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日本に参議院は不要か?日本独特の「参議院不要論」の理由(一院制・両院制から考える)

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
ドイツ連邦参議院外観

参議院の選挙制度改革について公明党が1票の格差を2倍以内に抑える抜本改革が必要だと主張したのに対し、自民党は都道府県単位の選挙区を極力維持する考えを示しています。このまま一票の格差を放置し続ければ、参議院は世間から見放され、その先には「参議院不要」や「一院制」が現実味を増しかねないと思います。この「参議院の選挙制度改革」や「参議院不要論」について「民社ゆーす」元事務局長の西形公一さんにお話を伺いました。

「両院制」の意義は「多角度的な民意の反映」

明智 まず、自己紹介をお願いします。

西形 西形公一と申します。中高生のころから世界の議会を調べていましたが、下院のシステムが世界的に同じようなものでも上院のシステムが千差万別であることに気づいたのは、大学に上がってからでしょうか。その後、旧民社党の青年部にあたる「民社ゆーす」事務局長をしたのち、インド・タイ・ネパールと住んで、各国の議会の様子を比較観察したりしていました。本日はよろしくお願いします。

明智 では、「参議院不要論」のお話を伺う前に確認していきたいと思いますが、そもそも「両院制」とはなんでしょうか?

西形 「両院制」の意義は「多角度的な民意の反映」というのが本来の趣旨です。これは双方違った方法で選出されて構成される議院が存在することで様々な角度からの意見が反映されていき、より深い議論が出来るというものです。また「議会の多数派による専制の阻止」「どちらかの議院が存在する安定した議会政治」といった効果も生み出しています。

下院に相当する議院は基本的には、社会の多勢を占める市民階層の利害を代表しています。政治が異なる利害の調節を行なう作業である以上、市民階層で代表されるものとは別の視点からの利害を何らかの形で反映するメカニズムが存在しなければなりません。それは少数民族であったり、各地方の利害であったりします。社会が複数の民族から構成される場合や、異なる言語集団から構成される場合は特に重要になります。したがって、上院に相当する議院の選出メカニズムは下院に相当する議院とは異なっていることが好ましいのです。

近代議会制の母国であるイギリスが両院制を採用していることから、近代的な民主制議会は二院で構成されるのが当然であると考えられた時代もありました。しかし、第二次世界大戦後の新たな独立国は一院制を採用することが多く、また、かつて両院制だった国でも一院制へ移行するケースが増えています。立法に関しては下院に優越があり、上院に法案を否決する権利が無い、あるいは制限されていることが多いです。行政に関しては予算や条約の承認などで、どちらかの院にのみ決定権を与えている国が多いです(ただしアメリカ、ブラジル、メキシコ、フィリピンなど大統領制の国では両院がほぼ対等であるケースも多く、イタリアやスイスなど議院内閣制の国であっても両院が対等であるケースもある)。両院の異なる選出メカニズムをふまえ、その民意を適切に反映させるために役割分担がされています。

日本では、旧帝国憲法においては衆議院と貴族院は対等でしたが、現行の日本国憲法においては予算や条約批准において、また内閣信任不信任において衆議院に絶対的な優越が認められているほか、参議院が否決した法案でも衆議院の3分の2が賛成した場合は可決できる規定があります。ほかに国会法では人事承認において一部、衆議院の優越が認められているものがあります。

英国貴族院の「女王の座」
英国貴族院の「女王の座」

人口が多い日本には「衆議院」「参議院」の両方が必要

明智 一院制、両院制をそれぞれ採用している国はどこですか?

