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澤円×倉重公太朗「あたり前を疑え」~軽やかに生きるヒント~第2回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

倉重:では次のテーマにいきたいと思います。

ご著書の中でも「0から1を生み出す生き方」と書いてあって、これは日本の高度経済成長期とこれからという話になってくるのかなと思ってます。

つまり先輩がやっていたことを真似して、拡大再生産、あるいは効率化してやっていこうという経済発展の仕方はもはや限界を迎えています。その中で新たな事業、サービス、ビジネスを生まなければいけないという中での、一人一人の働き方はどうあるべきかという話と理解しましたが如何でしょうか。

澤:0から1というのをいわゆるイノベーションという言い方をするのですけれども、日本というのはとにかく前例主義というか、例えば結構イノベーティブな、本当に出たばかり、この世に出たばかりのテクノロジーをお客さんに紹介すると、「それに対して事例はないの?」と聞かれることがあるのです。

倉重:ないからやっているんだよと。

澤:そうだし、事例があるということは、あなたはトップではないことを最初から受け入れるということなのですが、それでいいのですか、なのです。

倉重:先行者がいるということですね。

澤:そうです。わざわざそれをやるよりも、まず最初にやってみて、駄目ならすぐやめるほうが学びもあるし、なおかつうまくいけば圧倒的先行者になれるわけだから、そっちのほうがいいのではないかと思うのですが、やはり事例モンスターというのは非常に多いのです。

倉重:事例モンスターですね(笑)

澤:事例くれくれ君や事例モンスターなどという人たちが結構多いのは、失敗慣れしていないからなのです。

倉重:やはり減点法で評価されてしまうからですかね。

澤:そうです。失敗慣れしていないので、これはそういう意味で言うと、企業カルチャーとしては非常に難しい所ではあります。だから気の持ちようというか、失敗と定義しないというのが重要です。自分のチームメンバーに1人そういうのがいて、こいつすげえなと思うのですけれども、僕より年上の、全然先輩の人なのですが、わざわざ僕のチームメンバーになってくれた人がいるのです。

倉重:年上の方が澤さんのチームのメンバーになってくれたのですね。

澤:本部長だったのですけれども、その座を降りて立候補で、「マネジメントはもう飽きたから、あんたの部下にしろ」と、向こうから言って来てくれて、僕のチームに入ってくれて、部下兼メンターみたいな感じなのです。

倉重:部下兼メンター。面白いですね。

澤:いろいろな相談事ができる状態なのですが、その人が言っていたことで、少し面白かったのが、「私ね、失敗したことがないのですよ」と言うのです。少しこれは、これだけ切り取ると何か偉そうに聞こえませんか。

倉重:人生どれだけうまくいってきたんだと。

澤:ではなくて、「いや、失敗したことはないんだけれども、自分の思っていた結果と全然違ったことは何回もあります」と。失敗じゃないのですよ。それは学びなのです。

倉重:次につながればそれは失敗ではないという話ですよね。

澤:全然違ったというのが、普通の人であれば失敗したと思うのだけれども、その人はマインドセット的に非常にしなやかな反応の人なので、いつもにこやかに「ああ、全然違いました、いやあ、良い学びがありました」と。本人では失敗ではないのです。新たなパターンの創出というふうに言っています。

倉重:すぐ切り替えるのですね。最初描いていたものは違ったかもしれない。けれども違った方向に行くことによって、結果的により良い成果が得られたことであると。遠回りかもしれないけどかえって近道ってことですよね。

澤:そうです。だから一般的には失敗なのかもしれないけれども、違う結果が出てきたことによって、それをもうみんなはしないで済むよねという、さっき言った地雷を先に踏んでおくというやつです。そうすることで学びがあったので、だからこれ以外の手段を取れば成功確率が上がりますよねという話になります。まずは失敗を許容する、もしくは失敗を失敗と捉えないというマインドセットと、できれば制度です。

倉重:制度。人事評価制度などですね。

澤:そうです。そういうものも含めて。

倉重:やはり減点主義だとどうしても失敗しないように、しないようにとなりますからね。

澤:だから失敗というか、本来だったら求められている結果と違うものが出た場合に、それを学びとして受け入れる仕組みみたいなものがあると、すごく良いのではないかと思うのです。

倉重:むしろ新規事業などの新しいことを1年間何もやらなければマイナスだ、という会社もありますよね。

澤: 僕はマインドセットという部分が結構難しいのではないかと思うのですが、やはり日本の教育を受けていると、受験などがあって、就活などもそうですが、やはり人と比べておかしなことをしないだとか、間違わないとか、そういうことが大事に育てられてきたのではないかと思うのですが、澤さんはなぜそういう発想になったのですか。

澤:たぶん失敗しすぎてしまったということなのですかね。今まともにできたことが一つもないぐらいの感じでしたので、失敗続きなわけです。負け続き、失敗続きなので、受験は全部失敗していますし。

