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河村勇輝の才能を認めた上で彼に挑み続けた寺嶋良が内に秘めた特別な反骨心

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
河村勇樹選手(前方)を徹底マークする寺嶋良選手(筆者撮影)

【Bリーグで初めて実現した東海大PG対決】

 週末に行われたBリーグの京都対横浜戦で、元東海大ポイントガード(PG)と現東海大PGの初対決が実現した。

 大学バスケの名門校である東海大は数多くの選手をBリーグに輩出しており、今更東海大出身選手同士の対決はBリーグでは日常茶飯事のことになっているが、この2人に関しては初対決どころか、初対面でもあった。

 現東海大PGは説明するまでもなく、昨シーズン大学入学前に特別指定選手として三遠入りし、Bリーグの最年少出場記録を塗り替えた河村勇輝選手だ。今シーズンも大学シーズン終了後に横浜入りし、2度目のBリーグ挑戦を果たしている。一方の元東海大PGは、同じく昨シーズン特別指定選手として京都入りし、今シーズンから本格的にプロ選手として活躍する寺嶋良選手だ。

 東海大を入れ違いで入学、卒業した2選手は、昨シーズンBリーグの舞台で相まみえることがなかったため、今回が初対決となったわけだ。

【多少因縁めいた2人の関係】

 あくまで個人的な意見だが、この2選手には多少因縁めいた関係を感じている。

 寺嶋選手の方が1ヶ月ほど早かったものの、両選手ともほぼ同じ時期に特別指定選手としてBリーグ入りし、それぞれプロデビューを飾っている。そして2人ともBリーグでは背番号「0」を使用しているのも、奇妙な縁ではないだろうか。さらに重要なこととして、両選手ともに即チームにインパクトを与える活躍をみせているのだ。

 河村選手については今更説明不要だと思うが、チーム合流後3試合目で先発起用されるなどして、計11試合に出場し、1試合平均12.6得点、3.1アシスト、2.0リバウンド、1.5スティールの成績を記録。シーズン終了後に「新人賞ベストファイブ」に選出されている。

 一方の寺嶋選手もチームに合流すると、同じく3試合目から20分以上の出場時間が与えられるようになり、いつしか先発PGを任されるようになった。寺嶋選手合流前は9勝16敗と低迷した京都が、彼が合流した後は11勝5敗の成績を残しているように、チームのラッキーボーイ的な存在になっていた。

 個人成績においても、17試合(うち先発5試合)に出場し、1試合平均9.1得点、2.3アシスト、2.9リバウンド、1.1スティールと、河村選手に決して引けを取らない数字を残していた。それでも寺嶋選手は、「新人賞ベストファイブ」に選ばれることはなかった。

 すでに全国的な知名度を誇る河村選手に対し、まだまだ世の中に認知されているとは思えない寺嶋選手。傍目からも昨シーズンの活躍が純粋に評価されているとは思えず、そうした2人の微妙な関係を考えながら直接対決を待ち侘びていた。

【河村選手の好漢ぶりに魅了された寺嶋選手】

 そして実現した初の直接対決は、先発PGの寺嶋選手に対し、河村選手はベンチスタートだったこともあり、第1戦ではコート上で相まみえる時間は短かった。

 それでも第4クォーターは、コート上でほとんどの時間を共有。そこで試合後の寺嶋選手に、初対決した河村選手について聞いてみたところ、以下のような答えが返ってきた。

 「実は今回会うのも初めてで、会った時の第一印象は、礼儀正しくていい子だなというのを思いまして…(笑)。TVとかいろいろメディアに取り上げられていてその答えもすごく上手くて、人生何回目だろうと思うくらい素晴らしい人間性だと思いました。

 選手としても、今回は前半でシュートとか外していて、それでも後半ああやって巻き返して点を取れるというのは、メンタル面でも素晴らしい選手だなというのを感じました。

 最初は(妬みのようなものが)あったんですけど、ああやって一緒にマッチアップとかして、人間性とかみると納得ですね(笑)。相手ながら応援したくなるような選手でした」

 今回河村選手と初めて相対し、寺嶋選手はすっかり魅了されてしまったようだ。そして彼の才能を「自分の大学1年の時と比べてはるかに上のレベル」と最大限に評価している。

【トップアスリートだからこそ芽生える反骨心】

 だからと言って、寺嶋選手が河村選手に勝てないと考えているわけではない。むしろ彼のプレーを見ながら、「負けていられない」という反骨心を抱きながら対峙していた。それが結果となって表れたのが、第2戦だった。

 第1クォーターに寺嶋選手と入れ違いで河村選手が出場すると、スピード溢れるプレーで京都のディフェンスを翻弄し、チームに勢いを与え始めた。明らかに河村選手を中心に主導権を握り始め、一時は10点のリードを奪う展開になった。

 そこで京都の小川伸也HCは河村選手のプレーを抑えるため、第2クォーター途中から同HCが「足とフィジカルがある」と説明する、寺嶋選手にマッチアップさせる作戦をとった。

 これが見事に功を奏した。第3クォーター途中までで河村選手は寺嶋選手相手に3つのファウルを宣告されファウルトラブルに陥り、結局2点リードされた第4クォーターの重要な局面で、ファウルアウトに追い込まれている。河村選手としても悔しい退場だったはずだ。

 一方の寺嶋選手は、チームは結局敗れてしまったが、大接戦の試合で最後までコートに立ち続けた。試合後の寺嶋選手も、上手く河村選手に対処できたことを認めている。

 「多分彼がスティールを狙ってきている部分があって、それがボール運びをしながら伝わってきたので、こちらもそれを使って引っかけにいったというか、ファウルをもらいにいった部分がありました。そこは少し経験の差が出たのかなと思います」

【将来はリーグを代表する名物PG対決に?】

 今シーズンに限っては、寺嶋選手はシーズン開幕からBリーグのコートに立ち続け、経験豊富な猛者たちと対峙し続けてきた。寺嶋選手自身もまだまだ成長過程にいる身だが、現在の河村選手と比較すれば、経験値では寺嶋選手に軍配が上がったようだ。

 2人の初対決は1勝1敗と、痛み分けに終わった。ただ寺嶋選手自身は今回の河村選手との初対決を終え、勝敗とは別にバスケ選手として新たな楽しみを見出したようだ。

 「彼がいる、いないかで横浜の試合の流れや良さが変わってくるので、彼の存在は本当にすごいと思っています。僕個人としては詰めの甘さが出て(第2戦は)負けてしまっているので、個人的にも彼に勝ったという気持ちはまったくなくて、また来年リベンジしてやり返したいと思います。

 (河村選手は)自分から(ディフェンスに)つきたいなと思いますし、マッチアップしたいと思います。やはり大学の後輩なので負けられないというのがあるので、そういった部分で自分も引き締まるので、マッチアップしていてかなり楽しい選手です」

 寺嶋選手と河村選手。将来はBリーグの名物PG対決になるよう、これからも名勝負を繰り広げて欲しいと願っている。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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