車掌はなぜ制服を脱ぎ飛び降りたのか
■制服制帽を脱ぎ飛び降りた車掌
報道によると、人身事故のせいでダイヤが乱れていた近鉄奈良線東花園駅で、対応に当たっていた車掌と乗客が口論となり、突然車掌が制服制帽を脱ぎ捨て線路内に降りて高架線から飛び降り怪我をする事故がありました(<近鉄>ダイヤ乱れ客と口論の車掌 地上に落ち骨折 東大阪:毎日新聞 9月21日)。
会社側は、「不適切な行動を引き起こし、心よりおわびします」とコメントしています。
■弁解はできないけれども
事実とすれば、会社側が謝罪しているように、とても不適切な行動です。乗客の安全とスムーズな鉄道の運行を仕事とする職員として、あるまじき行動と言われても仕方がないでしょう。
ただ、あまりにも非常識な行動のために、ただの叱責や謝罪だけで済ませてはいけないとも感じます。
客と口論になって暴言を吐いてしまったのなら、ただの短気な人かもしれません。泣き始めたのなら、ただの気弱な人かもしれません。まともな応対ができなかったのなら、経験不足や訓練不足と言えるかもしれません。
けれども、今回の行動は常識的には理解できません。ただ、人は時折、常識では理解できないことをしてしまいます。
■心因反応?
私達の周囲でも、突然信じられないような非常識な行動をしてしまう人はいます。ただの変わり者ではありません。違法薬物のせいでもありません。特別な病名を持っているわけでもありません。それでも、突発的な行動を取る人がいます。
そのような行動は、「心因反応」と呼ばれることもあります。
■心因反応とは
心因反応とは、とても衝撃的な出来事や大きなストレスで、心に強いダメージを受けた時に出る症状です。心因反応には、いくつかの行動パターンがあります。
1原始反応(驚愕・恐慌反応)
あまりのショックで、腰を抜かして体が動かなくなたり、逆に突然走り出したり、叫び出したりする行動です。通常の叫び声や走って逃げるという行動以上に、奇声をあげたり、常軌を逸した走り方をすることもあります。
2短絡反応
とても短絡的、感情的、衝動的になって、物を投げるなどの破壊行動をすることもあります。
3その他
一時的に、妄想的な思いに駆られたり、感情にフタをして何も感じなくなったり、精神病のような症状が短期的で出ることもあります。
普通の人や強い人でも、大きなダメージで心因反応を起こす人もいます。生まれつき過敏な人、あるいは長年のストレスで心身が弱っている状態の人が小さなきっかけで心因反応を起こす人もいます。
いつものその人なら考えられないようなことを、突然してしまうことは、まれにあります。世間的には、そのとんでもない行動が非難され、刑事責任が問われたり、仕事を解雇されることもあります。ただ、その行動から一般に考えられるような悪い人ではないことも多いのですが。
■心の健康を守ろう、より良い環境を作ろう
今回の行動は不適切です。ただ、非難と制裁を与えるだけでは不十分に思えます。鉄道職員は、日々ストレスの中で働いています。たとえば、国土交通省の調査によれば、駅員乗務員への暴力事件が毎年800件以上発生しています。暴言は数え切れないでしょう。
鉄道の安全を守るためには、鉄道職員の心の健康を守る必要があります。ミスも、違反も、個人の責任だけを問い処罰の対象にするだけではなく、原因を探り、防止策を考えていきたいと思います。
*診断名「心因反応」について
心因反応は、伝統的な診断名ですが、かなり広くあやふやな部分があるため、現在では正式な診断名としては使われなくなりつつあります。心因反応の一部は、適応障害と呼ばれたり、ASD(急性ストレス障害)、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、うつ状態と呼ばれたりします。
今回は、報道された職員の状態を診断したり推測しているわけではなく、あえて広くあやふやな概念を使って、一般的な心と行動の問題を解説しました。どの職場でも、家庭でも、心の健康を守っていきましょう。
修正(22:30):駅名を修正しました。
補足(9/22. 3:00):イメージ写真をドイツの列車にしている理由:今回の事故の報道写真を入手できていないため。また事件事故に関して国内の鉄道関係のイメージ写真を使うと、関連があると誤解されることを防ぐため。
関連ページをアップしました(9/22. 3:00)。