倉重:中学時代はいけてなかったということですね。

澤:いいえ、高校も大学も全然いけていないです。中学受験も一応したのだけれども、落ちて普通の公立校に行って、高校受験したら高校も落ちて滑り止めの高校に行って、大学も落ちて一浪というか、フリーターをしばらくやって、でもやはり大学行っておいたほうがいいと言われて、何となく大学に入ったという、そのような感じでずっときているのです。だけど結果的に高校は僕が卒業した後にすごい進学校に大化けして。

倉重:あの有名なところですね。

澤:そうです。なおかつ僕の勤めている会社の社長はそこの後輩だったという、後からこれは落ちがあるのですが、一個下の後輩だったのです。あ、こいついたと後から気付いたのです。そんな感じであったり、あと大学も大学で立教なのですが、入ってみたらまあまあ良い大学で、結果的にはいわゆる派閥とかそういったものとも無縁で、かつ誰でも知っている大学なので、とても気楽に卒業することもでき、そういう意味で言うと、結果的に全部失敗したかもしれないけれども、上手にリカバリーというか、違う形で活用ができている。

倉重:その当時はどうでしたか。例えば学生時代の澤さんのご心境というか。

澤:いや、ただ単にいじけていました。

倉重:やっぱりそうでしたか。

澤:全然上手にいっているという感覚はなくて、だから僕は全部年取ってからなのです。

倉重:それはどのようにして心境が変わったのですか。

澤:やはりこれは成功体験だよなと素直に受け取れるようになったのが30半ばぐらいからなのです。

倉重:それは何かきっかけが。

澤:何か大きなこれがきっかけであるというものが、いろいろなものが複合的なので、実はあまり思いつかないのです。ただ1個布石になったのが、高校の時のホームステイなのです。アメリカに1カ月だけホームステイに行ったことがあって、海外生活というのは僕にとってはそれが最初で最後です。後は出張ベースなので。そのときに違う価値観とか違う物の見方というのはありだというのを、何となく潜在意識にピッと置かれました。その後で僕の生きざまがガラッと変わったわけでも何でもないのですが、今考えると、あのときに海外の人たちで全く違う視点を持っている家族ができたということはやはり大きかったと思います。

倉重:種が植えられたのかもしれませんね。

澤:それが社会人になりました。ずっとポンコツのエンジニアでした。技術的には全くいけていません。だけれどもヒー、ヒー言って、技術をキャッチアップして、分からないなりにお客さんに説明したら、お客さんはもっと分からない状態だったので、あんたの説明は分かりやすいねと、ありがたくそれを聞いてくれました。俺は役に立っているのではないかと思い始めて、自分は必死に勉強して、自分が分かるように分解をし、その分解したものをお客さんに届けると、あんたの説明が誰よりも分かりやすいと言ってくれる。このサイクルになりました。

倉重:そうして成功体験を積み重ねていかれたと。

澤:そうです。

倉重:そこというのは、やはり澤さん自身がネガティブだった経験があるし、いけてなかった時代もあるからこそ、分からない人の気持ちが分かる所があるのではないでしょうか。

澤:そうです。一番手っ取り早く説明できるのはスキーなのです。僕はスキーのインストラクターなのですけれども、正指導員を非常に長い時間をかけて取ったのです。なぜかと言うと試験に一度も受からなくて、2級は10回受けたし、1級を取るのには7年かかったし、準指導員を取るのに6年かかって、正指導員の資格を取るのに4年かかったのです。こんなやつはいないですよね。普通は全部3分の1ぐらいで取れるのです。どれだけ失敗しているのだという話なのですが、その代わり指導員になってから教えたら非常に評判がいいのです。

 とにかく全部分かるので。なぜ今転んだか、全部説明してあげるね、と言えるのです。今ここでこの瞬間に怖いと思って、少し腰が引けて、力を入れたらそれでエッジに引っかかって転んだでしょうと、分かるよ、俺もずっとそうだったもんと、だからだまされたと思って、ここだけ我慢してとかとやると、1ターンができるわけです。できたでしょうと、もう1ターンやってみようとやると、割と午前中いっぱい教えると、大体普通に滑れるようになります。

倉重:やはりそこはパッとできてしまう人は、「グッとやってパッとやるんだよ」みたいな教え方になってしまう訳ですね。

澤:しまいに、「なんでできないの?」とかそんなことになります。「なんでできないか説明できたら苦労しねえよ」という話になります。

倉重:「そんなの分かんねえよ」という話ですね。

澤:だけど僕はそれが全部言語化できるのです。それはやはり圧倒的な違いだと思います。

倉重:それはどんな分野でも大事なことですよね。

澤:そうです。結局そうだと思います。

倉重:対お客さんとか、社会でもそうですけれども。

澤:結果、自分がエンジニアの世界では全然分からんちんだったというのもあるのだけれども、もう一個、これは特質として、僕が有利だったかなと思うのが、僕は新しい物好きなのです。新しい物に対して、取りあえず試してみようかなと思えるのです。だから結果、テクノロジーの世界ではこれは一番の武器なのです。

