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ロビンソン・カノの出場停止処分はメッツにとって渡りに舟だった?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
2度目の薬物違反で2021年1年間の出場停止処分を受けたロビンソン・カノ選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ロビンソン・カノ選手が2度目の薬物違反】

 MLBは現地時間の11月18日、メッツのロビンソン・カノ選手からリーグが定める禁止薬物に対し陽性反応が検出されたため、同選手を2021年シーズン1年間の出場停止処分を科したと発表した。

 カノ選手はマリナーズ時代の2018年にも禁止薬物違反で80試合の出場停止処分を受けており、今回で2回だったため、より重い処分が下されることになった。

 この決定を受け、メッツのサンディ・アルダーソン球団社長は声明を発表し、MLBの裁定を支持する姿勢を明確にしている。

【主軸打者を失ったメッツ】

 2020年シーズンのカノ選手は、間違いなくメッツの主軸打者だった。

 公式戦49試合に出場し、打率.316(チーム3位)、10本塁打(同2位タイ)、30打点(同4位)と打撃主要部門すべてでチーム上位にランクし、強打者の指標といわれるOPS(出塁率+長打率)でもチーム3位の.896を記録し、健在ぶりをアピールしていた。

 10月にMLBの承認を受け、メッツを買収したスティーブ・コーヘン新オーナーは、2017年から4年連続負け越しを続けるチームの即時再建を目指しており、カノ選手の出場停止処分は大きな影響を及ぼすことになりそうだ。

【楽観的な見方をする米メディア】

 だが多くの米メディアの見方は、かなり違っているようだ。カノ選手の損失はメッツにとってそれほど甚大ではなく、むしろチームにとってメリットが大きいという意見が多い。

 まず守備の改善だ。

 これまで2度のゴールドグラブ賞を獲得しているカノ選手もすでに37歳。ここ数年は守備面に難があると指摘されてきた。2018年オフにトレードでメッツに移籍する前のことだが、マリナーズでは本職の二塁ではなく、一塁に回る試合も増えていた。

 すでにメッツにはカノ選手に代わり二塁を任せられる数人の若手選手が揃っており、守備に関しては、むしろカノ選手を欠いた方がアップグレードできるとメディアは予測している。

【約21億円の余剰予算を確保】

 次に、年俸総額に余裕ができたことだ。

 2013年オフにヤンキースからFAになったカノ選手は、マリナーズと総額2億2826万ドル(約239.7億円)に及ぶ10年契約に合意しており、来シーズンも2400万ドル(約25.2億円)の年俸が保証されていた。

 しかしカノ選手が1年間の出場停止処分を受けたことで、年俸を受け取る資格がなくなった。そのためメッツは、チームが負担する予定だった2025万ドル(約21.3億円)を余剰予算に回すことができるのだ。

 まだカノ選手とは2023年まで契約が残るので複数年契約は難しいかも知れないが、1年間限定で大物FA選手を獲得することが可能になってくる。

【クリス・ブライアント選手の獲得が理想的?】

 たとえばスポーツ専門サイトの「The Athletic」のティム・ブリットン記者は、カブスの若き主砲、クリス・ブライアント選手の獲得が可能になったと指摘している。

 ブライアント選手は今オフに年俸調停3年目を迎えており、2020年シーズンの年俸額が1860万ドル(約19.5億円)だったため、このままカブスに残留する場合は2000万ドル(約21億円)以上の年俸額になるのは必至の状況だ。

 一方でカブスは、新型コロナウイルスの影響で大幅減収を余儀なくされており、すでにスタッフの人員削減を断行している。もちろん選手の年俸総額も削減する方向に動いており、高額年俸を必要とするブライアント選手に関しても、トレードに出すか、12月2日までに戦力外通告する可能性があると噂されている。

 また2015年に新人王、翌2016年にはMVPを獲得する活躍をみせたブライアント選手は、ここ数年その輝きを失いつつある。2018年に故障で戦線離脱を余儀なくされた頃から打撃が失速し始め、2020年シーズンは打撃不振で、打率.206に留まっている。

 もしメッツがカノ選手で浮いた余剰予算を使い、ブライアント選手を獲得した場合、いずれにせよ彼は2021年オフにはFAになる。たとえブライアント選手の打撃が復活しなくても、彼は1年でチームを去っていくわけだ。

 逆にブライアント選手の打撃が復活したとしたら、潤沢な資金を有しているコーヘン新オーナーなら、オフ前に大型契約での契約延長も可能で、長期的スパンでカノ選手に代わる主軸打者を確保できるのだ。まさに一挙両得といえるだろう。

 元々コーヘン新オーナーは今オフに積極的な選手補強を明言しており、カノ選手の出場停止処分により、さらにその動きが加速化していきそうだ。

 この冬はメッツから目を離せそうにない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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