トゥヘル監督の超攻撃的4-4-2が守備的に機能したドルトムントとの第2戦は今季のパリのベストマッチ
際立ったカバーニとネイマールの守備
無観客で行なわれたチャンピオンズリーグ(CL)のラウンド16第2戦「パリ・サンジェルマン(パリ)対ドルトムント」は、ネイマールとフアン・ベルナトのゴールにより、2−0でパリが勝利。これにより、トータルスコアを3−2としたパリが4シーズンぶりにベスト8進出を果たした。
ボール支配率は50%対50%、シュート数はパリが9本(枠内4本)でドルトムントが12本(枠内2本)、パス本数はパリが519本(成功率87%)でドルトムントが612本(成功率81%)、走行距離ではパリの108.322kmに対してドルトムントが108.623km。
これらのスタッツが示すとおり、スコアだけを見ればパリの順当勝ちに見えるこの試合は、実は内容的にはほぼ互角の戦いだった。
では、そんな拮抗した試合で最後に笑ったパリの勝因は、どこにあったのか?
おそらくその答えは、試合終了と同時に両足を痙攣させてしまったエディンソン・カバーニと、歓喜のあまり涙を流したネイマールの姿に集約できる。
この試合でカバーニが記録した走行距離は、両チームトップとなる11.97km。
2トップの1角としてプレーしながらシュートがわずか1本に終わったカバーニではあるが、この試合においては守備面で大きく貢献。ファーストディフェンダーとしてだけでなく、ネイマールが攻め残りする場面では、それによって生まれる中盤のスペースを埋めるという重責を果たしていた。
クラブ歴代トップの200ゴールを記録するカバーニが、CLのノックアウトステージのようなハイレベルな相手との試合で不可欠な戦力であることを、あらためて証明した格好だ。
同じくチーム3番目の走行距離(10.47km)をマークしたネイマールも、この試合では普段とは比べものにならないほど、必死になって守備に奔走した。
ネイマールが献身的にディフェンスするたびにベンチから沸いた拍手は、チームをひとつにし、全体の士気を高める効果もあった。そのことは、前半28分のダイビングヘッドで決めた先制ゴール以上に、クローズアップされてしかるべきポイントと言っても過言ではないだろう。
加入3シーズン目にして初めてCLのノックアウトステージでプレーしたネイマールが、ようやくその存在価値を示したのだから、まさに面目躍如の活躍ぶり。ネイマールの獲得に史上最高額となる2億2000万ユーロ(約290億円)を投資したナーセル・アル=ヘライフィー会長も、ほっと胸を撫で下ろしたことだろう。
的中したトゥヘル監督の人選と戦術
つまりこの試合のパリは、第1戦で欠如していたインテンシティと集中力を90分間持続させることができていた。崖っぷちに立たされてようやく目を覚ましたことを称賛すべきではないが、少なくとも今シーズンのパリの試合のなかではベストマッチだったことは確かだ。
そういう意味で、カバーニ、ネイマール、アンヘル・ディ・マリア、パブロ・サラビアのアタッカー4人を同時起用する4−4−2をこの大一番で採用したトーマス・トゥヘル監督の戦術は、ほぼパーフェクトに機能したと言える。
とりわけ、立ち上がりから先制ゴールを挙げるまでの時間帯は前からのプレッシングが見事にハマり、敵陣にドルトムントの11人を封じ込めてほとんどサッカーをさせなかった。
その間に相手ゴールを脅かしたのは25分のカバーニのシュートシーン1回のみだったが、攻撃こそが最大の防御。第1戦で2ゴールを喫したアーリング・ブラウト・ハーランドから2シャドーのジェイドン・サンチョとトルガン・アザールを遠ざけたことで、ドルトムントに攻撃の糸口を与えることはなかった。
もちろん、ハーランドを完璧に封じたマルキーニョスとプレスネル・キンペンベのCBコンビのハイパフォーマンスぶりも、この試合の勝因のひとつだった。故障明けに実戦経験を積めなかったキャプテンのチアゴ・シウバをメンバー外にして、マルキーニョスをCBで起用したトゥヘルの采配が見事に的中したと言える。
昨シーズンのラウンド16で戦犯となったキンペンベも期待に応え、その時に流した涙を無駄にしなかった。同じことは、トーマス・ムニエの代わりに右SBとして任務を遂行したティロ・ケーラーにも言える。
そのほか、2ゴール目を決めるなどあいかわらずCLの舞台に強いことを証明したベルナトもマン・オブ・ザ・マッチに相応しい活躍を見せ、レアンドロ・パレデスとダブルボランチを組んだイドリッサ・ゲイェもグループステージのレアル・マドリード戦(第1節)以来のパフォーマンスを見せて信用を取り戻すことに成功した。
体調不良により後半64分から登場したキリアン・エムバペのプレーがトップフォームからほど遠い出来に終わったことは誤算だったが、求めていたものを選手全員が表現してくれた指揮官にとっては、まさに会心の勝利だったに違いない。
パリのCLベスト4進出はあるのか?
逆に、敗れたドルトムントのリュシアン・ファーブル監督は、プランBを持ち合わせていなかったことが敗因のひとつとなった。
今シーズンのドルトムントは、4−2−3−1から3−4−2−1に布陣を変更したことが復調のきっかけとなったことは間違いないが、少なくとも1ゴールを決めれば延長戦に持ち込める状況が続いた後半も3バックに固執し続けた点は疑問が残る。エムバペが不振であることが判明した時点で、CBを3枚から2枚に減らして捨て身の攻撃を図る選択も考えられたはずだ。
いずれにしても、押し込まれた後半も最後まで集中力を切らさずにしのぎきったパリは勝者に値した。昨年11月1日の敗戦(対ディジョン)以来、公式戦28試合で唯一喫した第1戦の敗戦で突如その立場を危うくしたトゥヘルも、ひとまず危機を脱出した格好だ。
しかしながら、まだカルロ・アンチェロッティ監督時代とローラン・ブラン監督時代のパリに立ちはだかった4シーズン連続ベスト8の壁を突破したわけではない。ウナイ・エメリ前監督の2シーズンとトゥヘル1年目の昨シーズンまで3度続いたラウンド16の壁を、ようやく突破したにすぎないのである。
少なくとも欧州制覇を最大のターゲットとするアル=ヘライフィー会長を納得させるためには、トゥヘルはパリが残すCL最高成績のベスト4(1994−1995シーズン)に駒を進める必要があるだろう。
新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、ラウンド16の4試合を残したところで中断された今シーズンのCL。まだいつ再開されるのか見通しさえつかないのが現状ではあるが、無事再開されたあかつきには、準々決勝以降のパリの戦いぶりに注目が集まる。
(集英社 Web Sportiva 3月13日掲載・加筆訂正)