西形 一院制を採用する国には地域的な偏りが見られます。例えば、一院制を採用しているのは西欧やアメリカ大陸では殆どが人口1000万以下もしくは1000万強であるのに対し、アジアや旧共産圏では中華人民共和国をはじめとして人口に関係なく一院制を採用する傾向があります。小国が人口や財政などの観点から国の規模に見合った政府組織を目指し一院制とする場合が一般的ですが、連邦制をとらない単一国家においては、両院制にすべき必要性は小さいとも考えられます。

政治学者のアーレンド・レイプハルト(注)は、両院制を推奨する前提として、

  • 人口が多い
  • 連邦制である(アメリカ、ドイツなど)
  • 多民族国家である(カナダのケベックやベルギーのフランドル・ワロン等)

のうち二つ以上に当てはまる場合、と述べています。そして「日本は人口が多い」という条件しか当てはまらないため日本に参議院は不要であると結論付けています。

(注)レイプハルトは二大政党制や小選挙区制に特徴づけられる伝統的な多数決型(ウェストミンスター型)民主主義に対してコンセンサス型、多極共存型民主主義モデルを提唱し多党制と比例代表制を強く主張する政治学者。主著は『民主主義対民主主義』。

しかし、私は人口が多いだけでも意見の多様な角度からの反映が必要であると考えるので、あえてレイプハルトの意見に異を唱え、日本には両院制のほうが適しており参議院は必要であると考えています。今後、道州制が導入されていくなら準連邦制に移行していくとも考えられます。

このほか伝統的な「第二院は第一院と同じ意思決定をするのなら無駄である。また、異なる意思決定をするなら有害である」との不要論もあります。

日本では参議院不要論は衆議院議員から主張される事が多いです。そのことから、参議院不要論は単に「審議・採決の手間と時間を減らし、ときの政府与党・衆議院の議案を通しやすくしたいだけではないか」との批判も強くあるのです。

明智 ありがとうございます。後半では「参議院不要論」と、「参議院の選挙制度改革」についてお聞きしていきます。引き続きよろしくお願いします。

(つづく)

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西形公一(にしがた・きみかず)

1970年生。旧民社党全国青年部を引き継いだ「民社ゆーす」事務局長を経て、現在「AFEE エンターテイメント表現の自由の会」副編集長。池袋ロマンス通り商店会商店会副会長として地域づくりにも携わる。

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●諸外国の上院の例

(◆大統領制、◎議院内閣制、◇半大統領制)

◎日本(単一国家)

参議院(定数242)

…都道府県選挙区(146名)と全国比例区(96名)から直接公選。任期6年、3年ごと半数改選。

◎アイルランド(単一国家)

シャナード・エレン(定数60)

…首相による任命11名、5職能分野別間接選挙による選出43名、2大学の教授各3名で構成。多くの場合、下院の決定に反する決議をおこなうことはない。

◆アメリカ(連邦制)

元老院(定数100、各州2名)

…州を小選挙区とする直接公選、任期6年、2年ごとに3分の1を改選、権限は法案の可否はもちろん条約批准権や政府人事承認権など強力。

◎イギリス(連邦制と単一国家の中間形式)

貴族院(定数なし、時に1000名以上。現在は800名前後)

…世襲貴族、一代貴族(終身任命議員)、法服貴族など。実際には任命議員中心の専門家院となっているという意見が近年、強くなっている。任期なし。下院を通過した法案を一時停止できる。

◎イタリア(連邦制と単一国家の中間形式)

元老院(定数315+終身議員)

…比例代表制による直接公選。権限は下院と同じで内閣不信任も可能。元大統領と国家功労者は終身議員となる(現在は6名)。

◎インド(連邦制)

ラジャ・サバー(定数245)

…233名は州議会議員による間接選挙、12名は大統領(名誉職)が有識者の中から指名。任期は6年で、2年ごとに3分の1ずつ改選。

◆インドネシア(単一国家)

地方代表院(DPD、定数132)

大統領公選制導入により新設。33州から4名を基本に非政党ベースで公選。立法権はなく地域に関連する事項のみ。

◎オランダ(単一国家)

第一院(定数75)

…州議会による間接選挙、任期4年。第二院(下院)を通過した法案を拒否できるが、独自に提案することはできない。

◎オーストラリア(連邦制)

