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【テレビ日記】「シャーロック」がいよいよ始まった

小林恭子ジャーナリスト
(「シャーロック」の登場人物たち -BBCのウェブサイトより)

年末に一ヶ月ほど滞在した日本で、英国のテレビについて話す機会があった。視聴環境や規制などについて話したけれども、実際にその国に暮らしてみないと、本当のところは分かりにくい。特に、どんな番組があって、どんな評価を得ているのかなど。

そこで、自分のメモもかねて、テレビやラジオの視聴日記を(時折)つけてみようと思う。

1月1日:「シャーロック」

2010年にBBCで始まったドラマの第3回目のシリーズ(エピソード3)だ。

作家アーサー・コナン・ドイルによる、探偵シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険シリーズ(1887-1927年)を現代風にアレンジしたもので、日本でも根強いファンができている。

電車の中でアイデアが生まれた

シャーロック・ホームズの話はこれまでにも何度かドラマ化されている。もっとも著名なのは、ジェレミー・ブレットが主役となったホームズものだろう。今でもこちらでは、よくテレビで再放映されている。ビクトリア朝のロンドンの雰囲気が出ていて、私自身、つい見てしまう。

現代版「シャーロック」誕生のアイデアは、二人の脚本家が電車に乗っていたときに生まれたという。

子供向けSFドラマで「ドクター・フー」という番組が非常に英国で人気なのだが(これも何度もテレビドラマ化されている)、これの台本を書いているスティーブ・モッファとマーク・ゲイティスはロンドンと撮影場所のカーディフとを電車で行ったりきたりしていたという。

車内の会話で二人ともがホームズのファンであることが分かり、何とかドラマ化したいと考えたーこれがそもそもの始まりだった。

といっても、昔風にするのではなく、現代に生きる私たちにとって身近なドラマとして作ろうと思ったようだ。

2010年7月の最初のエピソードを視聴したとき、そのテンポの速さ、テクノロジーの格好いい使い方、主演ベネディクト・カンバーバッチの鋭さに、飛び上がって踊りたくなるような楽しさやスリルを感じたものだ。ただ、あまりにもテンポが速くて、1回では意味が分からず、何度も見逃しサービスで見ることにもなるのだけれども。

今年のエピソードは?

前回までを見た人なら、最後、ホームズが死ぬ場面で終わっていたことを思い出すだろう(シャーロック・ホームズは「ホームズ」と呼ぶのが日本語では普通と思うので、以下、ホームズ)。

しかし、ドラマの主人公が亡くなってしまってはシリーズは続かない。もちろん、ホームズは死ななかったのである。

それでは、一体どうやって生き延びたのだろう?これが大きな謎だった。

この謎解きが、今回、最大のお楽しみだった。私自身はここでその謎解きをするつもりはない。

といっても、これを読まれているあなたが、どこかでほかの人が書いた文章で結論を知ってしまったとしても十分にドラマは楽しめるので、あまり心配する必要はないが。

この日の放送を900万人を超える視聴者が見たそうだ(ちなみに英国の人口は日本の半分。通常、視聴率ではなく、xxx万人が見た・・・という形で人気度をはかる)。

放送後の評価はさまざまだったが、私の印象としては、全3回の中の初回となった今回はいわば助走に見えた。ホームズとワトソンの友情の行方にじっくりと時間がかけられていた。

ホームズと兄のマイクロフト(脚本家のゲイティスが俳優としても登場。非常にうまい)のかけあい、ホームズが自分が死んでいないことをワトソンに伝えるときのレストランでのしぐさ、ホームズの「変身」など、これまでのエピソードを見てきた人なら、二重三重に楽しめる場面がいくつもある。

台詞も「わかる人にはわかる」ような楽しみがあって、おもしろいー例えば、女性に「あなたって、人間関係がまったく駄目な人ね」といわれたホームズが、「関係―?駄目だな」、「人間―(これも)駄目だな」など(ホームズは人間のあたたかみ、心の機敏などが分からない人物として描かれている)。

少し余談になるが、映画「眺めのいい部屋」を覚えているだろうか?主人公ルーシーの弟役を演じていたルパート・グレイブスが中年の刑事役で出ている。月日の経過に感慨を覚える。

カンバーバッチやワトソン役のマーティン・フリーマンのファンには別のお楽しみもある。両者に個人的に近い人物が登場しているのだ。さて、誰が誰でしょうー?

来週もまたテレビの前にかじりつくことになりそうだ。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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