事

国防総省とアマゾンの接触は、「JEDI」をめぐるもう一つの疑惑とも呼応する。国防総省とアマゾンの、「回転ドア(リボルビング・ドア)」人事だ。

焦点となっているのは、ディープ・ウブヒ氏。2016年8月から15カ月間、国防総省の調達部門である防衛デジタルサービス(DDS)に所属しており、このうち7週間にわたって「JEDI」の調達にかかわっていた、という。

またウブヒ氏は、国防総省に所属していた2017年1月、トランプ大統領によるイラン、イラクなどからの入国を禁止する大統領令に対し、アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏が対決姿勢を示したことに対し、ツイッターでこう述べていた

一度、アマゾニアン(アマゾンの人間)になったら、ずっとアマゾニアンだ。今日、それを誇りに思う、ありがとう、ジェフ・ベゾス。

ウブヒ氏は、国防総省勤務の前には、アマゾンに勤務していた。そして、2017年11月に国防総省を退職すると、再びアマゾンのクラウド部門、AWSに復職している。

ウブヒ氏の「回転ドア」人事は、「JEDI」調達における利益相反の証拠だとして、大きな注目を集めている。

その火の手をあげたのが、入札の競争相手だったオラクルだ。

●オラクルの追撃

「JEDI」に応札したのはアマゾン、マイクロソフト、オラクル、IBM。

そして「JEDI」をめぐっては、「アマゾンありき」の出来レースではないか、との疑念が競合社から指摘されていた。

ヴァニティ・フェアによれば、「JEDI」の応札条件には、「商用クラウドですでに20億ドル以上の売り上げがある」「データセンターは互いに150マイル以上離れている」など、アマゾンを想定したかのような項目があった、という。

このため、オラクルIBMは、「JEDI」調達に関して、米政府監査院(GAO)に異議申し立てを行っている。

オラクルの申し立ては同年11月に退けられた

だがオラクルはさらに2018年12月、「JEDI」調達に関して連邦請求裁判所に提訴している。

この中でオラクルが主張した問題点の一つが、ウブヒ氏の「回転ドア」による利益相反だった。

2019年4月、国防総省は「JEDI」の調達先候補を下馬評通りのアマゾンと、さらにマイクロソフトの2社に絞り込み、オラクルとIBMは選外となった

だが、オラクルによる裁判は継続中。また、国防総省内で進められていた「JEDI」調達に関する調査では、「倫理的問題」の可能性ありとして、監察官による継続調査も進められている。

●議会共和党の異論

「JEDI」調達先の発表は当初の予定を延期し、8月に予定されている。

だがここにきて、連邦議会の共和党議員からも、異論が出始めている。

上院共和党の有力議員、チャック・グラスリー氏は、「調達手続きのやり直し」を主張し、こう述べている。

政府調達の過程において、利益相反やその疑いのあることを見過ごすべきではない。

また、下院共和党のスティーブ・ウォーマック氏も、「JEDI」の調達条件に問題がある、などとして、トランプ大統領にも働きかけを行っている、という。

トランプ政権支持の姿勢が色濃いFOXニュースも、「JEDI」の問題を積極的に取り上げている

下院共和党保守強硬派グループ「自由議員連盟(フリーダム・コーカス)」を率い、トランプ政権の首席補佐官候補にも名前のあがったマーク・メドウズ氏も、FOXニュースの番組に出演し、「アマゾン疑惑」に関する釈明は「信じられない」として、調査が必要だと述べている。

●「トランプ対ベゾス」

「JEDI」問題の背景には、最有力とされるアマゾンのCEO、ジェフ・ベゾス氏とトランプ大統領との対立関係も影を落とす。

ベゾス氏がオーナーを務めるワシントン・ポストは、2016年の大統領選期間中から、トランプ氏に対する批判を続けてきたという関係だ。

一方のトランプ氏は、アマゾンを標的に、反トラスト法などをちらつかせた攻撃を続け、ワシントン・ポストに対しても「アマゾンのロビー集団」「ペテン」などと述べている。

さらに2019年2月のベゾス氏の離婚をめぐるスキャンダルに際して、トランプ氏がベゾス氏を「ジェフ・ボゾ(間抜け)」と揶揄していた。

トランプ氏は「JEDI」調達に関して明確なコメントをしていないが、議会共和党の動きには、そんな対立関係も影を落とす。

●AIと国防

「JEDI」はAIと国防の問題も問いかけていた。

「JEDI」の概要が明らかにされたのは2018年3月の企業向けの説明会だった。

この中で、国防総省最高管理責任者(CMO)のジョン・ギブソン氏は、こう述べている。

この計画は、国防総省の攻撃力の向上と軍人たちに最高のリソースを提供するためのものだ。

国防総省の現行システムは、ユーザー340万人、使用端末400万台、1700カ所のデータセンター、500のクラウドサービス。これを、単一ベンダーのクラウドに統合し、AIを搭載。リアルタイムのデータ解析に対応する。それがJEDIクラウドだ。

契約は当初2年だが、最大10年まで契約延長が可能だ。

ギブソン氏の「攻撃力の向上」という説明が、この「JEDI」が戦闘行為に直結するシステムであることを示している。

そしてAIの展開に力を入れるグーグルは、2018年10月の応札期限を前に、撤退を表明していた。きっかけは国防総省のAI化推進プロジェクト「メイブン」の契約をめぐる社内騒動だ。

グーグルと国防総省は昨年9月、「プロジェクト・メイブン」の一環として、ドローンの映像解析に同社のAI基盤「テンソルフロー」を提供する契約を締結した。

だがこれに対し、グーグルの社是とされてきた「邪悪にならない」に反するとして4000人を超す反対署名、数十人の退職者を出す事態となった。

結局、グーグルはこの契約の更新をしないと表明。さらに、スンダー・ピチャイCEOが同社のAI倫理に関するガイドライン「AI原則」を発表する。

この中で、「AIは社会に有益な目的」で使われるべきであり、グーグルは「人々に危害を与える目的の兵器」「国際規範に反する監視目的の技術」などにはAIを使わない、と宣言していた。

「アマゾン対オラクル」「利益相反」「トランプ対ベゾス」そして「AIと国防」。

「JEDI」プロジェクトには、様々な論点が詰まっている。

(※2019年7月10日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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