デビッド・カッパーフィールドの空中浮遊イリュージョン特許について
昨日のエントリーでマイケル・ジャクソンの斜め立ち特許をご紹介したので、エンターテインメント産業におけるステージ関連特許をもうひとつご紹介しましょう。デビッド・カッパーフィールドの空中浮遊イリュージョンの特許です。
YouTubeで"david copperfield flying illusion"等で検索すればいろいろ動画が出てくると思います。ワイヤーで吊っているのだろうということはわかりますが、ワイヤーがまったく見えないですし、動きも本当に自然でインパクトのあるイリュージョンですよね。
さて、このイリュージョンのための仕組みも米国特許5354238号"Levitation apparatus"として特許化されています。発明者(かつ権利者)はデビッド・カッパーフィールドではなく、ジョン・ゴーハン(John Gaughan)という人です。Wikipediaにエントリーがありましたが、マジック器具製作者として著名な人のようです。
特許を取るためには当業者が実現可能なくらいに詳細に技術内容を記載しなければならないので、マジックやイリュージョンの仕組みを特許化すると特許公報によりタネをばらしてしまうことになるわけですが、それよりも実施を独占できるメリットの方が大きいと考えたということでしょう。
さて、この特許ですが、数本というレベルではなく多数のワイヤーを使う点が最大のポイントです。これによって、一本一本のワイヤーをほとんど目に見えないレベルにまで細くすることができます(明細書には直径0.01インチ(約0.25ミリ)が望ましいと書いてあります)。現在では出願時(1993年)と比較して素材技術が大きく進歩していますので、それほど多くのワイヤーでなくても体重を支えられると思われます。
そして、ワイヤーは扇状に張られて、その一本一本がステージ天井に設置された器具で吊られているわけですが、その扇が常に聴衆の視線から見て垂直方向に張られるよう吊り器具の位置が制御されます。どんなに細いワイヤーでも数本重なると見えてしまう可能性があるわけですが、それを避けています。ゆえに、このイリュージョンはステージ横に客席を置くことはできないと思われます(手品の類はほとんどそうですが)。
そして、ワイヤーで吊られる部位と体につけたハーネス部位をユニバーサルジョイントのような構造で接続し、かつ、接続部を体の重心に近い位置に置くことで、空中での宙返り等の複雑な動きが可能になります。
どこで読んだか忘れましたが、演者の目にも見えないような極細のワイヤーで吊られつつ、空中で複雑な動きをするのはものすごく危険なようで、下手すると指がワイヤーに触れて切断なんて事故になりかねません。仕掛けがあれば誰でもできるという類のイリュージョンではないそうです。なお、本特許の出願日は1993年(登録日は1994年)なので、もう権利は満了しており、他人が真似するのは特許権的には問題ありません。
実際のショーでは、カッパーフィールドの周りに輪を通してみたり、箱の中で浮遊してみたりといった様々な”付加価値”が提供されていますが、これは明細書では開示されていません。どういう仕組みなのか想像してみるのもおもしろいかもしれません。
と言いつつ、実はイリュージョンの仕掛けを詮索するのは野暮な行為で、何も考えずに単にすごいパフォーマンスに驚いているのが正しいという気もします(ここまで書いておいてと言われそうですが)。