第2次森保ジャパンのサッカーで見逃せない傾向とは? 第1次と明らかに異なる特徴【ミャンマー戦分析】
相手ボール時に強さを発揮する傾向
2026年W杯アジア2次予選がスタート。その初戦となったミャンマーとのホーム戦は、戦前の予想通り、日本が格下ミャンマーを終始圧倒し、5-0で完勝した。W杯予選は結果がすべて。その点で言えば、日本にとってはW杯出場に向け、申し分のない船出だ。
それだけに、結果だけに着目すると、試合を見る面白味は半減してしまう。当たり前のことが当たり前に起こった試合。それ以上でも、それ以下でもない。
そこで、改めて現在の森保ジャパンのサッカーの特徴を踏まえ、攻撃面に着目。引いて守る相手に対し、どのようなアプローチでゴールを攻略しようとしていたのかに絞って、約2年半前に行なわれたカタールW杯アジア2次予選のミャンマー戦と比較しながら掘り下げてみたい。
おそらくそこで浮かび上がってくる相違点は、来年6月まで続く今後のアジア2次予選を楽しむための視点にもなるはずだ。
まず、第2次森保ジャパンのサッカーの特徴のひとつは、相手がボールを持った時に強さを発揮することだ。実際、今年に入ってからの親善試合を振り返ると、その傾向は数字としてもしっかり表れている。
第2次森保ジャパンの初陣となった今年3月の親善試合。日本はボール支配率53.5%でウルグアイとドローを演じ(1-1)、続くコロンビア戦では51.2%で敗戦を喫した(1-2)。
開始3分で相手に退場者が出た6月のエルサルバドル戦は6-0で大勝したが、日本のボール支配率は54.3%。ほとんどの時間を11人対10人で戦ったにもかかわらず、意外と数字は低かった。日本は続くペルー戦も4-1で完勝しているが、この試合の日本のボール支配率は41.8%だった。
また、ドイツに4-1で勝利した9月のアウェー戦は35.5%で、その3日後のトルコ戦も4-2で勝利を収めたが、ボール支配率は45.2%と相手を下回っている。
4-1で完勝した先月のカナダ戦も46.4%。久しぶりにボール支配率56.6%と相手を上回ったのは、続くチュニジアとの親善試合だったが、日本は5バックで守る相手に多くの決定機をつくれず。2-0で勝ったものの、攻撃に関してはそれまでの5試合と比べると、かなり低調な内容に終わっている。
第1次森保ジャパンの攻撃の特徴
では、今回のミャンマー戦はどうだったのか。FIFAランキング18位の日本が158位のミャンマーをホームに迎えた試合を、過去8試合と比較してもあまり意味はない。対戦相手のレベルや戦い方が、あまりにも違っているからだ。
2021年5月28日。日本は同じW杯アジア2次予選を無観客のフクダ電子アリーナでミャンマーと戦い、大迫勇也の5ゴールを含む大量10ゴールをマークし、クリーンシートで大勝している。ミャンマーにとっては、国内情勢が激変する最中という特別な状況下で戦った難しいアウェー戦だった。
その時のミャンマーは、4-2-3-1を基本布陣とする日本に対して中盤の人数を合わせるべく4-5-1を採用。一方、今回ミヒャエル・ファイヒテンバイナー監督がチョイスした布陣は、最終ラインを厚くした5-4-1。ただし、布陣は異なるものの、自陣で守りに徹するという戦い方は変わらなかった。
戦い方で言えば、日本も当時と同様。ほぼ敵陣でボールを保持し続けるなかで、いかにしてゴールをこじ開けるか。それを最大のテーマとして試合に臨んだことに変わりはない。強いて違いを挙げるとすれば、今回は4-1-4-1(4-3-3)を採用した点だ。
前回はダブルボランチに遠藤航と守田英正を配置する4-2-3-1。つまり今回の対戦では、通常は1トップ下を担当する鎌田大地と南野拓実の2人をインサイドハーフに配置することで、前回対戦よりも攻撃の駒を1枚増やした格好だ。
