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英国を悩ますコロナ禍のエネルギー高騰と増税による生計費危機(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
1月末、官邸パーティー疑惑巡り下院で答弁するジョンソン首相=英スカイニュースより

コロナ禍の世界的なサプライチェーンのボトルネック(制約による品不足)によるインフレ急加速や最近のウクライナを巡る東西冷戦の再燃で、天然ガスや原油価格が急騰し、英国では4月からガス・電気料金の末端価格の上昇に加え、増税が貧困世帯の家計費を直撃する。貧富格差が拡大し、新たな社会問題の火種となり、ジョンソン首相の早期退陣論が日増しに高まっている。

英有力紙サンデー・タイムズは1月5日付で、新年の経済予測を発表し、「共通テーマは少なくとも今年前半、英国は生活費の高騰の危機(生計費危機)に陥ることだ。消費者物価指数はすでに年率 5%上昇(昨年12月は5.4%上昇)を超え、今後はさらに加速する」と警鐘を鳴らした。

生計費危機の最大の原動力はガス・電気などのエネルギー料金の高騰だ。4月から政府はエネルギー料金の価格抑制上限(キャップ)を50%超引き上げるため、インフレ率は4月には前年比7.25%上昇にまで押し上げられる見通しだ。また、キャップ引き上げによる家計のエネルギー関連支出額は1世帯平均で年間700ポンド(約11万円)増加し、全国では180億ポンド(約2.8兆円)となる。

生計費危機のもう一つの大きな要因は高インフレだ。インフレ上昇による賃金引き上げがインフレをさらに加速させるという懸念が英国を襲っている。イングランド銀行(英中銀、BOE)の元首席エコノミスト、アンディ・ハルデーン氏は1月5日付タイムズ紙で、「賃金と物価が蛙跳びゲームを始めれば、1970年代と1980年代に見られた賃金・物価スパイラルに陥る」とし、いわゆる「第2ラウンド効果」(賃金上昇によるインフレ加速)を警告。

英コンサルティング会社キャピタル・エコノミクスのロジャー・ブートル会長も英紙デイリー・テレグラフ(1月2日付)で、「今の物価圧力の背景には、タイトな雇用市場(労働者不足)と最近の力強いマネタリー・グロース(BOEによる市場への流動性供給)がある。この状況下では、一回限りのはずの供給サイドからの物価上昇圧力が簡単に一般化し、賃金のより速い引き上げにつながり、第2ラウンドの物価急騰を促す。今、このプロセスが始まっている」と指摘する。

貧富格差の拡大

これに加えて、4月からの国民保険料の120億ポンド(約1.9兆円)の引き上げなどの増税が貧困世帯に追い打ちをかけるため、貧富格差が広がる懸念がある。「2015年の保守党政権は所得税控除と課税最低限の引き上げにより、生活水準の悪化を緩和した。しかし、今のジョンソン政権は所得税控除と課税最低限を4月から凍結するため、快適さはなくなる」(タイムズ紙のデイビッド・スミス経済部長)。

英金融専門サイトの「マネー・セービング・エキスパート」を主宰するマーチン・ルイス代表は1月4日付テレグラフ紙で、「我々は今、暖かく過ごすか、食べ物を優先するかを選択する必要がある人々をどのように保護できるかを検討すべきだ」と、生計費危機に見舞われる貧困世帯の苦境を指摘する。

エネルギー問題の専門機関コーンウォール・インサイツによると、家計のエネルギー請求額は現在の価格上限の下では年間1277ポンド(約20万円)だが、改定後は年1865ポンド(約29万円)に46%上昇する。また、世界的なエネルギー価格の大幅下落がなければ、今年8月の次の改定時には年2240ポンド(約35万円)に急上昇すると予測する。

英国経済への政治リスク

英国経済への政治リスクが台頭している。首相退陣の可能性だ。4月からの増税に保守党内からすでに反対の狼煙が上がっている。保守党幹部の一人で、議会運営のかなめ的存在であるジェイコブ・リース・モッグ院内総務は1月6日の閣僚会議で、国民保健サービスと社会的ケア(高齢者介護)への政府支出の急増を相殺するために計画された源泉徴収税の1.25%の増税案の撤回を提案した。(『下』に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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