元老院(定数76)

…中選挙区移譲式(イギリス式比例代表制)による6州各12名、2連邦直轄地各2名選出、任期6年、3年ごと半数改選(ただし「二重解散」Double dissolution といい半数改選の原則に関わらず総員が解散対象になる場合あり)。内閣不信任はできないが、立法には積極的に参加。

◎カナダ(連邦制)

元老院(定数105)

…首相の意向により各州から総督が任命。75歳定年。形式的な資産用件(4千ドル)あり。

◎スイス(連邦制)・ここでは「◎」としたが、実際には議院内閣制より議会の権限が強い議会統治制。

全州院(定数46)

…「議会統治制」。20州から各2名、6半州から各1名を公選。任期4年。権限は下院と同じで強大。

◎スペイン(連邦制と単一国家の中間形式)

元老院(定数259)

…208議席は各県(おもに4名)を直接公選、51議席は州議会が選出。任期4年で実態は下院と同時選挙。直接公選では有権者はおもに3名(以下)に投票し、得票順に当選。独立機関の人事権あり。

◎スロベニア(単一国家)

国民評議会(定数40)

…職種等別間接選挙で選出され、任期は5年。地域から22名、非営利活動6名、雇用者・被雇用者・独立事業者各4名。立法権限は下院よりも弱く、諮問機関としての性格が強いが、国民投票(レファレンダム)を行うか否かの決断を下す権限を有する。

◎タイ(単一国家 #憲法停止前のもの)

ウッティサパー(定数200)

…各県を選挙区に個人を選出。全議員が無所属で政党党員は立候補できない。下院(人民代表院)を通過した法案を審議するが、法案提出権はない。独立機関の人事権がある。

◎ドイツ(連邦制)

連邦参議院(69票、州の人口により3票から6票)

…16の州政府代表で州閣僚が法案内容に応じて随時出席。基本法(憲法)の改正法案、および財政法案を含む州に関する法案に限って審議と議決を行う。通常、連邦参議院の審議と議決を必要とする法案は、全体の半数程度。

◆フィリピン(単一国家)

元老院(定数24)

…任期6年・3年ごと半数改選、全国区完全連記式で12名を選出。権限は強力。

◆ブラジル(連邦制)

連邦元老院(定数81)

…27の州・連邦区から各3名を公選、任期8年。4年ごとに3分の2、3分の1を交互に選出する。権限は下院とほぼ同等で強力。

◇フランス(単一国家)

元老院(定数348)

…地方政治家らによる間接選挙。任期6年、3年ごとに半数改選(かつて任期9年、3年ごとに3分の1改選)。諮問機関としての性格が強く、また農村部の地方政治家が多いので保守傾向が強い。

◎ベルギー(連邦制)

元老院(定数60、ほか王族3名)

…50名は地域および言語共同体から間接選挙、10名は言語別グループにより前記の議員が指名。任期5年で下院(および欧州議会)と同時に選挙。国王が任命する首相への信任不信任、予算審議はできず、提言機関に近い。

◎マレーシア(連邦制)

国民院(定数70)

…26名は13州議会が2名ずつ選出、44名は首相の助言により国王が各層から任命。任期3年、3選不可。

◆メキシコ(連邦制と単一国家の中間形式)

元老院(定数128)

…4分の3にあたる96議席が連邦区と州から各3名、残りが全国比例代表で公選。任期6年。閣僚の任免は大統領の独占的権限だが、司法相のみ上院の承認が必要。

◇ロシア(連邦制と単一国家の中間形式)

連邦会議(定数170)

…85の連邦構成体の議会が各1名を選任、同じく連邦構成体の行政府が各1名を推薦し連邦構成体議会の承認を得る。任期は選出母体による。首相の信任不信任はできないが、国防や治安、非常事態の権限は大きい。

(作成:西形公一)

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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