倉重:好奇心がなくなったら終わりですよね。

澤:終わりです。たぶんこれは研究とかそういう所もそうだと思うのですが、とにかく好奇心があって、新しいものを取りあえず試してみようと思えるかどうか。そうした人間というのは、結果的にいろいろな人に対してパワーを与えることができるのではないかなと思っているのです。例えばそれの一つが、織田信長さんなんていうのはたぶんそうだったのではないかと思うのです。

倉重:と言いますと?

澤:鉄砲が伝来してきたときに、それを戦争で使うというふうに彼はデシジョンしたわけです。舶来のものを使ってみようではないか。それまではたぶん槍とか刀とかで突いて、相手に穴ぼこを開けて勝つということで成功体験があったはずなのだけれども、取りあえずこちらのほうがうまくいくのではないかと試してみることをやりました。そろえてみてやったら連戦連勝だったということもあったと思うのですが、あれなんかも新しいものを取りあえずやってみようぜということをリーダーが決めて、実践で試してしまうという。

倉重:取りあえずやってみようの精神ですね。

澤:そうです。

倉重:ちょうど次のテーマにつながってきたのですが、自分を変えるという、澤さん自身も学生時代からまさかプレゼンの達人になっていると思わなかったと思いますが、自分は変わりたいと思っている人はたぶんたくさんいると思うのです。そういう人に向けたメッセージを本でも書かれたと思うので、そこのお話もいいですか。

澤:自分を変えるというのは、変わらなくてはいけないと、みんな変わらなくては駄目なのだと、別にそれを押し付けるつもりはないのですが、もし変わりたいなと思うのであれば、とにかくアウトプットを先にすることです。自分は変わりたい、こういうふうになりたい、あるいは、まずは人に会う、とにかく人に会いに行きます。いろいろな人に会って刺激を受けてくるということも大事です。あと身の回りに自分を変えてくれそうなインフルエンサーになるような人がいるのであれば、その人にとにかく近づいておきます。いろいろな話をその人から聞き、行動を共にします。いろいろなやり方があると思うのですけれども、そうした形で人に会うというのは非常に大事だと思います。

 例えば今回はYahoo!さんにお邪魔しているので、孫正義さんのお話をしますと、あの人は高校生の時に日本マクドナルド社長の藤田田さんのところに突撃で会いに行っているのです。やはりそういうことをやっているんですね。

 だから会いに行くというのは非常に大事です。相手が時間を取ってくれるかは別です。だけど行動するかどうか。どうせ別に失うものは何もないので。

倉重:孫さんも、学生時代ではまだ「何かしようと思っただけの人」ですが、実際に行動するとなるとそれが出来る人は少ないでしょうね。

澤:会いに行くだけだったら、別にいいかなと思うのです。それは身近な人でもよくて、そうした人に対してとにかくアウトプットをします。ただ単にくれくれ君でやるのではなくて、まず自分が何かを、私はこういうことを考えているのだけれども、いかがかということで、何かぶつけるものを用意して、それをぶつけにいくというのが大事ですね。

倉重:アウトプットというのは、何か本を書けとか、プレゼンをやれというレベルでなくても、もうこうしたいのだという、まず思いをはき出すのでもいいのですね。

澤:そう!それをTwitterでも何でも構わないので、それをアウトプットします。アウトプットするというのは、何が大事かというと、言葉にするということができるので、再現性が出るという、そうしたプロセスになるわけです。

倉重:SNS時代は、実際に言語化すると、誰かに伝わっていって、必要な人が巡り合ったりとかというのがありますよね。

澤:だからTwitterの良い所というのは、やはりその140文字という限定されたエリアの中で、何かのワンセンテンスを考えるというそのトレーニングになるので、言語脳が非常に鍛えられるのです。

倉重:困ったらとりあえずTwitterをやってみると。

澤:Twitterをやってみるというのはいいのではないかと思います。

(第3回へつづく)

澤 円(さわ まどか)

立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、外資系大手IT企業に転職。 ITコンサルタントやプリセールスエンジニアとしてキャリアを積んだのち、2006年にマネジメントに職掌転換。

幅広いテクノロジー領域の啓蒙活動を行うのと並行して、サイバー犯罪対応チームの日本サテライト責任者を兼任。

現在は、数多くのスタートアップの顧問やアドバイザを兼任し、グローバル人材育成に注力している。

また、美容業界やファッション業界の第一人者たちとのコラボも、業界を超えて積極的に行っている。

テレビ・ラジオ等の出演多数。

Voicyパーソナリティ

琉球大学客員教授。

Twitter:@madoka510

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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