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林業に熱い眼を向ける若者になんと応えるか

田中淳夫森林ジャーナリスト
林業講習会への参加者は増えている

新年度が始まり、街角でいかにも新卒といった風の若者を見かけるようになった。実は、私の娘も今年就職した。果たして、どんな社会生活を送るのだろうか。。。

ところで、時折、私の元に学生が訪ねてくる。それも全国からだ。まったく知らない、人的つながりもない学生が、主にメールで「会いたい」と連絡をくれるのだ。そして深夜バスに乗って、あるいは泊まり掛けで私の住む奈良まで来るという。しかも、女子大生が多い……。

なんて記すとにやけてしまうが、彼ら彼女らの目的は、日本の林業の現状を知りたいというものだ。日本の林業に関わりたいという熱い思いを持っていて、自らの将来(つまり大学卒業後)の進路として、林業を選択肢に加えているのである。なかには、海外留学中の女子大生とか、これから留学して林学を学ぶという学生もいた。

そんな彼らと会うと、若者が林業に真剣に向き合おうとしていることを肌で感じる。動機としては森林について学んだことから林業に興味を持った学生も入れば、建築から木材、そして林業へと興味を拡げた学生まで様々だ。一方で、就職口として林業に関わりたいという女子も少なくない。林業女子という言葉も生れているが、たしかに若い女性で(森林ではなく)林業に興味を持つ人は増えている。

みんな、熱い。熱く森へ、林業へ、木材への思いを語る。そして自ら関わりたいと訴える。以前は、若者は都会に憧れ、オシャレな職場に就きたい……林業なんてダサイ……という声が大半だったように思うのだが、時代の潮流が変わったと感じる。多数派ではないにしろ、林業に眼を向ける人の割合は確実に上がっているだろう。

実際、このところ林業界で若年層が増加してきたデータがある。従事者数は相変わらず減少傾向で、すでに5万人前後まで落ち込んだ。しかも60歳以上が異常に多いという高齢化職場。しかし2000年に30%を越えていた高齢化率が、2010年には21%を切るまでに下がった。逆に若年者率(35歳以下)は、6%(1990年)から18%(2010年)へと上がっている。第一次産業の中では、若返りが進んでいる職場なのだ。

森林・林業白書より。林業従事者の高齢化率・若年者率の推移
森林・林業白書より。林業従事者の高齢化率・若年者率の推移

若者の就業が増えた理由は、大都会より地方都市、田舎に暮らす場を求める流れが起きていることに加えて、「森林の仕事ガイダンス」のような林業に就職する窓口が設けられたことや、林業大学校が各地に開校してゼロから林業を学ぶ場がつくられたことも大きいだろう。大学には、林業というより自然や環境を扱う講座が増えたようだ。また国が木材生産量の増大を促しており、現場が慢性的な人手不足のため、新規に採用する林業事業体が増えたこともある。

私は林業の研究者でも業界広報マンでもない。もちろん就職アドバイザーでもない。むしろ林業的には素人だと自認している。あくまで森林問題を自然科学と社会の両面から考えると、林業は外せない要素だと思ったからかじってきたのだ。そして主に森林に関する著作を重ねてきた結果、否応なく林業に対しての情報や思いが蓄積されてきただけである。

私の持つ情報や考察が多少とも彼らの役に立つのならと、面会の申し出には可能な限り応えるようにしている。(なお、それは学生が相手の場合。ビジネスに利用するために「情報を提供してくれ」と言われた場合、何らかの見返りを要求する。私は仕事の一環で情報を扱っているのだ。)

私の語る日本林業の現状、そして将来像は甘くない。いや、かなり厳しい。「絶望の日本林業」と私自身が名付けているほどだ。業界の古い体質にバラマキ補助金の弊害、劣悪な職場環境と待遇、世界の潮流の逆を行く林政……具体例を交えて語る。ま、ケチョンケチョンである(笑)。こんなの聞かせたら希望を失うだろうというほどに。頑張っている林業家や新たな試みも紹介するが、どちらかというと例外扱い。

それでも、彼らに諦める気配はない。なんとかならないか、と食い下がる。

私は、解決法は君自身が考えてくれ、と突き放す。そして、卒業後に就いた職場でも、今の自分が描くあるべき林業を忘れずにいてくれ、と付け加える。

ある意味、賽は投げられたのだ。若者の意識は林業に向かい始めた。彼らにボールを投げ返すべきなのは、現在の林業界を仕切っている中高年(現場の先輩から経営者、そして林政担当者まで)だろう。若者の思いを取り込んで林業を再生できるか否か。

学生、そして新卒の若者の思いを潰さない社会でありたい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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