ほぼ同じようなシチュエーションとアプローチで行なわれた2つの試合のスタッツを比較してみると、当然というべきか、数字的にも似通っている。
たとえば、日本のボール支配率は、前回対戦は71.5%で、今回も72%。シュート数は前回が25本で、今回も24本。引いて守る相手に対する攻撃の最大のキーポイントとも言えるサイドからのクロスボールでも、前回の29本に対し、今回も30本とほぼ同数だった。
では、なぜ今回の対戦では前回と比べて日本のゴール数が半減したのか。
もちろん選手も試合状況も異なるため単純な比較はできないが、それを前提として、ひとつだけ大きく異なるスタッツがある。それは、日本が記録した敵陣での縦パスだ。
前線に打ち込むくさびのパスの本数は、前回対戦では49本を記録したが、今回の試合では28本と激減。ここに、ゴール半減の要因が潜んでいる可能性がある。
第1次森保ジャパンでは、縦パスが攻撃の調子を図るバロメーターだった。カタールW杯本番前にその傾向は失われたが、それまでの強化プロセスにおいて、森保一監督が重視していたのがそれだった。
ボールを奪ったら縦に速く攻める。それができなかった場合は、しっかりと敵陣でボールを保持しながら、中央に縦パスを入れて相手を引き寄せ、そこで空いたサイドのスペースを使ってサイド攻撃でゴールをこじ開ける。
要するに、中央攻撃があってこそのサイド攻撃だった。さらに言えば、中央攻撃をより機能させるために、複数の選手が同じ絵を描きながら連動する攻撃を求めていた。もちろん、1トップで抜群のポスト役となる大迫勇也の存在が大きく影響したことは間違いない。
前回対戦時と唯一異なるスタッツとは?
それに対し、第2次森保ジャパンでは、縦パスは攻撃が機能しているかどうかのバロメーターにはなっていない。過去8試合でゴールを量産した試合では、ロングやショートを含めたカウンターアタックが主流で、1トップにくさびを打ち込む回数は激減した。
従って、ゴールパターンも大きく変わった。前回対戦時、日本が記録した10ゴールは多彩だった。たとえば、鎌田と南野のワンツーを使ったコンビプレーから南野が決めた先制点。右の伊東純也から南野、左の長友佑都に展開し、マイナスクロスを大迫がヘッドで決めた2点目。
あるいは、右サイドで酒井宏樹、南野、伊東がダイレクトパスを使いながら崩したうえで入れた伊東のクロスをファーに飛び込んだ長友がヘッドで折り返し、大迫が決めた4点目など。その多くが、コンビネーションプレーから相手の守備ブロックを崩してのゴールだった。
しかし今回は、チームとして崩しきったゴールというより、個々の能力によって奪ったものが多かった。
先制点と4点目は、いずれも南野のクリエイティブな浮き球パスが上田綺世のゴールを生み出した。2点目は鎌田のミドルシュートで、5点目も守田のパス能力と堂安のシュートまでの技術力が光ったゴール。
最も再現性が高そうに見えた3点目にしても、それ以外のシーンでは見られなかったことを考えると、チームとしての狙いというより、堂安と上田の即興性によって生まれたゴールと見ていいだろう。
どちらもゴールを量産したという点では同じだが、その方法が変化したことは間違いなさそうだ。これは、2年半前と比べて日本の選手個々の能力がアップした証明であり、逆に言えば、引いて守る相手に対する組織的な攻撃が機能していないとも言える。
もっとも、引いて守る相手をどのように崩すのかは、アジア2次予選特有のシチュエーションで、W杯本番では起こりえない状況だ。そういう意味では、チームのコンセプトの写し鏡として日本の攻撃方法に着目すると、今後のアジア2次予選を見るための視点を増やすことができそうだ。
(集英社 Web Sportiva 11月20日掲載・加筆訂正)