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[ドラフト候補カタログ] プロ入りこそ母親への恩返し 松本竜也(Honda鈴鹿)

楊順行スポーツライター
2016年センバツで優勝した智弁学園高。松本も2年生としてメンバーに名を連ねた(写真:岡沢克郎/アフロ)

 最後は、146キロの外角直球で空振り三振に取った。打席にいたのは、智弁学園高の先輩・吉岡郁哉だった。負けたら終わりの、都市対抗東海地区予選第6代表決定トーナメント。王子との2回戦でHonda鈴鹿・松本竜也は、3回から救援登板して最後まで投げきり、7回を2安打6三振の無失点と好投を見せた。だが……チームは0対3で敗れ、東京ドームへの道を断たれた。

「チームに流れを引き寄せられなかった。チームを勝たせられるエースになりたい」

 松本は、そう声を絞り出す。

昨年は150キロ突破、そして今年も……

「去年はゴロを打たせる球だったのが、今季は空振りが取れたり、こっちが"ボールかな?"と思っても打者が反応してくれるんです」

 予選前、そんなふうに話していた松本。2年目の2019年、キャッチボール相手の瀧中瞭太(現楽天)が投じたカットボールを「いいな」と直感。習得に取り組んできたその新球の、完成度が上がっている。やはり智弁学園高の1年先輩で、今季同僚となった岡澤智基捕手も、「いいボールや!」久々に受ける松本の成長をミットで感じるほどだ。

 高校時代、2年生で登板はなかったものの16年センバツで優勝。翌17年センバツでは熊本工を完封して進路が注目されたが、「母子家庭なので、大学よりも……」と社会人を選択した。すると1年目から都市対抗予選に登板し、日本選手権本戦では先発と順調に力を伸ばす。昨年は、

「コロナ禍で自主練習の期間中、まっすぐの質を上げたかったので体づくりに目を向けました。キャプテンの畔上(翔)さんがいっしょに走ってくれたりして、高校時代よりはだいぶ筋肉量も増えています」

 その成果で、オープン戦では151キロを計測。そこまでの最速を5キロも上回る数字には、本人が一番ビックリしたらしい。

 今シーズンは、開幕戦となる東京スポニチ大会初戦の先発も任された。ただ5月末、日本選手権大会の東海地区予選・日本製鉄東海REXとの初戦、同点で救援しながらつかまり、結局チームは本大会出場を逃した。「力むのが悪いクセ」と、本人は課題を自覚している。

「だから今季は、余分な動きをなくせば少しでも力まなくなると考え、それまではノーワインドアップだったのを、セットからの投球に変えてみました。それで制球も向上し、調子の波が少なくなったと思う。リリースでイッキに100に達するような、力感のないフォームが理想です」

 履正社高時代の17年センバツで準優勝し、明治大で活躍する竹田祐(4年)は中学時代からのライバルで、「春先に連絡を取ったきりですが、"お互い、プロに行けるように"という話はしました」。プロ解禁年の昨年は指名がなかった。もし今年プロ入りを果たせば……高校時代、毎朝5時起きで弁当を作ってくれた母・美幸さんへの、大きな恩返しになる。

まつもと・りゅうや●智弁学園高→Honda鈴鹿●178cm86kg●右投右打●投手

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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