なぜ入試過去問のPDF化が著作権侵害になってしまうのか
「過去問のPDF化は"著作権法違反の恐れ" 指摘受け、旺文社が全データを削除 紙のまま保管へ」なんてニュースを読みました。(追記:旺文社からは大部前(今年5月)に関連リリースが出ていました。)
ということだそうです。簡単に解説します。
入学試験問題での他人の著作物の利用(主に、国語と英語(またはその他外国語)の話です)「については特別の規定があり、許諾なしで複製等が可能です。
もし事前に著作権者の許諾が必要であるとすると、入試問題がネタバレしてしまいますのでこの規定があるのは当然です。
さらに、47条の10(複製権の制限により作成された複製物の譲渡)によって36条1項の規定により複製したものは公衆に譲渡することができます。したがって、大学や高校が入試問題の印刷の残部を出版社(今回の場合は旺文社)に譲渡すること自体は問題ありません。
しかし、譲渡された後の複製(今回の場合はPDF化)については、入試問題だからという特別な規定はありませんので、著作権者(たとえば、国語の問題で文章を使われた作家)の許諾がないと著作権侵害になってしまいます。
PDF化して勝手に配るならまだしも社内の保存用にPDF化するだけで著作権侵害というのも腑に落ちない感があるのではないでしょうか。旺文社では「PDFデータは10月に削除済み。原本も破棄しているため、現在、対象の過去問は保管していないという。」ということだそうです。
ただ、これは、別に試験問題に限った話ではありません。試験問題の場合には最初の作成時点では著作権が効かず、後の複製になって効いてくるので特別な感じがしますが、そもそも企業内で他人の著作物を許可なくコピーやPDF化する(つまり、著作権法上の複製をする)行為は著作権侵害になり得ます(自炊サービスを使うか使わないかには関係ありません)。これは、会社による業務上の複製は著作権法30条の私的使用目的複製にあたらないというのが多数説であるからです(判例もあったりします)。
なので、たとえば、朝の会議で日経新聞の記事をコピーして配る行為は厳密に言えば著作権侵害です。コピーしないでオリジナルを回覧するようにするか、人数分の新聞を買うか、日経新聞の許諾を得なければなりません。ところで、なぜわざわざ日経新聞と書いたかというと他の多くの新聞は公益社団法人日本複製権センターに権利を委託しており、利用料を払っている企業は個別許諾することなく複製できるからです(JASRACと同じ仕組みです)。
入試問題に話を戻しますが、米国であればフェアユースとして認められてもおかしくないケースだと思います。現行の(特に日本の)著作権法とテクノロジーの乖離が露わになったまたひとつの例と言えるでしょう。