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【JAZZ】SOLO-DUO『YESTERDAY ONCE MORE』はコーラス革命の瞬間冷凍パック

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家
SOLO-DUO『YESTERDAY ONCE MORE』
SOLO-DUO『YESTERDAY ONCE MORE』

話題のジャズの(あるいはジャズ的な)アルバムを取り上げて、曲の成り立ちや聴きどころなどを解説します。今回はSOLO-DUO『YESTERDAY ONCE MORE』。

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SOLO-DUOはギラ・ジルカと矢幅歩のヴォーカル・デュオ・ユニット。彼らが2006年に出逢ったエピソードはまさに“天のお導き”としか言いようがないのだけれど、まだ知らない人はぜひライヴに足を運んで、彼らの口から直接その話を聞いて感動してほしい。ライヴに足を運ばなければならない理由がもうひとつある。それは、このアルバム『YESTERDAY ONCE MORE』がライヴ会場のみでの限定販売であることーー。

ソロのぶつかりあいが共振したレア・ケース

コーラス・ユニットというのはなにを目的としているのだろう? お互いの足りない部分を補って1つのコーラス・アンサンブルを完成させるというのでは物足りない。それぞれの声を積算することでひとりの人格では表現できないヴォーカル・スタイルへ到達できるからだと言われれば、そんなような気もする。しかし、ギラ・ジルカと矢幅歩を観ていると、補完や積算という言葉からはほど遠い波動が伝わってくる。それは、それぞれソロ・ヴォーカリストであることと関係しているのかもしれない。完成された声と声がぶつかっているにもかかわらず、それが喧嘩せずに共振している。無二の親友という出逢いがあるのならば、彼らは無二の“声友”と呼ぶべきではないだろうか。

“足るを知”っているからこそのシングルCD

SOLO-DUOは2008年に2曲入りマキシ・シングル(「Suddenly A Love Story(ラブストーリーは突然に)」「Twinkle Twinkle Little Star(キラキラ星)」)、2013年に5曲入りミニ・アルバム『brething…』をリリース。今回も3曲+カラオケ2曲というシングル仕様で、無理にフル・アルバムを作らないというスタンスを貫いている。これもまた、声と声をぶつけあうパフォーマンスゆえの配慮ではないかと思う。というのも、引いたり割ったりしたタイプのコーラスでは硬軟とりまぜたヴァリエーションをそろえやすかったりするのだろうが、ある一点の調和にフォーカスするSOLO-DUOではヴァリエーションを披露することに意味はないと感じるからだ。もちろんそれぞれソロ・パフォーマーとしての実績があるのだから、あと数曲録音しようと言われれば問題なくそれなりのレヴェルのパフォーマンスを披露してくれるだろう。しかし、それではSOLO-DUOではなくなってしまう。それがわかっているからこそのシングル仕様に違いないのだ。

そして今回、初めて収録されたカラオケにも要注目。SOLO-DUOのライヴを観ると、自分も気持ちよくなって、一緒にハモりたくなる人が多いようだ。そんなニーズを反映してカラオケ収録となったのかもしれないけれど、まずは日本のジャズ/ポップ・インストゥルメンタルのトップ・ミュージシャン2名、竹中俊二(ギター)と中村健吾(ベース)の演奏をジックリとヴォーカルなしで味わってほしい。そしてそのあと、SOLO-DUOになったつもりで存分に歌ってみよう。カラオケ店のカラオケと違ってプロの演奏で歌うことの難しさを体験できるというのも、このアルバムならではの楽しみになっていると思うので……。

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♪introducing...SOLO-DUO "breathing..."

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音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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